【指導参考事項】
完了試験研究成績
(作成 63年1月)
1.課題の分類  果樹 リンゴ 栽培
          北海道 果樹 リンゴ 栽培
2.研究課題名  組織培養による園芸作物の繁殖技術確立試験
          1.リンゴわい性台の増殖法に関する試験
3.予算区分  道単
4.研究期間  (昭和58〜62年)
5.担 当  中央農試 園芸部果樹科
6.協力・分担関係  中央農試 園芸部野菜花き第1科

7.目的
 わい性台木の中には、挿し木法や取木法などで従来の繁殖方法では増殖が難しいものがある。そこで、茎頂培養法を利用して、大量増殖技術の確立を図る。

8.試験研究方法
(1)茎頂培養方法
  茎頂培養による繁殖はJones et al.(1977)に従い培養確立、増殖、発根、順化の4過程について行った。
 培 地:MS培地にシュクロース(30g/L)、pH5.8、寒天0.7%、目的に応じて植物ホルモン等を加えた。
 培養条件:温度25℃、照度2,000〜3,000Lux全明。
 茎頂採取:5〜6月に新梢先端から0.5〜1.0㎜の大きさで採取。
(2)培養台木に接いた苗木の生育調査
  ①茎頂培養を行ったM26と取木によって増殖したM26に、昭和60年春、「ハックナイン」及び「つがる」の接木を実施し、昭和61年春に定植した。樹の生育調査を昭和61年秋、昭和62年秋に行った。
  ②昭和62年春に、培養M26と取木M26にウィルス指標植物(マルス・シャイデケリー、ミツバカイドウMo-65、バージニアクラブ、マルス・プラチカルパ)の接木を実施し、接木1年目における病徴を調査した。

9.結果の概要・要約
(1)茎頂培養方法
 ①M26の植物ホルモンの最適濃度は、シュートの増殖ではBA1㎎/L、発根ではIBAO.1〜1.0㎎/Lであった。茎頂採取による培養確立率は7〜24%(第1表)、増殖過程における培養1か月後のシュート発生本数は(第2表)2.7〜4.3本/株(平均3.2本/株)、このうち発根試験用に使える長さ1㎝以上のシュートは、1.5〜1.9本/株(1.7本/株)であった。また、2〜3芽ついたシュートの切片を次回の培養の植込み片として用いる場合には、一株から7.5〜10.7個/株(平均9.9個/株)の組織片が得られた。発根率は70〜90%で、PGを添加すると発根率は高くなった(第1図)。鉢上げ時の順化率は80〜96%(第3表)、定植時の活着率は97〜100%、育成2年後における接木可能個体率は93〜97%であった(第4表)。
 ②M26以外の台木については、M27、Bud9、Ottawa3、M7、M9、MM111について培養が確立し、このうちM27、Bud9については発根過程までの試験を行った。Bud9については、発根率が低く、最高でも40〜55%であった。M9およぴOttawa3については、シュートの増殖培地の検討が必要である。
(2)培養台木に接いだ苗木の生育
  培養M26と取木M26に接いだ苗木の生育は、培養M26の方が総新梢長が長く、樹体生育が優れた(第5表)。また、ウィルス検定の結果では、ACLSV(リンゴクロロティックリーフ スポットウィルス)については、培養M26ではマイナスであり、取木M26では指標植物に病 徴が認められた。樹体生育に差が生じた主な原因としてACLSVなどウィルスの感染の有無 が関係していると考えられた。

10.成果の具体的数字
 第1表 各台木の培養確立率(採取2〜3ヶ月後)
  BA
濃度
植え
込み数
培養確立
個体数
培養確立
個体率(%)
M 27 1.0 5 1 20
M 9 0.3 10 1 10
1.0 10 2 20
3.0 9 1 10
M 26 1.0 36 5 14
1.0 28 2 7
1.0 17 4 24
M7 1.0 14 1 7
MM111 1.0 15 1 7
Bud 9 1.0 21 1 5
1 7* 5 71
Ottawa3 1.0 26 2 8
  *培養中のシュートからの茎頂を採取した。

第2表 M26の増殖過程におけるシュートの増殖率及び組織片獲得率
試験
回数
供試数 1株当り
発生
シュート数
同左
1cm以上
発根用
シュート数
同左
シュート
合計長(cm)
同左
次世代用
組織片数
1 15 2.8 1.5 2.8 10.7
2 14 4.3 1.9 3.4 11.5
3 15 2.7 1.8 2.8 7.5
4 13 2.8 1.6 3.7 -
平均 - 3.2 1.7 3.2 9.9
 調査 培養1カ月後
 MS培地 BA1mg/L


第1図 フロログリシン(PG)の添加が発根率に与える影響

 第3表 M26の順化率
カルスの付着1)
状態
供試数 活着率
(%)
A 44 20
B 48 96
C 48 63
 鉢上げ時期 昭和58年5月10日

注1)カルスの付着状態

第4表 M26の成苗化率
カルスの付着1)
状態
供試数 活着率
(%)
A 44 20
B 48 96
C 48 63
 注2)定植 昭和58年7月1日
  3)茎径が7.5mm以上(エンピツの太さ程度)の苗の割合

第5表 茎頂培養M26と取木M26の樹体生育の比較(S62年)
穂品種 台木 幹周
(cm)
樹高
(cm)
新梢長A
(cm)
1樹当り
発生新梢数
(本)
1樹当り
総新梢長
(cm)
平均
新梢長
(cm)
ハックナイン 培養M26 6.7 180 77.8 10.8 590.2 558
取木M26 6.0 150 60.1 8.8 440.9 49.7
有意差 n.s. ** * * ** n.s.
つがる 培養M26 6.3 186 62.0 12.8 629.2 48.9
取木M26 4.7 172 82.3 7.2 443.2 68.6
有意差 ** n.s. * * * **
 供試樹数:「ハックナイン」各12樹、「つがる」各5樹(昭和60年接木)
 調査:昭和62年11月(樹令2年生)、有意差の検定はF検定で行った。
 *新梢長A:主幹用の候補枝


 第2図 リンゴわい性台木の茎頂培養による繁殖過程

11.成果の活用面と留意点
(1)茎頂培養方法による増殖率は、取木法などに比べはるかに高いが、圃場に定植後に接木が可能になるまでの年数は、茎頂培養法の方が1年長くかかる。そのため台木の増殖計画に応じて、方法を使い分ける必要がある。

12.残された問題とその対応
  Bud9、Ottawa3など一部の台木については、本道での有用性を明らかにした上で、培養法の検討を加える必要がある。