【指導参考事項】(昭和55〜60年)
二酸化窒素の連続接触が農作物の乾物生産におよぼす影響
道立中央農試環境保全部環境保全第二科
目 的
大気汚染による農作物被害を未然に防止するため、二酸化窒素の低濃度長時間接触した場合における農作物の生育ならびに乾物生産、体内成分におよぼす影響を明らかにする。
試験方法
二酸化窒素(N02)接触条件 | 自然光型グロースキャビネット使用 |
昭和55年〜60年実施、温度(昼23℃、夜17℃) |
表 ガス接触期間、生育ステージ
実験 区別 |
接触 日数 |
開始月日 | 水稲 | Rc,Og | |||
移植後 日数 |
接触開始 | 接触停止 | 接触開始 | 接触 停止 |
|||
ex-1 | 22日 | 6月29日 | 8日 | 分けつ初 | 分けつ盛 | 刈取後6日 | Rc の 開 花 始 め |
ex-2 | 29日 | 8月21日 | - | - | - | 〃 1日 | |
ex-3 | 21日 | 6月7日 | 14日 | 分けつ初 | 分けつ盛 | は種後35日 | |
ex-4 | 21日 | 6月29日 | 35日 | 分けつ盛 | 止葉 | 刈取後1日 | |
ex-5 | 21日 | 6月7日 | 10日 | 分けつ初 | 分けつ | は種後36日 |
試験成果の概要
自然光型グロースキャビネット(床面吹き出し法)を用いて、二酸化窒素(N02)による農作物影響を検討した結果の概要は次のようである。
(1)NO2接触による作物の乾物生産は1.0ppm濃度で水稲および赤クローバは劣り、オーチャドグラスは対照区と大差なく0.06ppmではオーチャードグラス、水稲は判然としないものの赤クローバではやや劣る傾向がうかがわれたo(表-1)
(2)NO2接触による乾物生産の抑制に作物間差がみられ、赤クローバ>水稲>オーチャードグラスの順となり、可視被害感受性の順位と一致した。
(3)この乾物生産への影響は、作物の窒素栄養状態で異なり、オーチャードグラス1.0ppm接触の場合、低N施肥は増加し、高N施肥では逆に低下する傾向がうかがわれた。(図-1)
(4)葉面積は水稲、赤クローバの1.0ppm接触で劣る傾向を示し、オーチャードグラスや0.06ppmの各作物では判然としなかった。(表-2)
(5)茎、葉の窒素含有率は3作物とも1.0ppm接触で増加し、0.06ppmでは、赤クローバ、オーチャードグラスで増加の傾向を示すものの、その差は小さく、水稲では判然としなかった。
(6)茎葉中の水溶性窒素をみると、NO2接触によって高まる傾向を示した。その大部分は有機態で占られるものの、無機態のアンモニア、硝酸、亜硝酸なども高まりがみられた。(図-2)
(7)亜硝酸はNO21.0ppm段階になると葉の増加量が著しく、茎での増加量は少なく、対照区に比べて茎葉間差が著しく大きかった。(図-3)したがって、茎葉の亜硝酸濃度を利用することによって、NO2被ばく判定の可能性がうかがわれた。(図-4)
(8)オーチャードグラスの硝酸態窒素は、N02接触によって高まり、体内硝酸濃度の高いものほど増加量が著しい傾向にあった。(図-5)
(9)炭水化物はNO2接触によって低下する傾向を示し、その程度は1.0ppm>0.06ppm,茎>葉の傾向にあった。
(10)NO2接触後における赤クローバの再生初期の生育量は1.0ppm接触で劣り、0.06ppmでは対照区と大差なかった。(表-3)
以上のごとく、栄養生長期における1.0ppm、1ケ月間程度のNO2接触は、オーチャードグラスでは判然としないが、赤クローバ、水稲では乾物生産を抑制する。しかし、0.06ppm接触のオーチャードグラスや水稲ではその影響を判別できず、赤クローバではやや劣る傾向がうかがわれた。
主要成果の具体的数字
表-1 ガス接触による乾物量の変化(対照との比)
実験区別 | 水稲 | Rc | Og | |||
0.06 | 1.0 | 0.06 | 0.1 | 0.06 | 0.1 | |
ex-1 | 93 | 94 | 99 | 91 | 99 | 98 |
ex-2 | - | - | 96 | 66 | 92 | 94 |
ex-3 | 95 | 78 | 96 | 83 | 99 | 102 |
ex-4(M) | 112 | 89 | 97 | 76 | 105 | 93 |
ex-5(M) | 113 | 90 | 86 | 69 | 107 | 90 |
平均 | 103 | 87* | 95 | 79* | 100 | 97 |
表-2 ガス接触による葉面積の変化(対照区との比)
N用量別 | 水稲 | Og | Rc | |||
0.06 | 1.0 | 0.06 | 1.0 | 0.06 | 1.0 | |
L | 112 | 126 | 102 | 144 | 92 | 60 |
M | 96 | 90 | 93 | 99 | 98 | 84 |
H | 103 | 89 | 92 | 90 | - | - |
表-3 ガス接触停止後の初期再生量(Rc)(対照との比)
実験区別 | 乾物増加比 | 炭水化物含有率比 | 再生量比 | |||
0.06 | 1.0 | 0.06 | 1.0 | 0.06 | 1.0 | |
ex-2 | 97 | 74 | 85 | 60 | 92 | 83 |
ex-4 | 97 | 76 | 108 | 69 | 103 | 78 |
ex-5 | 86 | 69 | 86 | 54 | 103 | 77 |
図-1 ガス接触によるN用量別の乾物生産量の変化
(ex-4)
図-2 ガス接触による水溶性窒素の変化(0g)
図-4 RcのNO-2-N含有率比(葉/茎)
図-5 NO-3含有率における対照とガスとの関係
普及指導上の注意事項