【指導参考事項】 (昭和58〜60年)
マンガン欠乏によるホウレンソウの黄化葉症状の対策について(追補)
道立中央農試化学部土壌肥料第一科
目 的
札幌市有明地域を中心に発生したホウレンソウの黄化葉症状はMn欠乏に基づくものであり、当面の対策として易還元性Mnが30ppm以下の土壌に対してMnO 20kg/10a施用することが有効であった。
しかしMn欠乏の分布、Mn施用がホウレンソウ以外の作物に及ぼす影響、施用されたMnの持続性等が今後の問題点として残ったので、本年度はこれらを中心に検討した。
試験方法
1.現地実態調査
鵡川町(22戸)、鷹栖町(28戸)のホウレンソウ栽培農家の土壌分析
2.Mn施用がホウレンソウ以外の作物に及ぼす影響
1)メロン……Mn無施用、MnO 10、20kg/10a(中央農試圃場)
2)大根、小豆、スイートコーン、えん麦……Mn無施用、MnO 20kg/10a(札幌市有明圃場
他に十勝、北見農試の土壌・作物分析
3.施用されたMnの持続性
58年8月に施用したMn0 20、40kg/10aの持続性(札幌市有明、2圃場)
試験成果の概要
1.鵡川町と鷹栖町の土壌分析を行った結果、前者においてはMn欠乏土壌である易還元性Mn30ppm以下(作土)が22戸中14戸も分布していたが、後者では1戸も存在しなかった。
鵡川町では多雨後とくに黄化葉症状が発生しているが、これはMn欠乏が主要因と思われる。
同町で少なかったことについては同地域の地質・母材に基づくものと考えられた(樽前系黒ボク土)。
2.Mnの耐性が弱いウリ科(メロン)およびアブラナ科(大根)を供試してMnの施用試験を行った結果、品質・収量には差が認められなかった。
3.また小豆、スイートコーン、えん麦においてもMn施用による作物体中のMn含有率の上昇は小さく、他地域(十勝、北見)のものに比べてもほぼ同等であった。
したがってホウレンソウ畑にMnを施用し、以後に他作物を導入しても影響はないものと思われたo
4.施用されたMnは2ケ年経過してもほとんど減少しなかった。したがって施用されたMnの持続性は長く、再施用の必要性はない。
5.60年春どりにおいて有明地域でMn欠乏による黄化葉症状が発生したが、当該圃場の易還元性Mnとホウレンソウ中のMn濃度は昨年までの結果と同じく30ppm以下であった。
尚、当地域にあってはMn欠乏土壌に対してMn資材を施用した結果、9月上旬に約100ppmの降雨があったにもかかわらず黄化葉症状(水やけ)は発生しなかった。
主要成果の具体的数字
表1 鵡川町鷹栖町における土壌中のMnの分布(ppm)
鵡川町 | 鷹栖町 | ||||
作土 | 心土 | 作土 | 心土 | ||
過塩 素酸 分解 |
最高 | 233 | 221 | 1,497 | 1,422 |
最低 | 130 | 51 | 269 | 104 | |
平均 | 196 | 131 | 751 | 473 | |
易還 元性 |
最高 | 57 | 55 | 402 | 489 |
最低 | 13 | 1 | 58 | 18 | |
平均 | 33 | 10 | 199 | 170 |
表2 Mn施用とメロンの収量・品質
調査 項目 / MnO (kg/10a) |
土壌 | 収穫 個体 数 (10株) |
品質性 | |||
pH (H2O) |
易− Mn (ppm) |
ネット | 糖度 (ブリッ クス値) |
平均 1果重 (g) |
||
0 | 6.2 | 148 | 28 | 3.6 | 16.0 | 1,002 |
10 | 6.1 | 182 | 27 | 3.8 | 16.4 | 1,064 |
20 | 6.4 | 206 | 28 | 3.5 | 16.1 | 1,016 |
表3 Mn施用と大根の収量
MnO (kg/ 10a) |
土壌 | 10本重(g) | T/R | 根長 (cm) |
根径 (cm) |
|||
pH (H2O) |
易−Mn (ppm) |
総重 | 根重 | 葉重 | ||||
0 | 5.8 | 22 | 13,293 | 9,805 | 3,488 | 0.36 | 33.5 | 6.5 |
22 | 5.5 | 101 | 15,300 | 10,925 | 4,375 | 0.40 | 34.6 | 6.8 |
表4 土壌のpH、易還元性Mnと作物のMn濃度
作物名 | 採取地等 | 土壌 | 作物 | |||
pH(H2O) | 易−Mn(ppm) | 部位 | Mn(ppm) | |||
大根 | 札幌有明 | Mn無施用 | 5.8 | 22 | 茎葉 | 141 |
MnO 20 | 5.5 | 101 | 〃 | 375 | ||
中央農試 | 低 地 土 | 6.5 | 143 | 茎葉 | 40 | |
台 地 土 | 5.7 | 132 | 〃 | 76 | ||
小豆 | 札幌有明 | Mn無施用 | 6.8 | 32 | 茎莢 | 23 |
MnO 20 | 6.8 | 96 | 〃 | 44 | ||
十 勝 農 試 | 5.9 | 45 | 〃 | 39(茎)49(莢) | ||
北 見 〃 | 5.5 | 42 | 〃 | 73 | ||
スイート コーン |
札幌有明 | Mn無施用 | 6.2 | 30 | 茎葉 | 16(茎)51(葉) |
MnO 20 | 6.6 | 85 | 〃 | 14(茎)61(葉) | ||
十 勝 農 試 | 5.8 | 66 | 〃 | 39 | ||
えん麦 | 札幌有明 | Mn無施用 | 6.3 | 21 | 茎葉 | 15 |
MnO 20 | 6.7 | 121 | 〃 | 19 | ||
北 見 農 試 | 6.2 | 23 | 〃 | 12 | ||
メロン | 中央農試 | Mn無施用 | 6.2 | 148 | つる+葉 | 40 |
〃 | MnO 10 | 6.1 | 182 | 〃 | 45 | |
〃 | MnO 20 | 6.4 | 206 | 〃 | 52 |
表5 易還元性Mn(ppm)の推移
圃場 | MnO (kg/10a) |
58年 | 59年 | 60年 | |||
9月 | 5月 | 7月 | 10月 | 6月 | 10月 | ||
川瀬 | 20 | 45 | 70 | 74 | 49 | 66 | 70 |
40 | 163 | 164 | 130 | 114 | 159 | 116 | |
桑島 | 20 | 74 | - | 49 | 56 | 61 | 61 |
40 | 156 | - | 134 | 142 | 113 | 122 |
普及指導上の注意事項
1.施用にあたっては必らず土壌分析(pH、EC、易還元性Mn)を行う。また黄化葉症状が発生した場所を中心に土壌のサンプリングを実施する。