【普及奨励事項】
1.課題の分類 病 害・水 田 作 2.研究課題名 紅変米の発生生態と防除対策 (着色米の発生要因解明と防除対策試験) 3.期 間 昭和55〜60年 4.担 当 上川農試病虫予察科 5.予算区分 道 費 6.協力分担 中央農試稲作部栽培第二科 |
7.試験目的
近年発生する各種着色米のうち,最も被害の大きい紅変米について,発生生態と発生要因を明らかにするとどもに,防除対策を確立する。
8.試験研究方法
(1)発生実態調査:上川支庁管内における発生分布ならびに発生の年次変動を調査。
(2)発生生態:農試ほ場,人工気象箱を使用し,病原菌の胞子飛散,感染,発病過程を調査。
(3)発生要因:主にポット栽培のイネおよびその玄米を用いた接種試験により,温湿度条件,米粒登熟特性を検討。また農試ほ場において品種間差・栽培法について検討。
(4)防除試験:薬剤防除試験を行って,有効薬剤,`散布時期および散布回数を検討。
9 結果の概要・要約
(1)紅変米はEpicoccum purpurascensによって起こる玄米の病害である。玄米中の紅変米混入率が0.7%を超えると規格外米となる。本菌はまた褐変穂および茶米,背黒米の一病原菌である。
(2)紅変米は秋期湿潤多雨な地域・年次に多発する。特に上川・網走支庁管内などの,もち米生産地域で発生が多いが,うるち米においても年次より多発する。
(3)病原菌は前年のイネ刈株,畦畔のイネ科雑草の枯死葉上で越冬後,再びこれらイネ科雑草上で増殖し,これが初期飛散源となる。水田地帯における本菌の分布は非常に広範かつ高密度である。出穂期前後の除草による刈草の堆積放置は胞子飛散源の一つとなる。
(4)水田内では,7月下旬以降,イネ体の枯死葉上で多量の胞子を形成し,それが本田における主要な飛散源となる。胞子飛散は7月下旬以降増加し,8月中・下旬に最高となるが,飛散は晴天日の日中に集中するなどの点でイネの開花特性と一致し,このことが胞子の頴花内への潜入を容易にする条件となっているものと考えられる。
(5)病原菌の籾への感染は,主に開花期の頴内への胞子潜入によって行われる。潜入した胞子は数日後には発芽し,頴内での菌糸のまん延が認められる。この時期の低温多湿条件は病原菌の活動を促進し,籾への感染を助長するものと考えられる。
(6)籾内の病原菌は,内・外頴に感染して増殖するが,乳熟期〜糊熟期の米粒を侵さず,黄熟期(出穂30日目前後)以降に米粒へ侵入し,病斑を形成する。その原因として,乳熟期〜糊熟期の緑色の米粒では珠皮の原形質活性が高いために病原性の弱い本菌の内部への侵入が阻止され,黄熟期以降,活性の低下とともに米粒の本菌に対する感受性が急激に増大することによるものである。
(7)黄熟期以降の米粒の感受性は,米粒水分と正の相関があり,登熟に伴う水分の低下に伴い除々に減少する。これらの時期に侵された米粒は全面が着色することなく,局部的な斑紋を形成し,これが紅変米の主体をなすものとなる。
(8)ほ場における発生消長を調査した結果,出穂後30〜35日目に初発生が認められ,その後立毛中に増加した。更に成熟期以降に急激に増加することから,収穫の遅延は本病の発生を著しく助長する。
(9)登熟温度との関係では高温登熟(夜温22℃−昼温30℃)に比較し、低温登熟(夜温14℃−昼温22℃)で発生が顕著に増加した。登熟期間中の高温乾燥は籾における病原菌の活動および生存を抑制するものと考えられる。
(10)登熟期間中の籾をとりまく周囲の湿度・水分は発生要因として最も重要である。玄米の発病は相対湿度98%以上で認められ,それ以下では発生しない。黄熟期〜成熟期の降雨は籾に水分を与え,病原菌の米粒への侵入を容易にする。本試験の結果,成熟期における48時間の連続かん水により発生率はほぼ倍増した。また最近の6ヶ年間では昭和54・57・58年が多発年となっているが、これらの年次においては成熟期前後の降水量が多いことが特徴となっている。更に収穫後の乾燥調整の遅延あるいは乾燥法の不良は籾に湿度を与えることにより,本病の発生を著しく増加させる。
(11)N施肥量,栽植密度および㎡当り籾数などの栽培法との関係は明らかでなかった。更に検討が必要である。
(12)割籾中の玄米では紅変米の発生率が健全籾に比較して著しく高い。多湿条件下での発生の増加率も割籾で顕著に高いことなどから,割籾は外界より籾内に水分(湿度)を与え、本病の発生を増大させる誘因として作用するものと考えられる。
