完了試験研究成績

【指導参考事項】

(作成63年1月)

1.課題の分類
総合農業 営農 経営 経営方式
北海道 畜産 乳牛  飼養技術 根釧農試

2.研究課題名 ロールベールサイレージの経営経済的評価

3.予算区分 地域重要新技術開発促進事業

4.研究期間 (昭61年〜62年)

5.担 当 根釧農試 経営科、酪農第1科 酪農施設科

6.協力・分担関係

7.目的
 ロールベールサイレージの調製〜給与作業を対象に、効率的な作業体系を検討するとともにその経営的評価を慣行技術体系との関連で明らかにする。

8.試験研究方法
(1)根室支庁管内の酪農家を対象にアンケート調査を実施し、ロールベールサイレージ(以下、RBSと略する)導入の動機、調製〜給与作業の方法、間題点を把握する。
(2)作業体系の検討:ロールベールサイレージの先導的農家を対象に、時間計測及び聞き取り調査によって作業時間と物財費を把握する。
(3)経営的評価:実態調査の結果をもとに、1日当り調製可能面積を慣行体系と比較し、さらに標準的経営を想定してロールベールサイレージと慣行サイレージのコスト差を試算する。

9.結果の概要・要約
(1)ロールベールサイレージの動機と調製〜給与(アンケート調査)
 RBSの生産は、それの消費目的(=給与)を達成するための手段であるとの視点から、RBSの給与面を主要な分類指標とし、「通年」給与、「夏季〜舎飼移行期」給与、「舎飼移行期のみ」給与の3タイブに区分して、生産動機、調製〜給与方法、経営条件などを検討した。
 RBSの動機は、天候に即応できることを共通項とし、生産量が多くなり「通年」給与では労働効率と経済性が重要視される特徴がみられた。
 調製〜貯蔵方法も、タイプ間に違いがあり、少量生産・季節的給与ではバッグ密封・屋外貯蔵され、生産量が拡大し通年給与になると、バッグに加えてスタック密封が併用され、貯蔵も屋外貯蔵に屋内貯蔵が加わる。
 経営条件では、労働力1人当りの負担面積が大きい程、「舎飼移行期のみ」、「夏季〜舎飼移行期」、そして「通年」へと給与期間が長い傾向にあった。また、施設の遊休化を含めてアイドルコストの少ないことが「通年」給与を実行させ易くしているとみられる。
 以上から、RBS生産の動機、生産技術の違い、製品歩留まりなどが給与時期によって違いがあり、そのような差をもたらすものとして家族労働力の負担面積、既存施設の遊休が強く関連していることが推察された。

(2)ロールベールサイレージの労働時間と貧用(実態調査)
①RBSの1べール当り密封〜被覆労働時間は、スタック(3.02分)<屋外バッグ(5.04分)<屋内バッグ(6.04分)。スタックでは、貯蔵中にシートの覆土処理・開封後の一時貯蔵の作業が加わる。密封から貯蔵管理までの労働時間では屋外バッグ(5.33分)<屋内バッグ(6.04分)<スタック(6.17分)とスタックが最も労働時間が多い。
②RBSの給与労働時間を経産牛1頭15㎏でみると、舎外・草架(8秒)<舎外・給餌舎(20秒)<舎内・ローダ(25秒)<舎内・手フォーク(45秒)である。手フォーク利用は対尻構造による。
③ha当りの責用(労働費を除く)は、RBS<バンカーサイロ<スチールサイロである(表1)

(3)RBSの1日当り調製可能面積と費用(モデル試算)
①前日に予乾が完了し、当日の実作業時間を6.5時間、圃場までの距離をlkmとすれぱ、RBSの1日当り調製可能面積は3〜3.6ha。夜間作業を実施すれぱ、4.6haまで調製可能である(表2)。同一条件で牽引ハーベスタ体系と比較すると、OP2人では2.8ha、3戸共同作業を想定したOP3人では7.5haであり、RBSは個別の牽引ハーベスタ体系と同等以上の面積が処理可能。
②経産牛頭数40頭の経営を想定してRBSと共同作業の牽引ハーベスタ体系の刈取り〜密封・被覆(詰込み)までの費用を試算するとRBSがha当り104,326円、共同作業・牽引ハーベスタ体系は167,060円であった(表3)。RBSでは乾草の償却費もha当りでは縮小される結果、経営全体ではRBSの方が年間に175万円(物財費と保険料・資産税では171万円)コストが低い。RBSの貯蔵損失率10%を倍の20%にしても労働費を除いたコストはなお149万円低い。
 RBSは、労働力が少なく、機械施設の遊休化が生じない経営には低コストな技術である。

