【指導参考事項】
1.課題の分類  虫害・野菜
2.研究課題名  野菜類のコナダニ類の生態と防除対策試験
           (野菜類のコナダニ・ホコリダニ類の生態と防除に関する試験)
3.期  間  昭和58年〜61年
4.担  当  北海道立中央農業試験場
               病虫部害虫科
5.予算区分  道費
6.協力分担  なし

7.目  的
 全道各地で発生している野菜類のコナダニ類について、その発生被害実態を明らかにし、防除方法の確立を図る。

8.試験研究方法
A.ホウレンソウのコナダニ類の生態と防除対策試験
 1.発生被害実態調査
 2.加害種の同定
 3.Tyrophagus similisの発生生態解明試験
  (1)被害発生地での生息密度調査
  (2)被害再現試験
  (3)発生消長に関する試験
  (4)発生源に関する調査
 4.防除試験
B.ウリ類のコナダニ類の生態と防除対策試験
 1.発生被害実態調査
 2.加害種と被害
 3.コナダニ類の発生生態解明試験
  (1)被害再現試験
  (2)発生消長調査
  (3)発生源調査
 4.防除試験

9.結果の概要と要約
A.ホウレンソウのコナダニ類の生態と防除試験
 1.発生被害実態調査
 (1)コナダニ類は全道21市町村、85地点中、56地点(65.9%)から検出された。このうち48地点(56.5%)からTyrophagus similisが検出された(図1)。
 (2)被害は、ハウス栽培・露地栽培ともに認められるが、被害程度は特に春期のハウス栽培で顕著な傾向であった。
 (3)過去に被害の認められたほ場での被害率は82%と、被害の認められなかったほ場の被害率42%より高かった。また、前作にホウレンソウを栽培しているほ場で被害が多かった(昭和60年,表1)
 2.加害種の同定
 (1)ホウレンソウに寄生するコナダニ類はTyrophagus属3種、Mycetoglyphus属1種が確認された。
 (2)加害の主要種はTyrophagus similisであった。他にTyrophagussp.No3(未同定)、Mycetoglyphus funginorusがTyrophagus simillis同様にホウレンソウに被害を与えていた。しかし、これら2種の分布は限られている(図1)。
 3.発生生態解明試験
 (1)被害発生地での生息密度調査
  ア.露地よりハウスで被害は高く、特に奇形の程度が激しかった。また、寄生数も多かった(表2)。
  イ.被害の高いのは、いずれもホウレンソウの連作ほ場であった。
  ウ.ハウス栽培では、被害株率と1株当たり寄生数に高い相関が認められた(r=0.963**)。1株当たり寄生数10頭以下で、被害は少なかった(図2)。
  エ.露地栽培では一定の関係は認められなかった。ハウスと比較し、環境要因の変動が大きいことがこの一因と考えられる。
  オ.土壌中のダニは、Active stageが調査対象であるが、幼虫、若虫の検出数は少なくなるなど、必ずしも密度を正確に反映しない。このため、土壌密度による被害予想は困難であった。
 (2)被害再現試験
  ア.Tyrophagus similisによりホウレンソウの被害が再現された。
  イ.種子への加害により、発芽前の被害も認められた。
  ウ.ホウレンソウが残されていれば、Tyrophagus similisは地下〜地際部で長期間個体数を維持できた。
 (3)発生消長
  ア.ハウス栽培では、生育初期(2〜3葉期)までの寄生量は少なかったが、ホウレンソウの生育にともない短期間に急増した。また、春期早い時期の播種で寄生量は多かった(図3)。
  イ.露地栽培では、高温期に発生が少なかった(図4)。
  ウ.収穫せずに放置したホウレンソウでは、積雪下でもT.similisの寄生が認められた(図4)。
  エ.Tyrophagus similisは土壌中である程度増加したのち、ホウレンソウの生育にともない、植物体での寄生量がやや遅れて増加する傾向が認められた。
 (4)発生源
  ア.コナダニ類は、堆肥等からは検出されず、これらが発生源となることは考えられない。
  イ.ホウレンソウでは、積雪下・融雪後ともにTyrophagus similisが検出されたが、土壌では認められなかった(表3)。
  ウ.ホウレンソウがきれいに収穫され、裸地となった土壌でT.similisは検出されなかった。
  エ.ほ場にホウレンソウが残されたり、秋起こし等が充分でなく、残渣が多い場合には、Tyrophagus similisが越冬し、翌年の発生源となる可能性が高いと考えられる。
 4.防除試験
 (1)粒剤の播種溝施用での効果は、安定していなかった。
 (2)全面施用では、DCIP粒剤30㎏/10aの効果が安定して高かった(表4・5)。
 (3)DDVP乳剤1000倍のホウレンソウ2葉期の1回散布も、効果が認められた。
B.ウリ類のコナダニ類
 1.発生被害実態調査
 (1)コナダニ類による被害は、キュウリ、メロン、スイカで認められた(表6)。
 2.加害種と被害
 (1)ウリ類に寄生するコナダニ類は、Tyrophagus属3種が確認された。
 (2)ケナガコナダニは比較的高温多湿を好む種で、加温したハウスでの発生は激しく、被害も多かった。
 (3)Tyrophagus similis、Tyrophagus sp.No3はともに高温、乾燥条件で発生は少ない種と考えられ、被害例も穂木の育苗床でのものであった。
 3.発生生態解明試験
 (1)被害再現試験
  ケナガコナダニはホウレンソウでは被害を示さなかった。多発には、ハウス育苗における高温多湿条件が必要と考えられた。また、T.similisは、接種したキュウリで被害を示さなかった。
 (2)発生消長調査
  ア.ケナガコナダニは育苗時の高温多湿条件下で急激に増加した(図5)。
  イ.育苗後、育苗床が乾燥すると、個体数は減少した(図5、6)。
  ウ.Acarus sp.もケナガコナダニと同様の発生推移を示したが、キュウリヘの加害はほとんど認められなかった(図6)。
 (3)発生源調査
  ア.栗沢町の調査で、ケナガコナダニ、Acarus sp.はモミガラ中で越冬し、翌年の発生源になっていると考えられた(表7)。
  イ.育苗土については、融雪後の数も少なく、使用前に臭化メチル剤を処理することなどから、発生源となる可能性は低い。
 4.防除試験
 (1)薬剤処理方法として、発生源と考えられるモミガラヘの処理が有効であった。
 (2)DCIP粒剤のモミガラ処理は、コナダニ類の発生をおさえ、被害も少なく有効であった(表8,9)。

