【指導参考事項】
寒地ハウスの土壌管理指標について
Ⅰ.養分蓄積レベルに対応したハウス管理のための指標策定
Ⅱ.堆肥施用に対応した土壌管理指標の策定
道南農試土壌肥料科
目 的
道内のハウスにおいても、養分の過剰蓄積の恐れがあり、特にN・塩基の過剰蓄積は濃度障害、ガス障害など直接的障害をひき起こし収量を時には皆無とするのみならず、土壌中の養分バランスの乱れによる桔坑阻害から各種生理障害による品質低下も認められ、その対策が急務となっている。一方、ハウス農家の堆肥施用量は多く、時には養分過剰の一要因となり、適正な有機物管理が求められている。しかも、これらハウスにおける養分過剰蓄積は、非常に変異に富んでおり、一律な対応では処しきれない。そのため、養分蓄積状況に対応したハウス管理指標および、ハウスに対する有機物管理指標の策定を試みた。
試験方法
Ⅰ.養分蓄積レベルに対応したハウス管理のための指標策定
①実態調査:11地区計704農家のハウス土壌を採取・分析し、併せ聴取り調査を行なった。
②各種野菜の耐塩性の検定(58〜60年、場内試験)
N4段階(10、15、30、50㎏/10a)の連用施肥条件で、野菜の耐塩性(耐EC性)を比較検討した。供試作物は、9作物(12作)である。
③混層処理試験(60年、場内試験)
上記②試験区の1/2を混層ローターにより、45㎝程度まで混合した。
④N集積に対応した土壌管理法試験(58年、現地試験)
試験地:大野町東前、土壌:無機質表層泥炭土、供試作物:ハクサイ(5月どり)
処理 農家慣行施肥区、減肥区、無肥料区、除塩区等、計7処理
⑤ビニール被覆除去・雪利用除塩及ぴ、溶脱量調査(59〜60年、現地調査)
(雪利用除塩)大野町内8カ所の農家ハウスを除雪前ビニール被覆を除去し、雪にさらした。ビニール被覆除去時と、被覆・融雪後に作土層の土壌を採取分析した。
(溶脱量調査)大野町内10力所の農家圃場に、シリンダーを埋設し、水の浸透量を測定すると伴に、自然降雨条件および、かん水条件下で添加Nの減少量を測定し、土壌タイプと溶脱量の関係を検討した。
⑥高pHこ対応した土壌管理法試験(59年、現地試験)
試験地:大野町開発 土壌:褐色低地土 供試作物:ホウレンソウ2作 8月どり「クレメント」「力士」、9月どり「ソロモン」
処理:農家慣行区、無肥料区、硫黄施用区等、計8処理
Ⅱ.堆肥施用に対応した土壌管理指標の策定
①実態調査:8地域104農家にアンケート調査および、土壌分析を行なった。
②枠試験(56〜59年、場内試験) 1区1㎡ 2連制
処理:土壌3(新畑、経年畑少肥系列、経年畑多肥系列)×堆肥3(0、4、10t)の部分組み合せ
③圃場試験(58〜60年、場内大型ハウス) 1区14㎡ 2連制
処理:施肥系列2(N、K)×施肥処理3(減肥、標肥、多肥)×堆肥3(0、4、10tの組み合せ
④参考圃場試験(50〜55年、場内大型ハウス) 1区8㎡ 2連制
処理:施肥処理2(少肥、多肥)×堆肥4(0、2、4、10t)
⑤枠カリ用量試験(57〜59年、場内試験) 1区1㎡ 2連制
処理:(堆肥10t)×施肥処理3(K標肥、K半肥、K無施用)
供試堆肥は、農試産の稲ワラ(牛ふん)堆肥であり、その成分を下に示す。(現物中%)
C | N | C/N | P2O5 | K2O | CaO | MgO | 水分 | |
平均値 | 5.56 | 0.36 | 15.5 | 0.21 | 0.60 | 0.49 | 0.18 | 72.9 |
CV% | 15.2 | 20.7 | 12.8 | 45.0 | 44.3 | 50.4 | 21.7 | 13.1 |
試験結果の概要
Ⅰ.養分蓄積レベルに対応したハウス管理のための指標策定
1)全道のハウス土壌の養分蓄積状況はN集積が著しく、濃度障害による生育抑制が認められた。また、塩基蓄積の結果、高pH・アルカリ土壌が出現し、リン酸も多量に貯っていた。
