【指導参考事項】
1.課題の分類  牛 家畜衛生
2.研究課題名  北海道における乳牛の健康指標作成に関する試験
3.期   間  昭和55〜59年
4.担   当  滝川畜試衛生科・草地飼料作物科
5.予   算  道 費
6.協力分担  家畜保健衛生所

7.目  的
 乳牛の生産病は年々増加の傾向にある。これらの疾病を予防するため、予防獣医学的立場より、乳牛群の血液成分から飼養管理上の問題点を見つけ出そうとするメタボリック・プロファイル・テストや個体別に乾乳期の血液成分から分娩後の疾病を予測する試みがなされている。本報告は道内9地域から得られた広範なデータをもとに、血液成分の標準値を作成するとともに、乳期、年齢、地域および泌乳能力による違いを検討し、血液成分を解釈する上での資とする。

8試験方法
1.北海道における乳牛の血液成分の標準値および度数分布
 採材時期:昭和55年〜57年 7〜10月  対象牛:道内9地域(ニセコ・千歳・芦別・幌加 内・天塩・枝幸・帯広・北見・別海)42農家から得られた健康な経産牛1247頭
2.血液成分の乳期、年齢、地域差の検討
3.高泌乳牛と低泌乳牛の血液成分値の比較

9結果の概要
1.乳牛の血液成分の標準値は表1に示す通りであった。標準値の範囲は乳牛群を血液成分で評価する場合には平均値±1.3SDあるいは2SD、個体診療でいわゆる正常値として利用する場合には平均値±2SDが用いられているので、各々の範囲を示した。
2.各血液成分の度数分布は正規分布に近いものであった。
3.乳期により血液成分の違いがみられたのは血球容積、血糖、GOT、総コレステロールであった。血球容積は泌乳前・中期やや低かった。血糖は分娩後1ヵ月未満低かった。GOTは分娩後1ヵ月未満高く、乾乳期はやや低かった。総コレステロールは泌乳中期183mg/dLと高く、乾乳期109mg/dLと低かった。
4.年齢により血液成分の違いがみられたのは総蛋白とグロブリンで加齢とともに高くなった。高齢により若干の低下がみられたのは血球容積、アルブミン、カルシウム、リン、マグネシウムであった。
5.地域による血液成分の違いはすべての項目にみられた。そのうち、尿素窒素のバラツキがもっとも大きく、採血時ゲントコーンの給与量の多かったニセコ、千歳、帯広で低かった。しかし、その他の項目では畑作型地域と草地型地域との間に一定の傾向がみられなかった。
6.高泌乳牛は低泌乳牛に比べ、アルブミン、リンが全乳期やや高かった。総コレステロールは泌乳期高かった。血糖は泌乳前期やや低かった。

10.主要成果の具体的数字
表1 乳牛の血液成分の平均値、標準偏差(SD)および標準値の範囲
項      目 単位 平均値 SD 平均値
±1.3SD
平均値
±2SD
血 球 容 積 % 32.4 3.2 28.2〜36.6 26.0〜38.8
総  蛋  白 g/dL 7.66 0.66 6.80〜8.52 6.34〜8.98
ア ル ブ ミ ン g/dL 3.60 0.38 3.11〜4.09 2.84〜4.36
グ ロ ブ リ ン g/dL 4.06 0.70 3.15〜4.97 2.66〜5.46
尿 素 窒 素 mg/dL 14.0 4.7 7.9〜20.1 4.6〜23.4
血      糖 mg/dL 57.9 5.9 50.2〜65.6 46.1〜69.7
G   O   T I.U. 60.7 18.5 37〜85 24〜98
総コレステロール mg/dL 159 47 98〜220 65〜253
カ ル シ ウ ム mg/dL 9.63 0.66 8.77〜10.49 8.31〜10.95
リ        ン mg/dL 5.25 0.90 4.08〜6.42 3.45〜7.05
マグネシウム mg/dL 2.20 0.30 1.81〜2.59 1.60〜2.80

表2 乳期別血液成分の平均値
項   目 前期 中期 後期 乾乳期
血球容積 31.2 31.5 33.0 33.5
血   糖 55.7 57.8 58.8 57.8
G O T 65 64 60 53
総コレス
テロール
163 183 164 109

表3 年齢別血液成分の平均値
項目   4〜5 6〜7 8〜才
総蛋白 7.41 7.65 7.78 8.06
グロブリン 3.82 4.00 4.22 4.59

表4 地域別血液成分の平均値
項   目 ニセコ 千歳 帯広 その他
尿素窒素 8.2 10.6 11.1 15.3

表5 泌乳能力別血液成分の平均値
項目 8000kg≦ 6〜8000kg 6000kg>
アルブミン 3.71 3.61 3.59
グロブリン 3.96 4.13 4.28
総コレス
テロール
168 163 147
リン 5.51 5.28 4.98

11.今後の問題点
 1.乳牛の健康指標として、血中ケトン体、遊離脂肪酸、微量ミネラル、ビタミンおよび乳成分も加えていく必要がある。
 2.季節、飼養法の違いが血液成分に及ぼす影響を検討する。
 3.本報告で作成した標準値をもとに、生産病予防のため、メタボリック・プロファイル・テストの応用をはかる。

12.普及指導上の注意事項
 1.血液成分はさまざまな要因により変化することが考えられる。本報告では乳期、年齢、地域、泌乳能力による違いを検討しているので、標準値を用いる場合の参考にされたい。特に、尿素窒素は飼養条件により、総コレステロールは乳期により各々大きく異なるので注意を要する。
 2.血液成分の分析値は分析法や実施者により異なることが考えられるが、コントロール血清の利用などで分析の正確さを保つことが大切である。