10.主要成果の具体的数字
表1 前作とコナダニ類被害
昭和58年 昭和59年 昭和60年 コナダニ類の被害の実態
ホウレンソウ ホウレンソウ ホウレンソウ 17 11
*
ホウレンソウ ホウレンソウ 5 5
ホウレンソウ ホウレンソウ 1 1
ホウレンソウ 1 3
*その他の作物


図1 北海道におけるホウレンソウのコナダニ類の発生分布

表2 旭川市神居調査結果(昭和60年4月4日)
試料 ダニの種類と個体数
Tyrophagus similis Caloglyphus sp. ヒゲダニ sp.
ホウレンソウA(4株) ♂73,♀89,L:14
1N:32,2N:144
L:5
1N31,2N:6
A:31,L+N:26
H:10
ホウレンソウB(4株) ♂83,♀89,
1N:34,2N:144
♀1,L:8,
1N:15,2N:2
A:54,L+N:64
H:10
L:幼虫 1N:第1若虫 2N:第2若虫 A:成虫 H:ヒポプス(被害株率100%)


図2 ハウスホウレンソウのコナダニ類の寄生数と被害株率


図3 旭川市ハウスホウレンソウでの
   T.similis発生消長(昭和60年)

表3 栗沢町ホウレンソウでのT.similisの調査結果(昭和59〜60年)
試料 12月4日 4月3日 4月26日
ホウレンソウ(1株) T.s117 T.s.♂0.3,♀2.7,N:5.3 -
土(100g) - ロビンネダニ♂2,♀0.5 H:34
L+N:6.3
Caloglyphus sp.♂1   H:10
T.s.♀0.5,N:0.5
ロビンネダニ♂1.5
Caloglyphus sp.♂0.5,♀0.5


図4 長沼町露地ホウレンソウでのT.similis発生消長(昭和59年)

表4 旭川市西神楽(ハウス)での防除試験結果(昭和60年、各区30㎡)*
薬剤名 T.similis個体数 被害株率
5月21日 6月7日 6月18日

100g
ホウレンソウ
(1株)

100g
ホウレンソウ
(1株)

100g
DCIP粒剤 5 0.4 18.0 8.84 5.3 8%
PHC粒剤 5 0.2 11.5 7.17 3.0 10%
エチルチオメトン粒剤 5 0.43 16.5 25.4 3.5 9.3%
DDVP乳剤 5 - - 15.0 2.0 15%
無処理 5 0.53 33.0 36.0 2.5 44.7%
*粒剤は処理後、レーキで土とよく混和後、播種した。DDVPは、ホウレンソウ2葉期に散布

表5 旭川西神楽(ハウス)での防除試験結果(昭和61年、各区30㎡)
薬剤名 T.similis個体数 被害株率
3月17日 4月10日 4月25日

100g
ホウレンソウ
(1株)

100g
ホウレンソウ
(1株)

100g
DCIP粒剤 0 0.3 1.0 16.2 6.0 19.1%
PHC粒剤 0 0.45 12.0 34.7 2.0 23.0%
エチルチオメトン粒剤 0 0.8 8.0 52.0 1.0 50.7%
DDVP乳剤 0 0.4 0 23.1 5.0 19.1%
無処理 0 0.5 6.0 59.7 8.0 62.5%
*粒剤は処理後、ローリーベーターで土とよく混和し、播種した。
 DDVPは、ホウレンソウ2葉期に散布した。

