完了試験研究成績

【指導参考事項】

(作成 63年1月)

1.課題の分類 北海道 畜産 乳牛 飼養技術 根釧農試

2.研究課題名 放牧草の摂取量の季節変動および補助飼料の給与効果

3.予算区分 特別(寒地酪農)

4.研究期問 (昭59年−61年)

5.担当 根釧農試 酪農第一科 酪農第二科

6.協力・分担

7.目的
 乳牛による放牧草からの栄養摂取量が、季節によってどのように異なるかについては明確にされていない。そこで本試験では、放牧草からの栄養摂取量および乳生産限界を季節別に明らかにするとともに、放牧期における補助飼料の給与効果について検討する。

8.試験研究方法
 春(6月)・夏(8月)、秋(9-10月)の3季(各季28日間)にわたり、泌乳安定期(分娩後100日以降)の乳牛を日中8時間放牧し、放牧草の栄養摂取重を季節別に検討するとともに、放牧期における補助飼科の併給が、放牧早の摂取量および乳生産におよぼす影響を平行比較試験法により検討した。
 試験1:濃厚飼料の併給効果(給与量 乳量の0,1/6,1/3kgDM/日)
 試験2:牧草サイレージの併給効果(給与量 0,3,6kgDM/日)
 試験3:とうもろこしサイレージの併給効果(給与量 0,3,6kgDM/日)

9.結果の概要・要約
 1)放牧草の乾物中のTDN含量は、春・夏・秋季でそれぞれ75.0,69.0,67.7%であり、春季に比べ夏・秋季で低かった(P<.05)のに対し、放牧草の乾物中のDCP含量は季節間に明確な差はみられなかった(表1)。
 2)補助飼料無給与群の代謝体重当たりの放牧草の乾物摂取量を季節間で比較した結果、放牧草の乾物摂取量(g/代謝体重/日)は、春・夏・秋でそれぞれ128.5,108.7,113.3gであり、夏・秋季におげる放牧草の乾物摂取量は、春季に比べ約15%減少した(P<.05,表1)。
 3)放牧草からのTDN摂取量を季節間で比較してみると、夏・秋季における放牧草からのTDN摂取量は春季に比べ約20%減少した(表1)。
 4)放牧草からのTDN摂取量を日本飼養標準(1974)に照らし、放牧草だけからの乳生産量を算出した結果、春・夏・秋季でそれぞれ20.0,12.1,12.7(㎏FCM/日)であり、春季に比べ夏季以降では放牧草だけからの期待乳生産量は約40%減少した。
 5)放牧期に牧草サイレージを併給することにより、放牧草からの乾物およびTDN摂取量は低下したが、乾物およびTDNの総摂取量は増加した。また、濃厚飼料・とうもろこしサイレージを併給した場合の放牧早の摂取量は、補助飼料無給与群とほぼ等しかった(表2,図)。
 6)各補助飼料の併給により泌乳持続性は向上し、牧草ならびにとうもろこしサイレージの併給において、その効果は春季に比べ秋季の方が大きかった。また、補助飼料無給与群では体重の減少がみられたが、各補助飼料を給与したことにより、体重の減少を抑制することができた(表2)。
 7)放牧草の摂取量の目安として、試験1,2の結果から、濃厚飼料・牧草サイレージ併給時における放牧草の乾物摂取量を試算した(表3)。

10.成果の具体的数字

表1 放牧草の摂取量および放牧草からの期待乳生産量
 
  ─㎏DM/10a/日─
放牧草の再生量 7.67 5.77 5.39
  ─%─
放牧草のTDN含量 75.0a 69.0b 67.7b
放牧草のDCP含重 13.7 15.4 14.5
  ─g/代謝体重/日─
放牧草の摂取量 乾物 128.5a 108.7b 113.3b
TDN 96.4a 75.0b 76.7b
放牧草からの期待乳重
(体重600㎏)
─㎏FCM/日─
20.0 12.1 12.7
'a,b:P<.05

