課題の分類 豚 家畜衛生 研究課題名 豚のヘモフィルス性肺炎の防除に関する試験 期 間 昭和54〜58年 担 当 滝川畜試衛生科 予算区分 道 単 協力分担 な し |
目 的
近年多発傾向にあるヘモフィルス性肺炎の発症機序を解明し、有効な防除法を検討する。
試験方法
Ⅰ.発症例の調査・解析
Ⅱ.発生要因の解明
1.Haemophilus pleuropneumoniae(Hp)の病原性と豚の日齢感受性
2.病態生理学的研究(DICの検討)
Ⅲ.予防試験
1.母子免疫による予防
2.薬剤による予防
試験成果の要約
1.本道においても甚急性の経過をとる豚の胸膜肺炎が発生した。原因菌はHp2型と同定された。感染耐過豚の発育成績は著しく低下した(表)。
2.病変は主として胸腔に存在したが、敗血症死の転帰をとるものがあることが細菌学的・病理学的に証明された。
3.肺の肉眼病変は出血性梗塞の散発する出血性胸膜肺炎像を呈した。やや経過の長びいた例では壊死領域(梗塞)と水腫領域とでモザイク様を呈した。耐過例の陳旧病巣は被のう膿瘍状ないし瘢痕性結節病変であった。陳旧病巣ではPasteurella multocidaが優勢することが多かった。
4.組織学的には全身に血栓形成が見られ、肺の梗塞性病変は全身の血栓形成すなわち播種性血管内凝固(DIC)によるものと考えられ、その原因にHp菌内毒素の関与が推定された。
5.分離菌を気管内接種すると、104個以上で肺病変を形成し、106個以上で斃死するものが多くなった。斃死豚の中には急激なショック症状を呈して死亡するものがあり、ここでも内毒素の関与が示唆された。また豚の日齢によって感受性に差があるように思われた。
6.Hp菌の温フェノール・水抽出物(内毒素)の静脈内接種でショックが起り、その病態はDICであった。しかし肺に梗塞性病変を再現できなかった。また実験感染例でも凝血学的にDICが伺われた。
7.母豚を免疫して得られた初乳中のCF抗体価は1:64であり、これを吸飲した子豚の実験感染では移行抗体による防禦効果は認められなかった。
8.発生早期に抗菌剤を全身的に投与すると、一般症状は急速に改善され、一週後には呼吸器症状も見られなくなり、斃死を阻止できた。Hp汚染豚群への抗菌剤の飼料添加による治療ないし予防効果は確認できなかった。オールアウト後にはHp感染症の発生は見られなくなり、SEP病変も減少した(図)。
主要成果の具体的内容
表 集団発生豚舎における肥育成績
3.30日時体重 | 90Kg以上 | 90〜75Kg | 75〜60Kg | 60〜45Kg | 45〜30Kg | 30Kg以下 |
3.30〜4.13日 1日平均増体重(g) |
659.2※ | 301.0 | 375.0 | 528.6 | 478.6 | 593.2 |
30〜90kg 1日平均増体重(g) |
818.1 | 678.1 | 702.3 | 743.5 | 761.7 | 884.0 |
飼料要求率 | 3.90 | 3.90 | 3.79 | 3.47 | 3.56 | 3.35 |
図 発生状況と防除対策
今後の問題点
1.感染耐過豚が保菌していて感染源となることが考えられるが、その保菌部位と保菌期間の解明。
2.薬剤耐性株の出現の報告もあり、また動物用医薬品の使用基準で規制されつつある現在、より有効なワクチンの開発と免疫プログラムの作成が必要。
3.Hp感染に起因する播種性血管内凝固(DIC)への対症療法の検討
普及指導上の注意事項
1.Hp感染症は畜舎疫として常在化し易いので、導入に当っては導入先の疾病発生状況および導入時の衛生管理に注意して、豚と共に病原菌を豚舎へ持ち込まないことが重要である。
2.畜舎疫として常在化し、病豚あるいは保菌豚から新規導入豚に感染が持続して見られるようになった豚舎では、清浄化の基本に帰ってオールアウトし、畜舎消毒と空合期間をとる必要がある。
3.Hp感染症を始めとする多くの疾病は飼養管理の悪化によるストレスで発病が誘発され増悪されるので、粗雑な扱い、密飼い、換気不良による粉塵・アンモニアガスの充満などをできるだけ避ける。