表6 ウリ類のコナダニ類実態調査(昭和61年)
調査市町村 栽培作物 調査
点数
採集
月日
コナダニ類
検出点数
加害種 被害程度
1.旭川市 神楽 キュウリ 1 4月 1 T.bilobatus T.similis
西神楽 キュウリ 1 4月 1 T.similis
上雨粉 キュウリ 1 4月 1 T.similis T.sp.No3
2.夕張市 メロン 1 5月 1 T.sp.No3
3.追分町 メロン 1 4月 1 T.sp.No3
4.三笠市 カボチャ 1 6月 1 T.putrescentiae T.sp.No3


図5 栗沢町キュウリ育苗ハウスにおける
  ケナガコナダニの発生消長(昭和58年)


図6 栗沢町キュウリ育苗ハウスにおける
   Acarussp.の発生消長(昭和59年)

表7 栗沢町でのコナダニ類の発生源調査(昭和59〜61年)
試料 昭和59年 昭和61年
(Acarus多発)
12月4日 4月3日 4月15日 4月25日 5月11日 10月
28日
5月1日
モミガラ
(100g)
Acarus sp.♂1 Acarus sp.
♂4,N:1
T.p.♂7,
♀10,N:1
Acarus sp.
♂2,♀4,
L:1,H:0.3
♂3,♀3,
  N:5
0 Acarus sp.
400
育苗土
(100g)
T.p.♂3,♀5,L1
T.s.♂1
Acarus sp.♀3,
不明ヒポプス100
T.p.♀0.5,
T.sp.B N:1
Acarus sp.
♂0.5,N:1
不明ヒポプス100

表8 モミガラ処理による防除試験(昭和60年)
薬剤名 ケナガコナダニ個体数(土・モミガラ(100g),キュウリ1株当たり)
4月25日 4月25日 5月17日 5月21日 5月27日 5月30日
モミガラ モミガラ キュウリ キュウリ キュウリ キュウリ 被害株率
DCIP粒剤 Acarus.sp Acarus.sp 0 0.7 1 0.7 8 0 0 0 4.1%
エチルチオメントン粒剤     0 0 45 0.7 37 3.7 34 2.3 20.3%
無処理 7 11 1 0.3 36 1.7 53 0.7 31 1.3 57.1%
DCIP粒剤 Acarus.sp Acarus.sp 0 0 6 0.7 6 0 0 0 14.1%
エチルチオメントン粒剤     0 0.3 18 2.0 9 3.3 4 2.0 22.1%
無処理 7 11 1 0.3 53 8.3 55 4.3 12 5.3 63.9%
薬剤処理日 5月13日、処理前、モミガラに室内飼育したケナガコナダニを接種。

表9 モミガラ処理による防除試験(昭和61年)
薬剤名 ケナガコナダニ個体数(土・モミガラ(100g),キュウリ1株当たり)
4月28日 5月1日 5月3日 5月5日 5月9日
モミガラ キュウリ キュウリ 被害株率
DCIP粒剤 ケナガコナダニ7
Acarus sp.43
Acarus sp.3 0 A.sp.1 0 0 0 0%
無処理 ケナガ45
Acarus sp.136
ケナガ3
A.sp.19
ケナガ15
A.sp.47
ケナガ15
A.sp.68
ケナガ1.9
A.sp.16.4
ケナガ6
A.sp.27
ケナガ1.2
A.sp.1.4
54.8%
薬剤処理日 4月28日、処理前、モミガラに室内飼育したケナガコナダニを接種。

11.今後の問題点
 1.Tyrophagus sp.No3の生態等の解明

12.成果の取り扱い
 A.ホウレンソウのコナダニ類
  1.ホウレンソウに寄生し、被害を与えるのはTyrophagus similis、Tyrophagus sp.No3、Mycetoglyphus fungivorusの3種であった。
  2.連作ほ場で発生が多く、ホウレンソウ残渣等が発生源となると考えられるので、ほ場に残渣等を残さぬよう努める。
  3.ハウス栽培では、露地より発生が多いため、特に残渣等を残さぬよう注意する。
  4.DCIP粒剤(30%)30㎏/10aの播種前全面施用、または、DDVP乳剤(50%)1000倍液の2葉期1回散布は、有効である。
 B.ウリ類のコナダニ類
  1.ウリ類に寄生し、被害を与えるのはケナガコナダニTyrophagus putrscentiae,Tyrophagus similis,Tyrophagus sp.No3の3種であった。
  2.保温資材として用いるモミガラ等が発生源と考えられるので、使用前に充分に乾燥させるか、薬剤処理をすることが望ましい。
  3.DCIP粒剤(30%)30g/㎡のモミガラ処理は、効果が高く有効であった。
 C.
  1.DCIP粒剤(30%)…劇物,魚毒A,
              未登録(キュウリ・スイカ;センチュウ類で登録有)
  2.DDVP乳剤(50%)…劇物,魚毒B,
              未登録(キュウリ・スイカ;アブラムシ類で登録有)