【指導参考事項】
1.課題の分類  虫害・水稲
2.研究課題名  イネミズゾウムシの発生について
3.期   間  昭和61年
4.担   当  道南農試病虫予察科、中央農試病虫部発生予察
         科、害虫科、稲作部栽培第2科、上川病虫予察
         科、農務部農業改良課、病害虫防除所
5.予算区分  補助・道費
6.協力分担  北海道農試病理昆虫部虫害第1研究室、横浜植
         物防疫所札幌支所、専技室、農業改良普及所

7.目的
 イネミズゾウムシは、昭和51年愛知県下で我が国では最初に発見されたアメリカからの侵入害虫で、本道への侵入を警戒して毎年確認調査を実施していたが、本年6月渡島支庁管内大野町で発生が認められた。以来、道内の稲作地帯における発生分布確認の強化、ならぴに発生生態及ぴ防除対策等の緊急対策調査を実施した。

8.試験研究方法
(1)発生確認調査
 1)調査時期  6月中旬〜7月上旬:越冬後成虫
          7月中旬       :幼虫
          8月上旬〜9月上旬:新成虫
 2)調査方法  水稲作付面積がおおむね200ha以上の94市町村を対象に関係機関、団体の協力を得て、交通量の多い道路沿いや、生息に適すると思われる山沿いの水田を重点に調査。また発生を確認した渡島、後志、上川及ぴ胆振は、発生地中心に近隣町村の濃密調査を実施した。
(2)緊急対策調査
 1)発生生態調査  道南農試、中央農試病虫部(北後志普及所協力)
 2)防除対策調査  道南農試

9.結果の概要・要約
(1)発見の経緯
 1)渡島 本年6月11日大野町の千代田及ぴ一本木地区の水田において、イネミズゾウムシに酷似した成虫の発生及ぴ食害葉を発見した。これを農水省横浜植物防疫所調査研究部に同定を依頼したところ、本種と同定された。
 2)さらに、6月13日確認調査、6月17〜18日同地区を中心に近隣町村の濃密調査を実施した結果、大野町千代田、一本木、清水川、開発、南大野、長橋、上磯町中野、中野通り、七飯町峠下、藤城、桜町地区などに45.2haの発生を確認した。
 3)後志 6月30日余市町黒川地区の水田に成虫及ぴ食害葉が発見された(横浜植防札幌支所同定)。さらに、7月3日濃密調査を行った結果、仁木町にも発生が確認され、発生地区は、余市町17区、黒川共和、黒川、豊丘1、豊岡中央、仁木町稲園、協和、金光、瑞穂地区などに15.0haの発生を認めた。
 4)上川 7月16日旭川市永山の水田に成虫の発生を確認した。さらに7月19〜20日付近の水田を中心に濃密調査を行ったが新たな発生は認められず、発生確認面積は0.1haで数株に幼虫の寄生を認めた。
 5)胆振 9月9日伊達市の水田で新成虫を確認し、9月10日に実施した濃密調査の結果、
発生地区は伊達市弄月・中稀府、長和、上長和たど4地区に2.7ha発生を認めた。
(2)発生地の特徴
 発生を確認した渡島、後志、上川及ぴ胆振管内の発生地には類似する点が多い。いずれの発生地も国道や道々などの幹線道路沿い付近の水田。人家、果樹園、道路及ぴ水路の土手などに囲まれた風通しの悪い水田等に発生頻度が高い傾向にみられた。
(3)侵入経路
 渡島管内の発生地は青森〜函館間のフェリーボートに比較的近く、本年確認した4管内はいずれも幹線道路沿い付近の水田での発生頻度が高い。また、発生地域が渡島、後志、上川及ぴ胆振などと広範囲にわたっていることなどから、トラックなど交通機関による移動侵入の可能性が高いことが推定された。北海道への侵入発生年次は、比較的発生密度の高い渡島及ぴ後志管内は2〜3年前から侵入していた可能性が高い。
(4)形態的特徴
 1)成虫 体長約3㎜で、コクゾウムシと同程度の大きさである。体色は灰褐色で背面に黒色の斑紋があり、触角は赤褐色こん棒状で、中脚の脛節に細い長毛を有している。
 2)卵  長径約0.8㎜の乳白色で若干わん曲し、水面下の稲葉しょう内に産みつけられた卵は肉眼で見ることが困難であるo
 3)幼虫 乳白色で、4齢を経過老熟すると体長8〜10㎜に達する。頭部は黄褐色で脚は退化している。腹部背面に6個の突起(ドーサルフック)がみられる。
 4)蛹  老熟幼虫は根に付着して土まゆをつくり、その中で蝿化する。土まゆは卵形で長径約5mm、蛹は乳白色で体長3〜4㎜で頭部は根部側に位置している。
(5)北海道における発生経過
 本年度発生を確認した大野町と余市町で調査を実施した結果から、つぎのように推定された。
 1)越冬後成虫 水田への侵入は、田植え後間もない5月末ころから始まり、侵入盛期は6月中〜下旬と推定される。
 2)幼虫 6月下旬から認められ、寄生盛期は7月下旬で、9月上旬に終息する。
 3)土まゆ(蛹) 7月下旬から認められ、その盛期は8月下旬ころと推定された。
 4)新成虫 出現は8月半ばころから始まり、盛期はおおよそ9月上旬で、発生後は順次水田に隣接する畦畔たどの越冬場所に移動するものと考えられた。
 5)以上の発生経過を東北地方や北陸地方に比べると、北海道における各態の盛期は10日内外の遅れがあるものと思われる。
(6)防除対策
 1)茎葉散布 越冬後成虫の密度低下をはかるため10a当り4kg2回散布を行った結果、エトフェンプロックス粉剤、MPP・BPMC粉剤、MEP・BPMC粉剤及ぴピリダフェンチオン、MTMC粉剤は、無散布に比較して幼虫及ぴ土まゆの寄生数を1/4以下に抑制した。しかし、生育及ぴ収量は判然とした差がみられなかった。
 2)水面施用 幼虫の寄生密度低下をはかるため10a当り4kg2回施用を行った結果、PHC粒剤、MPP・MIPC粒剤、シクロプロトリン粒剤、MPP・PHC粒剤及ぴMPP・BPMC粒剤は、無施用に比較して幼虫及ぴ土まゆの寄生数を1/5以下に抑制した。
しかし生育、収量は判然とした差がみられなかった。
以上のように防除薬剤は未検討の部分が多いので、当面はヒメトビウンカ、イネクビボソハムシ、イネハモグリバエ、イネミギワパエとの同時防除を考慮して使用薬剤の選定が 望ましい。
 3)防除時期 十分な検討を行っていないが、越冬後成虫の発生状況及ぴ幼虫の寄生状況から推定すると、越冬後成虫を対象とした茎葉散布は、水田への侵入が目立ってくる6月 中旬とその10日後の散布が必要と思われる。また、幼虫を対象とした水面施用は越冬後 成虫の盛期とその10日後の2回施用が必要である。なお、このほか育苗箱施用は未検討で あるが、府県の試験例では、本種の生態上から最も適した防除法とされている。

