【普及奨励事項】
完了試験研究成績(作成 昭和62年1月)
1.課題の分類  総合農業 作物生産 冬作物 小 麦
          北海道 畑 作 麦
2.研究課題名  道央多雪地帯における「チホクコムギ」の安定栽培に関する試験
             −栽培適地の拡大−
3.期  間  昭和57〜60年
4.担  当  道立中央農試畑作部畑作第一科
5.予算区分  総合助成
6.協力・分担 道立中央農試病虫部発生予察科
         道立上川農試畑作科

7.目的
 良質品種「チホクコムギ」の道央多雪地帯における越冬性低下の要因を明かにし、安定多収栽培技術と適応地域拡大の可否について検討する。

8.試験方法
 1)越冬性向上に関する試験 −栽培条件と越冬性−
  播種期3〜4水準(8月下旬、9月上旬、9月中旬、9月下旬播)、窒素施肥法3水準(基肥:追肥7.5:2.5、5:5、2.5:7.5)、品種2水準(チホクコムギ、ホロシリコムギ)、分割区法3反復、一区10㎡。耕種概要:処理の外は当場標準耕種法によるが、施肥量N-10、P205-14、K20-10Kg/10a、播種量340粒/㎡、雪腐病防除59年が無防除の外は各年1回防除
 2)雪腐病発生助長による越冬性への影響
  ① 小粒菌核病の人工接種による発生助長 
        遮光条件2水準(有・無)、防除2水準(有・無)
  ② 湛水条件による褐色雪腐病の発生助長 
        畦の高低2水準(地面下30cmの低畦・普通畦)
   ①、②試験とも品種2水準、分割区法3〜4反復、一区2〜6㎡
 3)良質小麦の安定化技術組立
   組立処理 窒素施肥割合を基肥3:追肥7とし、雪腐病防除を2回実施。
   耕種概要 処理以外は当場標準耕種法によるが施肥量及び播種量は1)試験に準ずる。雪腐病防除の1回目は11月中旬、2回目は12月上旬(根雪始直前)を目途とする。
 4)地域環境条件と越冬性に関する試験
   道央地帯の気象、土壌条件の異る現地6〜10市町村で実施。改善区と慣行区の2水準、品種2水準(チホクコムギ、ホロシリコムギ)、分割区法、2反復、一区20㎡ただし、改善区は播種を慣行より約10日早め、基肥窒素を減量した施肥割合、基肥3:追肥7とする。
   調査項目 越冬前の茎葉乾物率、雪腐病発病度、越冬前後の茎数、一般生育及び収量調査

9.結果の概要、要約
 1)越冬性向上に関する試験
 ① 雪腐病は、各年の発生が少なかったことによるが9月中旬以前の播種では播種期及び窒素施肥法による発病度の差は小さく、59年と60年は晩播の9月下旬で多発した。「チホクコムギ」の発病度は各処理で「ホロシリコムギ」よりやや高い傾向がみられた。
 ② 子実収量は、播種期では57年と58年は9月中旬が、59年と60年は9月上旬が最も高収であり、9月下旬は各年とも大幅に減収した。窒素施肥法では57年と59年が春追肥の多い方が若干増収する傾向がみられた。57年は9月中旬播においても高収を示したが当該年は秋期の天候に恵まれ越冬前の生育が良く、さらに登熟期間が延長したことによる高収であり、平年並の気象で推移することを考慮すると、9月上旬播種が安定的と思われる。(表1) 2)雪腐病発生助長による越冬性への影響
   「チホクコムギ」は、小粒菌核病の人工接種、遮光、無防除及び低畦栽培等の雪腐病多発条件において発病度が高く、越冬後茎数は著しく減少し、越冬株率が低下した。「ホロシリコムギ」に比べて小粒菌核病及び褐色雪腐病に対する耐病性は明らかに劣ると思われる。(表2、表3)
 3)良質小麦の安定化技術組立
  技術組立による雪腐病の抑制効果は、各年の雪腐病の発生が少なく明瞭でないが、57年と59年の発病度はやや低下した。子実収量は60年を除いて「ホロシリコムギ・標準」を上回り、春追肥多用により高収となる傾向がみられた。しかし、気象経過によっては倒伏が助長され減収を招いた。(表4)
 4)地域環境条件と越冬性に関する試験
 ① 雪腐病 多雪地帯の空知管内及び石狩北部では改善区の発病度が低下したところが多かった。沼田町の59年と60年は、基肥窒素の減量によって発病度は明かに低下し、長期積雪条件下での効果が認められた、一方、少雪地帯の千歳市、厚真町及び早来町は雪腐病の発生が少なく、また不明病害の被害もあり改善効果は明瞭でなかった。
②子実収量 改善によって「ホロシリコムギ・慣行」より高収となった場所が多い。多雪地帯における窒素施肥については、基肥窒素を従来より少なめにした方が越冬性を向上すると思われる。しかし、深川市、新篠津村及び栗山町では春追肥多用によって倒伏が助長され減収する年もみられた。(表5)