(13)発病に対する品種間差が認められた。即ち、うるち米においては「イシカリ」で発生が多く,「ともひかり」で顕著に少なかった。次いで「しおかり」,「キタヒカリ」の発生が低率であった。もち米ではうるち米に比較して感受性が高いが,「おんねもち」で多く,「たんねもち」では比較的低率であった。品種別発生率と割籾率との間に相関が認められるが「ともひかり」のように例外的な品種も認められた。
(14)登熟に伴う米粒活性を調査した結果、多発品種では少発品種に比較し、黄熟期以降の活性度は低く推移した。更に、もち米品種の黄熟期の米粒水分はうるち米品種よりも高く、これがもち米とうるち米の感受性の差の主原因と考えられる。
(15)グアザチン25%液剤(ベフラン液剤)750倍液の出穂期・穂揃期の2回散布,またはチオファネートメチル40%ゾル(トップジンMゾル)500倍液の黄熟期以降(出穂25〜30日目頃)の2回散布により本病の発生は抑制され,防除対策として有効であった。
10.主要成果の具体的数字
第2図 半旬別胞子飛散推移
第3図 E.purの接種時期と着色粒の発生
第4図 E.pur.接種による玄米の紅変と相対湿度の関係
第1表 米粒活性および米粒水分の推移と病斑形成(品種「おんねもち」)
出穂後 日数 |
米粒表面活性a) | 米粒水分 | 接種による紅変症状b) | |||
全面染色粒 | 胚部染色粒 | 全面紅変粒 | 局部紅変粒 | 計 | ||
20日 | 57.8% | 23.3% | 46.9% | 1.6% | 4.8% | 6.4% |
30日 | 18.4 | 22.5 | 32.9 | 65.0 | 21.0 | 86.0 |
40日 | 6.0 | 76.0 | 29.9 | 34.0 | 36.0 | 70.0 |
50日 | 0 | 82.0 | 25.6 | 25.0 | 42.3 | 67.3 |
第5図 年次別紅変米発生推移と降水量
第6図 紅変米および割籾の発生に対する品種間差(昭57,中苗,標肥)
第7図 玄米水分と病斑形成
第8図 「おんねもち」と「たんねもち」における紅変米発生率の比較(昭和60年)
第9図 登熟期間中の米粒活性の推移
第10図 登熟期間中の米粒水分の推移
第2表 紅変米除除試験(昭60,美深町、上川北部農業改良普及所・上川農試)
供試薬剤 | 使用濃度 | 散布月日 | 紅変米(%)※ | 茶米 (%) |
背黒米 (%) |
薬 害 |
||||||
稀釈 倍数 |
成分 量 |
8/6 | 8/10 | 8/30 | 9/5 | 重被 害粒 |
軽被 害粒 |
計 | ||||
グアザチン25%液剤 | 750倍 | 0.033% | ○ | ○ | 0.20 | 0.65 | 0.85 | 4.45 | 1.85 | - | ||
〃 | 〃 | 〃 | ○ | ○ | 0.30 | 0.70 | 1.00 | 4.70 | 2.95 | - | ||
チオファネートメチル40%ゾル | 500倍 | 0.080 | ○ | ○ | 1.50 | 1.30 | 2.80 | 4.40 | 4.05 | - | ||
〃 | 〃 | 〃 | ○ | ○ | 0.25 | 0.80 | 1.05 | 3.75 | 1.75 | - | ||
無 散 布 | - | - | 0.25 | 2.20 | 4.25 | 5.80 | 4.30 |
11.今後の問題点
(1)抵抗性品種の探索と抵抗性機作の解明
(2)耕種的防除法の検討
12.成果の取扱い
(1)出穂期前後の除草による刈草の堆積放置は病原菌の胞子飛散源の一つとなるので速やかに除去し、ほ場衛生に努める。
(2)うるち米品種では「ともひかり」・「キタヒカリ」,もち米品種では「たんねもち」の発生が少ない。
(3)黄熟期〜成熟期の降雨により多発し,更に収穫の遅延は発生を著しく助長するので適期刈取りを行うとともに,収穫後は速やかに適正な乾燥調製を行う。なお倒伏によっても本病は多発するので,適正な肥培管理に努める。
(4)グアザチン液剤(25%),750倍液の出穂期,穂揃期の2回散布,またはチオファネートメチルゾル(40%),500倍液の黄熟期以降(出穂後25〜30日)の2回散布は,紅変米の発生を抑制し,有効である。なお,グアザチン液剤は高温時の散布により稀に薬害を生ずることがある。
チオファネートメチルゾル(40%)(商品名:トップジンMゾル)
……普通物,魚毒A,未登録(いもち病に登録あり,500〜1000倍,収穫14日前まで,3回以内)
グアザチン液剤(25%)(商品名:ベフラン液剤)
……劇物,魚毒A,未登録