(総括)
【指導参考事項】(作成 昭和62年1月)
1.課題の分類  北海道 畑  作 総  合−麦・ばれいしょ Ⅱ-2-2
          北海道 農業物理 11
2.研究課題名  十勝地方における融凍促進による畑作物の早期栽培技術確立試験
         1.凍結土壌の実態と融凍促進技術の開発
3.予算区分  総合助成(昭和59〜60年)
         道費(昭和61年)
4.研究期間  (昭和59〜61年)
5.担  当  道立十勝・農業機械化・作物科
6.協力分担

7.試験目的
  北海道の主要畑作地帯である十勝地方は,冬期間の気温が著しく低く,しかも降雪量が比較的少ないところから土壌凍結がかなり深層部まで達している。
  この凍結は年によっては春先の農作業時期まで残り,融雪水,融凍水の浸透を防げ,秋播小麦の春期生育の抑制,甜菜,ばれいしょの播種期の遅延,春播小麦導入の阻害要因等,畑作物の組立及び生産を大きく規制している。
 これらの問題点を解決するためには土壌凍結を早期に融解し,畑作物の作期の前進と初期生育の促進を計ることが必要と考えられる。
 そこで,凍結土壌の融凍促進技術及びばれいしょ並びに春播小麦を対象とした早播栽培技術に関する総合助成試験が昭和59年より2ケ年,一般試験が昭和61年に実施されることとなった。今日までの試験によっていくつかの貴重な成果が得られたので,その成績を北海道農業試験会議に提出する次第である。

8.試験研究方法
(1)試験場所 十勝農試および現地
(2)供試品種 春播小麦2品種,ばれいしょ2品種
(3)処理区分
 1試験 散士法(土性2水準,散布量4水準)の融雪促進効果と散土機の作業性能,穿孔処理
と土壌融凍(土性2水準)促進効果ならびに融雪,穿孔処理(処理法4水準,処理時期
3水準)別の融凍促進効果をそれぞれ明らかにする。
 2試験 融雪促進を図った融凍早播区を含む播種期3水準に栽培法4水準(N施用量,播種量
など)の組合せを原則に,年次によりこれに品種1〜2水準,生育調節剤2水準を加えた。
 3試験 融凍促進を図った融凍早植区を含む植付時期3水準に,品種2水準,浴光催芽2水準
を合せた12処理である。
(4)試験区の配置 2試験は分割区法または乱塊法3区制,3試験は分割区法3区制

9.結果の概要・要約
主な結果は次のとおりである。
1試験 乾土100g/㎡の散土処理で7日前後融雪が促進された。土壌凍結深35〜44㎝の時融
雪,穿孔処理(直径14㎝,深さ60〜70㎝,穴間隔2㎝)によって融凍は乾性型火山性土
で5〜11日,湿性型では3〜8日促進された。
融凍後の土壌含水比は,乾性型の低下が早く,初期水分が高い湿性型は減少が緩慢で
あった。散土作業能率は0.67ha/h,穿孔作業能率は0.29ha/hである。
2試験 融凍促進による早播と栽培法の組合せにより,春播小麦の新品種「ハルユタカ」で10
a当り356kg(3カ年平均,昭和60〜61年の対標準栽培比137%)の多収か得られ,ま
た品質も向上し、安定多収、良質化を図るためには,圃場の融雪,融凍促進を図って早
播することの重要性が実証された。また,その際の栽培法としては窒素施用量9kg/10a
播種量510粒/㎡を組合せた多肥密植栽培が望ましい。
3試験 融凍促進による早植と浴光催芽処理の組合せにより,塊茎の肥大が促進し,塊茎数が
増加して,規格内収量が著しく増収(3カ年平均の対標準栽培比「トヨシロ」113%,
「農林1号」121%)した。また澱粉価の早期向上と還元糖含量の低下が促進され,さ
らに茎葉の黄変,枯凋が促進されるなど,早熟化により,完熟塊茎の安定生産に資する
ところが大であった。
 以上のように,散土に穿孔処理を組合せた融凍促進による早期栽培により春播小麦の高収安定化と食品加工ばれいしょの完熟塊茎の安定生産を図ることができた。

10.成果の具体的数字


図1 無処理区の融凍深の日変化


図2 融凍促進処理とその効果

表1 春播小麦の播種期と多肥密植区の収量
年次品種名 項目/
播種期(月日)
穂数
(本/㎡)
a当り(kg) 同左比
(%)
子実重
歩合(%)
L重
(g)
子実重
(g)
総重 子実重
昭和59年
ハルヒカリ
融凍早播(4.28) 507 73.1 26.2 142 35.8 803 36.2
慣行早播(5.4) 475 55.6 19.4 105 34.9 790 35.4
標準播(5.10) 416 53.7 18.5 100 34.5 787 33.6
昭和60年
ハルユタカ
融凍早播(4.22) 569 100.8 37.2 139 36.9 804 37.3
慣行早播(4.30) 621 100.4 34.1 128 34.0 793 36.4
標準播(5.7) 582 88.6 26.7 100 30.1 779 32.0
昭和61年
ハルユタカ
融凍早播(4.17) 571 137.5 41.0 111 29.8 763 35.9
慣行早播(4.25) 563 126.0 36.5 99 29.0 761 35.5
標準播(5.1) 585 133.3 37.0 100 27.8 746 35.4

表2 ばれいしょの規格内収量に及ぼす植付時期と浴光催芽処理の影響(3カ年平均)
区別 規格内収量(kg/10a) 規格内収量の対標準比(%)
品種名 浴光催芽/
植付時期
処理 無処理 平均 処理 無処理 平均
トヨシロ 融凍早播 4,310 4,027 4,169 113 106 107
慣行早播 4,110 3,901 4,006 108 102 103
標準播 3,968 3,817 3,893 104 100 100
平均 4,129 3,915   105 100  
農林1号 融凍早播 4,833 4,281 4,557 121 108 110
慣行早播 4,560 4,076 4,318 115 102 104
標準播 4,300 3,979 4,140 108 100 100
平均 4,555 4,112   111 100  


図3 澱粉価と還元糖分含量および塊茎肥大の推移
    (昭和61年 融凍早播・浴光催芽処理区)

11.普及指導の注意事項
 1.融凍の促進を図るには,融雪促進をかねた散土処理が効果的である。なお,融雪後の穿孔処理との組合せにより,融凍は進むが,この場合には土壌凍結深を考慮して,実施の判断をする必要がある。
 2.春播小麦では播種期が早い程多収を示し,品質も向上したことから安定多収,良質化を図るためには,十勝地方では畑土壌の融雪,融凍を実施して,4月中旬を目途に早播することが望ましい。
 3.その場合には,窒素施用量9kg/10a,播種量510粒/㎡程度の多肥密植栽培が望ましい。
 4.食品加工用ばれいしょでは完熟塊茎の安定生産を図るために,本試験の範囲内で融雪,融凍促進を図って早植することが望ましい。
 5.その場合には浴光催芽処理をした種いもを植付けることが望ましく,それにより顕著に増収し,加工品質も向上する。