10.主要成果の具体的数字
表1 栽培法と雪腐病発病度及び子実収量
処理 雪腐病発病度 子実重・kg/a(%)

播種期
(月・旬)
窒素
施肥
(秋一番)

57

58

59

60

57

58

59

60





8・下 2.5-7.5 19 - 42 - 73.2(133) - 60.4(114) -
5-5 15 - 43 - 72.2(131) - 56.5(107) -
7.5-2.5 17 - 45 - 69.4(126) - 53.4(101) -
9・上 2.5-7.5 23 ※21 36 23 74.7(135) ※60.5(125) 60.4(114) 63.2(118)
5-5 13 15 38 25 68.4(124) 57.4(118) 59.4(112) 63.8(119)
7.5-2.5 15 27 42 27 68.2(124) 61.3(126) 59.6(112) 61.8(116)
9・中 2.5-7.5 28 15 48 15 73.8(134) 55.4(114) 56.7(107) 57.6(108)
5-5 24 28 50 14 74.2(134) 56.1(116) 50.6(95) 59.0(110)
7.5-2.5 28 15 48 28 702(127) 50.2(104) 55.6(105) 45.6(85)
9・下 2.5-7.5 - 9 67 42 - 49.8(103) 41.4(78) 49.1(92)
5-5 - 23 63 54 - 46.7(96) 39.6(75) 48.9(92)
7.5-2.5 38 25 59 54 51.3(93) 51.9(107) 34.7(65) 40.0(75)






8・下 2.5-7.5 15 - 44 - 55.5(101) - 56.9(107) -
5-5 12 - 48 - 53.2(96) - 58.3(110) -
7.5-2.5 13 - 47 - 54.2(98) - 53.2(100) -
9・上 2.5-7.5 14 ※14 41 13 62.4(113) ※56.0(115) 59.1(112) 65.1(122)
5-5 21 11 42 17 60.4(109) 53.7(111) 61.1(115) 66.4(124)
7.5-2.5 13 14 43 20 52.8(96) 48.4(100) 60.2(114) 61.7(116)
9・中 2.5-7.5 27 8 33 14 59.1(107) 44.5(92) 56.9(107) 61.3(115)
5-5 23 17 32 13 59.9(109) 44.8(92) 48.6(92) 55.4(104)
7.5-2.5 17 10 31 27 55.2(100) 48.5(100) 53.0(100) 53.4(100)
9・下 2.5-7.5 - 3 39 20 - 41.9(86) 48.5(92) 59.1(111)
5-5 - 3 34 27 - 45.8(94) 44.2(83) 57.5(108)
7.5-2.5 36 5 36 24 55.4(100) 46.0(95) 43.7(82) 49.4(93)
注1)雪腐病発病度は指数0(健全)〜4(全株枯死)の5段階法により指数×25で示した。
 2)昭和58年の※印は9月12日播種を示す。

表2 雪腐病発生助長処理と発病度及び越冬後茎数、穂数





雪腐病
発病度
越冬後茎数
(本/㎡)
同左比(%)
対品種別無遮光
穂数
(本/㎡)
同左比(%)
対品種別無遮光
昭59 昭60 昭59 昭60 昭59 昭60 昭59 昭60 昭59 昭60






チホク
コムギ
※100 99 2 92 10 88 11 67 14 42
100 93 20 104 100 100 81 158 100 100
ホロシリ
コムギ
※100 98 23 135 18 59 86 135 22 43
100 91 129 229 100 100 385 313 100 100






チホク
コムギ
90 75 187 247 35 41 152 327 33 69
58 38 534 607 100 100 464 473 100 100
ホロシリ
コムギ
54 18 354 737 31 100 353 480 64 109
35 8 1129 737 100 100 554 440 100 100
注)無防除における成績。発病度昭和59の※印は調査後に生存株のあったことを示す。

表3 低畦による褐色雪腐病の発生助長と越冬株率
品種 畦の高低 越冬株率
チホクコムギ 平畦 83
低畦 67
ホロシリコムギ 平畦 92
低畦 91
注)雪腐病防除:有機銅剤1回
 発生雪病:褐色雪腐病が主体
 越冬後株調査:昭和61年5月8日

表4 安定化技術組立と雪腐病発病度及び子実収量
品種及び処理名 組立て技術 雪腐病発病度 子実重・kg/a(ホロシリ・標準比%) 倒伏程度
N施肥
基:追
防除
回数