10.成果の具体的数字
表1. サイレージ生産〜給与に要する費用比較                         (ha当り円)
       区分
   農
     家
項目    番号
ロールベールサイレージ バンカー・サイレージ スチール・サイレージ
バッグ詰め スタック
個 別 作 業 個 別 個 別 作 業 共 同 個 別
R1 R4 R5 R6 R7 B1 B2 B3 S1 S2
密封資材費 6,745 4,891 4,104 5,706 3,924 391 1,049 874 0 0
被服資材費 978 796 1,132 1,664 2,220 200 625 89 0 0
その他の資材費 1,326 959 1,131 1,168 1,298 0 0 0 0 0
薬剤費 295 491 202 125 1,256 0 0 0 7,800 9,460
小農具費 132 106 151 254 1,214 62 30 72 39 74
修理費 4,199 3,658 3,740 7,689 5,000 15,957 5,614 1,299 4,173 16,577
動力費 2,488 2,340 1,818 1,833 2,056 2,447 2,223 2,256 5,481 4,401
肥科費 18,922 25,314 19,078 18,208 24,558 21,055 16,843 18,850 14,138 15,650
車検・保険料 2,751 2,369 1,335 1,466 3,000 2,075 1,621 2,857 2,234 1,055
資産税等 1,771 1,522 1,299 1,538 696 2,667 5,714 3,810 7,051 9,167
機械・施設費 27,440 32,527 36,354 29,379 40,986 42,587 85,186 65,198 81,558 101,240
合 計 67,047 70,344 70,344 69,030 86,208 87,441 118,905 95,305 122,474 157,624
注 1)ha当り費用=総費用÷サイレージのべ面積

表2. ロールベールサイレージの1日当り調製可能面積
労働力 密封・貯蔵方法 1日当り調製可能面積
夜間作業なし 夜間作業あり(夜間作業)
2人 1ベール・2重バッグ・屋内貯蔵 3.09ha 4.61ha(3.03時問)
2ベール・1重バッグ・屋外貯蔵 3.44ha 4.61ha(2.10時問)
3人 2ベール・1重バッグ・屋外貯蔵 3.64ha 4.61ha(1.63時問)
2人 牽引ハーベスタ体系 3.00ha -
3人 牽引ハーベスタ体系(3戸共同) 7.51ha -
注 1)牽引ハーベスタ体系は、牽引ハーベスタ、テッピングワゴン、ダンプトラック(共同では2台)、スチールサイロを使用。
   2)サイロから圃場までの距離はlkmとした。

表3 モデル経営におけるサイレージの費用比較(1ha当り)
モデル経営の概要:経産牛40頭、未経産牛40頭。家族労働力2人。
            草地の粗飼料生産はサイレージ:18.23ha、乾草:17.49ha
            牧草:21.09ha、草地面積56.81ha。
  ロールベールサイレージ
個別作業
ハーベスタ・スチールサイロ
サイレージ、3戸共同作業
機械・施設費 72,300円 128,686円
資材費 17,436  --- 
動力貧 2,842  4,951 
車検・保険料 1,956  10,970 
資産税 1,062  11,174 
労働税 8,730  11,279 
合計 104,326  167,060 

11.成果の活用面と留意点
 農家においてロールベールサイレージの生産技術が安定するまでは、損失率を踏まえ余裕ある生産計画とし、通年利用に向けては漸次的な生産量拡大によること。

12.残された問題とその対応
 ロールベールサイレージの飼料価値分析の結果を取り入れ、天候変化を牧草調製のリスク要因とし、飼料価値の損失を考慮した経済的評価を検討する。