2)養分蓄積は地域性があり、一方、利用形態としては周年利用ハウスにおいてN集積が著しいが、夏利用型のハウスでは、N集積はあまり激しくなかった。
3)養分蓄積の進行は、単に量的な増加のみならず、土壌化学性に質的な変化をもたらしていた。例えば、塩基飽和度が100%超える領域において、水溶性塩基が多量に存在し、石こうの存在が確認され、飽和度とpHの間に一定の傾向が認められなかった。
4)各種野菜の耐塩性(耐EC性)を検討し、Ⅰ群野菜(耐EC性の最も弱い野菜)、ハクサイ、レタス、サントウサイ、(ミツバ)、(イチゴ)と、Ⅱ群野菜(耐EC性のやや弱い野菜)、ホウレンソウ、シュンギク、コマツナ、(キュウリ)、Ⅲ群野菜(耐EC性が比較的高い野菜)、トマト、エダマメ、ピーマン、(ナス)に群別した。
5)簡易な除塩法である表土排土、稲ワラスキ込み、混層処理は、比較的EC値が高くたい段階では一応の効果が認められ、濃度障害を回避し、収量も高め得た。
6)ビニール被覆除去・雪利用による除塩効果は、N03-Nを中心に一部、Kに対して効果が予測される。その折、溶脱しやすい土壌タイプほど、効果が期待され、また、塩基(Ca、Mg)は蓄積量が多く、塩基飽和度が高い程、除塩された。
7)耐EC性による野菜の群別および、簡易除塩法(表土排土、冬期間ビニール除去、混層)を含めての組立てによって、EC値に対応したハウス管理指標を策定した(第1図)。
8)野菜畑のpHの土壌診断基準値は60〜6.5であり、これを超える高pH土壌では、生理障害の発生(ハクサイ)や、収量低下(キュウリ)が認められた(第2図)、一方、そのような高pH土壌に対するMnS04やFTEの施用効果が認められ、対策として有効と判断した。
9)一般野菜と好石灰野菜と群別し、土壌pHに対応したハウス土壌管理指標を策定した(第3図)。また、EC上昇に伴うpHの低下を考慮し、pHの補正を試みた(第1表)。
Ⅱ.堆肥施用に対応した土壌管理指標
1)アンケートによる実態調査の結果、ハウス野菜栽培農家の73%が堆肥施用を行ない、その平均施用量は10a当り7.2tに達した。また、堆肥施用農家のうち、堆肥施用により、施肥を減らす農家は12%しかなく、残り88%は同じか、逆に増肥すると答え、堆肥に対し、肥料的効果をあまり期待していないことを示唆するものと思われた。
2)堆肥施用の効果を場内試験により明らかにした。すなわち、増収効果(第2表)は明らかであり、その効果は養分供給やpH上昇、CECの増大たど化学性の改良効果(第3表)、固相率の低下、気相の増大、有効水保持力の増加たど物理性の改良、また、微生物的効果として、硝酸化成速度の向上によったものと考察した。なお、堆肥施用の総合的効果として、植物根の生長促進が確認された(第4表)。
3)堆肥多量連用の問題点として、特定養分(N、Kなど)の過剰蓄積と、それに伴う養分バランスの乱れによる作物体内成分の変化が考えられた。これらの結果を総合的に勘案して、ハウスに対する堆肥連用量は、年間4t/10aが適当とみなした。
4)堆肥中のKの約85%は水溶性カリであり、施肥カリと同様の効果が予測された。また、堆肥多投に伴う土壌中K含量の増加は置換性K量に反映していた。
5)堆肥施用時の必要性を確認し、ハウス野菜栽培におけるK施肥指標を提示した(第5表)。さらに、一歩進め、カリ蓄積量と堆肥連用条件に対応した土壌管理指標を策定した(第6表)。
6)堆肥施用(連用)により、土壌の全N量が高まると共に、熱水抽出性N量および、培養による無機化N量の増加が認められた。
7)稲ワラ堆肥中のNの無機化率は、1作目の期間で、10%程度と想定され、1年間としては、施用堆肥の25%程度が無機化すると推定された。なお、堆肥連用に伴い堆肥中Nの無機化量は順次高まっていった。