57

58

59

60

57

58

59

60

57

58

59

60
チホクコムギ・改善 3:7 2 13 10 18 30 58.7(104) 64.7(118) 55.7(113) 54.2(92)
  〃    ・比較 7:3 2 - 13 13 32 - ( - ) 63.7(116) 53.9(109) 53.7(92) -
  〃    ・標準 7:3 1 18 - 25 31 73.1(129) - ( - ) 52.0(105) 53.0(90) -
ホロシリコムギ・比較 7:3 2 - 10 14 31 - ( - ) 54.8(100) 51.7(105) 55.8(95) -
  〃    ・標準 7:3 1 8 - 15 29 56.0(100) - ( - ) 49.3(100) 58.6(100) -
注)昭和60年の2回目防除は12月10日に積雪薬18cmの雪上より薬剤を散布した。

表5 現地における雪腐病発病度及び子実収量
試験場所





(播種)
雪腐病発病度 子実重・kg/a(対慣行ホロシリ) 備考

市町村・地区 チホク
コムギ
ホリシリ
コムギ
チホク
コムギ
ホロシリ
コムギ








沼田町・北竜 57 18 20 10 20 68.8(137) 60.2(119) 61.1(121) 50.4(100)  
58 37 43 27 35 55.8(140) 45.5(114) 51.6(129) 40.0(100)  
共成 転換畑 59 25 57 20 38  - ( - )  - ( - )  - ( - )  - ( - ) 無防除、立枯病多発
沼田 60 45 76 30 61 54.1(126) 32.2(75) 52.1(122) 42.8(100)  
深川市・一巳 転換畑 57 0 0 20 0 48.8(77) 62.3(88) 51.9(82) 63.6(100) 倒伏多、立枯病多発
58 32 51 17 21 39.4(100) 32.2(82) 41.7(106) 39.5(100)  
59 49 82 33 54 63.8(94) 60.0(88) 62.7(92) 68.2(100) 無防除
60 33 20 23 10 53.9(96) 63.2(113) 48.2(86) 55.9(100)  
美唄市・上美唄 転換畑 57 15 15 15 15 59.1(126) 30.9(67) 50.4(108) 46.8(100) 改善は早播と土改
資材
北村・赤川 58 15 16 11 15 45.0(114) 41.2(105) 43.7(111) 39.2(100) 無防除
美唄市・上美唄 59 25 38 25 13 54.9(134) 45.6(111) 51.0(124) 37.2(100)  
60 11 41 9 28 47.5(131) 32.1(88) 45.0(124) 36.3(100)  
新篠津村・西篠津 転換畑 57 5 5 5 5 70.0(154) 59.0(130) 70.6(155) 45.5(100)  
58 32 75 22 36 38.6(147) 19.0(75) 38.1(145) 26.3(100) 融雪時に滞水
59 39 43 29 33 48.3(119) 43.1(106) 43.6(108) 40.5(100)  
60 20 46 16 20 50.6(110) 42.3(93) 51.3(113) 46.0(100) 改善に倒伏多発
千歳市・長都 58 12 12 7 11 41.5(92) 41.3(92) 41.7(93) 44.9(100)  
中長都 転換畑 59 28 10 31 8 62.9(131) 54.5(113) 51.5(107) 48.1(100)  
60 13 19 13 19 55.7(176) 29.0(91) 54.0(170) 31.7(100)  
厚真町・宇隆 転換畑 57 8 8 8 8 55.6(126) 48.2(109) 39.1(89) 44.1(100) 無防除
朝日 58 13 15 10 16 34.0(90) 36.1(96) 35.0(93) 37.6(100)  
美里 59 (75) (50) (56) (56) 58.0(116) 52.1(104) 54.6(109) 50.2(100) 大粒菌核病と不明多
豊沢 60 0(3) 0(26) 0(13) 0(20) 48.8(88) 59.9(105) 60.8(109) 57.0(100) 不明雪雪腐病が多発

11.栽培可能な地帯と面積
  栽培可能な地帯
   石狩、空知、上川(中、南部)、胆振、日高支庁管内の平年融雪期が4月15日までの排水良好な地帯。
  作付可能な面積
   10.000ha、ホロシリコムギにおきかえる。

12.栽培上の注意
  1)チホクコムギはホロシリコムギに比べて、雪腐大粒菌核病を除く各種雪腐病に対する抵抗性が弱い。従って雪腐病防除を徹底し、あわせて融雪促進を必ず行う。
  2)ほ場の停滞水がないよう排水に努める。
  3)透排水性の悪いほ場では、褐色雪腐病が発生し易いので栽培はさける。
  4)播種期は、道央中部では、9月上旬の中でできるだけ早めに、道央南部では9月中旬を目途とする。
  5)越冬性を高めるため、施肥量は北海道施肥標準を守り、窒素の施用割合は基肥を少なめとし春分施に重点をおく。
  6)ホロシリコムギに比べて、条斑病、うどんこ病及び赤かび病に弱いので防除を徹底する。
  7)成熟期後の子実水分の乾減が早いため、晩刈りの遭雨では低アミロ、穂発芽の危険性が高まるので、適期に収穫する。
  8)本品種は、粒質が他品種と異なるので、収穫、調整時に他品種と混合しない。