10.主要成果の具体的数字


図1 発生確認市町村および月日

表1 各市町村における発生面積
支庁別 市町村別 発生
面積
発生
面積率
発生程度別面積
渡島 大野町 30.4ha 2.5% 25.3 4.1 0.5 0.5
上磯町 14.0 2.7 13.2 0.8    
七飯町 0.8 0.1 0.8      
45.2 1.7 39.3 4.9 0.5 0.5
後志 余市町 10.1 10.7 5.5 4.0 0.6  
仁木町 4.9 0.8 4.1 0.8    
15.0 2.0 9.6 4.8 0.6  
上川 旭川市 0.1 - 0.1      
胆振 伊達町 2.7 0.8 2.7      
(注)発生程度別面積は食害株率によった。
「少」〜3%、「中」〜30%、「多」〜80%、「甚」〜100%


図2 渡島における発生確認地区


図3 後志における発生確認地区


図4 越冬後成虫および食害消長


図5 新成虫発生消長


図6 幼虫および土まゆ寄生消長


図7 幼虫の齢構成(余市)


図8 イネミズゾウムシ発生経過模式図


図9 粒剤の水面施用効果

11.今後の問題点
(1)北海道における発生動向のは握
(2)水稲の被害解析
(3)防除対策

12.成果の取扱い
 当面の対策として次のことが考えられる
(1)本年北海道に初発生したイネミズゾウムシは、渡島、後志、上川、胆振管内など広範囲にわたって確認された。従って、これらに隣接する支庁管内でも発生、定着することが十分予測されるので、早期発見に努める。また、府県の発生状況は、発見3年目ごろ爆発的に発生面積が増大しているので、確認地域は防除の徹底をはかり、発生拡大防止に努める。
(2)発生地は、国道及ぴ道々などの幹線道路沿い付近の水田。人家や果樹園、道路及ぴ水路などの土手等に囲まれた風通しの悪い水田で発生頻度が高かった。従って、このような環境の水田は特に注意を要する。
(3)防除時期 越冬後成虫及ぴ幼虫の発生経過から粉剤の茎葉散布は、6月中旬と、その10日後の2回散布が必要である。なお、成虫は日没前後に飛しょうする習性が知られているので、散布は夕刻時に行うことが望ましい。また、水田を浅水にし、パイプダスターを使用するなど稲体に薬剤が十分付着するように散布する。
 一方、粒剤の水面施用は、成虫の盛期と、その10日後の2回施用が必要で、水田を浅水にし、施用後5日内外留水にする。
(4)防除薬剤水面施用は、PHC粒剤、MPP・MIPC粒剤、MPP・PHC粒剤、MPP・BPMC粒剤10a当り4kgの2回施用が有効である。
 なお、使用薬剤の選定は、水稲の生育初期害虫との同時防除を考慮して選定することが望ましい。