8)堆肥連用ハウスにおけるN施肥量を策定した。すなわち、堆肥4t(年間)施用条件では、標肥で対応する。なお、10t施用時2年目までは、標肥、そして3年目以降は5kgの減肥とした(第7表)。
主要成果の具体的データ
Ⅰ.養分蓄積レベルに対応したハウス管理のための指標策定
第1図 EC値に対応したハウス管理指標
第2図 pH・ECとハウス・キュウリの収量
第1表 EC値の変動に対応したpHの変化量
土 壌 別 |
土壌別 | CEC me/100g |
EC値の変化に対応 したpHの変化量 |
pHのEC値による補正 | |
0.5 | 1.0 | ||||
沖 積 土 |
森・濁川 | 10.7 | -0.60 | - | pH=pH+1.2EC △EC1.0:△pH1.2 |
厚沢部・富栄東 | 17.0 | -0.30 | -0.65 | pH=pH+0.7EC △EC1.0:△pH0.65〜0.70 | |
大野・本町 | 19.1 | -0.35 | -0.70 | ||
厚沢部・当路 | 20.9 | -0.35 | -0.70 | ||
火 山 性 土 |
夕張 | 9.3 | -1.05 | - | pH=pH+2.0EC △EC1.0:△pH2.1 |
伊達 | 13.4 | -0.45 | -0.90 | pH=pH+1.0EC △EC1.0:△pH0.9〜1.1 | |
厚沢部・共和 | 13.5 | -0.50 | - | ||
壮瞥 | 16.2 | -0.53 | -1.06 | ||
厚沢部・中館 | 18.1 | -0.80 | - | ||
函館 | 48.0 | -0.30 | -0.55 | pH=pH+0.5EC △EC1.0:△pH0.5〜0.55 | |
七飯 | 59.1 | -0.25 | -0.50 |
第3図 pH別、ハウス土壌管理指標
Ⅱ.堆肥施用に対応した土壌管理指標の策定
第2表 圃場試験の収量(t/10a)
供試作物/ 堆肥施用量 |
1作目 ハクサイ |
2作目 レタス |
3作目 キュウリ |
4作目 トマト |
堆肥 0t | 13.2(100) | 3.1(100) | 43(100) | 9.3(100) |
〃 4t | 13.1(99) | 3.5(113) | 4.8(112) | 11.0(118) |
〃 10t | 12.5(95) | 3.4(110) | 4.9(114) | 10.8(116) |
第3表 経年ハウス土壌の化学成分(通年10年目、12作目トマト跡地)
項目 /区別 |
pH(H2O) | EC (mS) |
無機態N (mg/100g) |
トルオーグ P2O5 (mg/100g) |
CEC (me/100g) |
置換性塩基(mg/100g) | |||
K2O | MgO | CaO | |||||||
小肥 系列 |
0t | 4.68 | 0.36 | 1.6 | 61 | 22.5 | 25 | 34 | 349 |
4t | 4.85 | 0.63 | 3.2 | 68 | 24.9 | 62 | 61 | 435 | |
10t | 5.46 | 0.60 | 8.0 | 106 | 28.2 | 195 | 83 | 473 | |
多肥 系列 |
0t | 4.61 | 0.19 | 23 | 70 | 22.8 | 35 | 27 | 316 |
4t | 4.57 | 0.73 | 4.3 | 83 | 24.3 | 78 | 53 | 419 | |
10t | 4.94 | 1.24 | 10.6 | 109 | 27.0 | 191 | 82 | 482 |
第4表 堆肥連用土壌のトマトの根量と呼吸(株当り)
草丈 (cm) |
葉数 (枚) |