表2 乾物摂取量、FCM乳量および体重
補助飼科
濃厚飼料 (㎏DM/日/MY) 0 1/6 1/3 0 1/6 1/3 0 1/6 1/3
乾物摂取量 (㎏/日) 放牧草 14.9 14.6 15.1 13.5 13.9 11.8 14.4 13.3 13.5
補助飼料 0.0 3.7 7.9 0.0 3.1 6.0 0.0 3.0 6.7
合 計 14.9 18.3 23.0 13.5 17.0 17.8 14.4 16.3 20.2
FCM乳量 (㎏/日) 21.8 23.6 23.8 17.2 20.4 19.0 19.2 20.0 20.2
   持続率 (%)1) 92 106 117 80 104 103 80 89 95
体 重 (㎏) 498 601 567 529 668 594 595 583 603
体重の増減 (㎏/日) -1.0 -0.3 0.1 -0.6 0.2 0.4 0.0 0.1 0.8
牧草サイレージ (㎏DM/日) 0 3 6 0 3 6 0 3 6
乾物摂取量 (㎏/日) 放牧草 13.2 11.0 10.0 12.0 9.5 8.4 12.9 10.9 9.0
補助飼料 0.0 3.0 4.8 0.0 3.1 5.6 0.0 3.3 6.0
合 計 13.2 14.0 14.8 12.0 12.6 14.0 12.9 14.2 15.0
FCM乳量 (㎏/日) 21.8 22.7 20.8 17.3 17.5 18.8 16.4 16.8 16.9
   持続率(%)1) 87 90 86 79 83 82 69 77 80
体 重 (㎏) 515 553 541 524 575 578 599 617 617
体重の増減 (㎏/日) -1.1 -0.4 -0.3 -0.3 -0.1 0.3 -0.7 -0.3 -0.2
とうもろこしサイレージ(㎏DM/日) 0 3 6 0 3 6 0 3 6
乾物摂取量 (㎏/日) 放牧草 14.2 12.7 13.2 10.8 10.7 10.6 13.4 12.3 12.5
補助飼料 0.0 3.0 5.8 0.0 2.6 5.0 0.0 2.1 3.8
合 計 14.2 15.7 19.0 10.8 13.3 15.6 13.4 14.4 16.3
FCM乳量 (㎏/日) 21.0 23.6 24.8 13.2 16.1 22.3 19.2 23.0 24.0
   持続率(%)1) 78 92 88 68 78 82 69 72 85
体 重 (㎏) 555 576 528 561 613 571 582 584 617
体重の増減 (㎏/日) -1.4 -0.9 -0.4 -0.9 0.0 -0.5 -1.9 -1.2 -0.7
1)持続事=l00×(試験終了時1週問の平均日乳量)/(試験開始前1週問の平均日乳重)

表3 牧草サイレージ併給時における放牧草の摂取量の試算
牧草サイレージ
摂取量
(㎏DM/日)
濃厚飼料摂取量(㎏DM/日)
0 2 4 0 2 4 0 2 4
  ─㎏DM/日(BW=600㎏)─
0 15.6 15.2 14.9 13.2 12.8 12.5 13.7 13.4 13.0
2 14.1 13.8 13.4 11.6 11.2 10.8 12.4 12.0 11.6
4 12.7 12.3 11.9 9.9 9.6 9.2 11.0 10.6 10.3
1)体重600㎏として算出 2)濃厚飼科、牧草サイレージのTDN含量(乾物中)は、それぞれ85%,65%とした。

                              乾物摂取量(g/代謝体重/日)



図1 放牧草および補助飼料からの乾物摂取量の推移

11.成果の活用面と留意点
 放牧草の採食量は、春季に比べ夏季以降では約15%低下した。しかし、夏季以降、不食過繁草や枯草が増加するような放牧草地管理においては、放牧草の採食量はさらに低下することを充分考慮すべきである。
 濃厚飼料ならびに牧草サイレージ供給時における放牧草の摂取量を試算した値は(表3)、乳量20㎏前後の泌乳安定期の乳牛に適用する。

12.残された問題点とその対応
 乳量水準または泌乳ステージと放牧草の採食量の関係
 牧草サイレージの栄養価と放牧草の採食量の関係
 放牧時期とミネラル出納(特にマグネシウム)との関係