茎葉重 (F.W.g) |
根重 (細根F.W.g) |
根長 (m) |
呼吸量* (mL) |
|
0t | 10.1 | 4.8 | 3.29 | 0.84 | 4.3 | 0.75 |
4t | 11.3 | 4.8 | 4.85 | 0.92 | 4.6 | 0.78 |
10t | 11.5 | 5.3 | 4.99 | 1.45 | 6.0 | 1.03 |
第5表 ハウス野菜栽培に対するカリ施肥指標
土壌診断値 /堆肥の施用 |
土壌診断基準値 | 上限値(カリ 態和度10%) 以上 |
||
以下 | 範囲内 | 以上 | ||
堆肥 無施用 |
基準値まで 資材で対応 |
標準施肥 | 標準施肥 〜1/2施肥 |
無施肥 |
堆肥4t* 施用時 |
〃 | 〃 | 1/2施肥〜 無施用 |
〃 |
(参考) | ||||
堆肥10t 施肥時 |
標準施肥 | 1/2施肥 〜標準施肥 |
1/2施肥 無施用 |
〃 |
第6表 カリ蓄積量と堆肥連用条件に対応した土壌管理指標
作 物 群 |
土壌診断基準値 | 上限値 (K2O10%) 以上 |
上限値 以上に おける カリ無 施用 作付数 |
備 考 | ||
範囲内 | 以上 | |||||
堆肥 0t 施肥時 |
Ⅰ | 標準施肥 | 1/2施肥 | 無施用 | 4作 | ●上限値以上、想定吸収量が80kgま での無カリ栽培の組み合せ例 ・Ⅰ群2作+Ⅱ群1作 ・Ⅰ群1作+Ⅲ群1作 |
Ⅱ | 〃 | 〃 | 〃 | 2作 | ||
Ⅲ | 〃 | 標準施肥 | 〃 | 1作 | ||
*1 堆肥 4t 施用量 |
Ⅰ | 標準施肥 | 無施用 (1作) |
無施用 | 5作 | ●上限値以上では、堆肥の施用は年 1回までとする ●上限値以上、想定吸収量が100kg までの無カリ栽培の組み合せ例 ・Ⅰ群3作+Ⅱ群1作 ・Ⅰ群2作+Ⅲ群1作 |
Ⅱ | 〃 | 1/2施肥 | 〃 | 2作 | ||
Ⅲ | 〃 | 〃 | 〃 | 1作 | ||
(参考) | ||||||
堆肥 10t 施肥時 |
Ⅰ | 1/2施肥 | 無施用 (2作) |
無施用 | 6作 | ●上限値以上では、堆肥の施用は年 1回までとする。 ●上限値以上、想定吸収量が120kg までの無カリ栽培の組み合せ例 ・Ⅰ群4作+Ⅱ群1作 ・Ⅰ群1作+Ⅱ群1作+Ⅲ群1作 |
Ⅱ | 〃 | 〃 (1作) |
〃 | 3作 | ||
Ⅲ | 標準施肥 | 1/2施肥 | 〃 | 2作 |
(第6表の付表)
野菜の群別とカリ施肥量
作物群 | 作物 | 施肥量 | 目標収量(t) | 想定吸収量 |
Ⅰ群 | ホウレンソウ | 12 | 0.8 | (kg/10a) 20 |
レタス | 14 | 2.0〜2.5 | ||
Ⅱ群 | ハクサイ | 16 | 6.0 | 40 |
キュウリ(抑制) | 25 | 4.0 | ||
トマト(抑制) | 25 | 5.0 | ||
Ⅲ群 | キュウリ(促成) | 40 | 8.0 | 60 |
トマト(促成) | 50 | 10.0 |
第7表 堆肥連用による対応したチッ素施肥量
1〜2年 | 3年以降から | |
堆肥0t | 標肥 | |
堆肥*4t | 標肥 | |
(参考) | ||
堆肥10t | 標肥 | 5kg減肥 |
普及指導上の注意事項
本技術は土壌診断の活用を前提とする。特に、ビニール被覆の除去期間が長い場合は、必ず土壌診断で補正すること。
Ⅰ 養分蓄積レベルに対応したハウス管理のための指標策定
1)混層処理は排水対策を構じた上で行うものとし、ビニール除去・雪利用除去は土壌タイプを地力保全成績書の活用によって推測し、行うものとする。
Ⅱ 堆肥施用に対応した土壌管理指標の策定
2)典型的な泥炭土、未熟火山性土は適用外とする。