完了試験研究成績  (作成 64年1月)

1.課題の分類  総合農業 耕地利用技術 畑作 栽培 作付体系
           北海道 地域水田農業 畑総 稲作 作付体系
2.研究課題名  田畑輪換を含む短期輪作の体系化に関する試験
3.予算区分  転換畑、水田畑作
4.研究期間  (昭和58〜63年)
5.担当  北海道農業試験場体系化研究班、気象反応研究室
6.協力・分担関係  なし


7.目的
 転換畑における大豆の連作は約37%、小麦は85%に達し、多収・高品質化阻害の一因となっている。そこで、連作の回避を目的に、主要畑作物による輪作と水稲を組み合わせた田畑輪換の現地試験を実施し、輪換利用による作物生産力の維持向上を図った。


8.試験研究方法
【試験Ⅰ】
 恵庭市の18.3ha、うち水田15.5haの水田農家の輪換4年目の畑で、1作物約0.8ha、計3.2haの規模で、58〜63年にわたり実施した。土壌は淡色、多湿黒ボク土で透水性は良く、30〜40㎝深に低位泥炭層がある。作付順序は生食用早生ばれいしょ−秋播小麦−てんさい−大豆−水稲に輪換(2カ年)の畑期間4年、水田期間2年の田畑輪換によった。
【試験Ⅱ】
 56〜63年にわたじ長沼町の細粒質灰色低地土(強粘質土壌)で大豆を中心としたぱれいしょ−春播小麦−大豆の3年輪作と1年の水田輪換および大豆の2〜4年の連作(比較として8年連作も設定)と1〜3年の水田の組合わせによる輪換を実施した。


9.結果の概要・要約
【Ⅰ.恵庭市】
 1)作物別の栽培法は適期播種、立毛数の確保、やや密植化、施肥の適正化に留意し、省力、多収化を
  図った(表1)。
 2)その結果、秋播小麦、てんさいの多収、省力化及び大豆はコンバイン収穫による現行の約30%減の省力
  化が実証された。なお、ばれいしょ(生食用)はでんぷん価の向上と収穫・選別の省力化が課題として残り
  てんさいの糖収量は10t/haをしのぐ場合が多かったが、糖分は低かった(表2、5)。
 3)輪作実施前(昭和57年10月)に比べ、4年後の畑期間終了時(61年11月)の窒素、りん酸地力は向上傾向
  にあった(表3)。
 4)転作の関係から、てんさい、秋播小麦跡のみを輪換した(図1)。輪換による漏水・農作業上の地耐力な
  どに問題はなく、連作田の収量をしのぎ、特に麦跡に比ぺ、てんさい跡で2カ年を通じ多収を示し、田畑
  輪換の効果が認められた(表4)。
【Ⅱ.長沼町】
 1)砕土率、出芽率は経年的向上の傾向を示し、また、輪作条件でやや高かった(表7)。
 2)ダイス茎疫羅病率は連作で高く、輪作で低くなる傾向を示した(表7)。
 3)収量は連作条件で3年目より生育量が劣り減収した。また、連、輪作の比較では各年とも輪作条件が生
  育、収量ともに勝った(表8、9)。
 4)ダイズシスト線虫は長期連作(8年)でも全く発生しなかった。
 5)輪換初年目の水稲は多収を示したが、畑期間の長短や前歴の影響は収量に判然とせず、畑期間にお
  ける春播小麦はハルユタカがハルヒカルに比べ30%以上増収した。また、ばれいしょ男爵薯は塊茎腐敗
  が多発した。
【総 括】
 恵庭市における現地実証試験の結果はこの作付体系が土壌生産力向上、多収省力型の一つのモデルであることを示したものである。
 田畑輪換のむずかしい強粘質土壌(長沼町)における現地試験の結果は畑期間における大豆作付けには3年以上の連作を避け、小麦を含めた輪作が望ましい。また、畑地化が困難なことも考慮すると、畑期間の長い田畑輪換の設定が有利であり、ぱれいしょの導入は不適当と判断された。


10.主要成果の具体的数字

Ⅰ.恵庭市における現地実証試験

表1  現地圃場栽培概要(畑作物は昭和61年、水稲は昭和62,63年)
作物名 供試品種 目標
収量
(t/ha)
播種・
移植期
(月.日)
栽植密度 施肥量(kg/10a) 収穫期
(月.日)
残渣処置
畦巾
(cm)
株間
(cm)
株/10a N P2O5 K2O
ばれいしょ 男爵薯 35(食用) 4.30 75.0 30.0 4444 4.9 12.6 12.5 9.上 すき込み
秋播小麦 ホロシリコムギ 4.5 60年9.16 15.0 条播 - 7.8 14.0 6.0 8.9 搬出
てんさい モノヒカリ 65 5.1 61.4 24.7 6609 15.1 20.7 15.8 11.上 すき込み
大豆 キタムスメ 3.3 5.14 60.0 17.8 9363 0.9 10.5 10.0 11.上 搬出
注)小麦の播種量16kg/10a.P2O5を基肥施用した以外は春に分施。てんさいには春に堆肥3t/10a施用。


作物名
目標収量
前作物名 移植期
(月.日)
栽植密度 施肥量(kg/10a)
基肥 N追肥
畦幅(cm) 株間(cm) 株/㎡ N P2O5 K2O 6月5日 7月13日
水稲
5.4t/ha
水稲(連作) 5.28 33 12.9 23.5 8.0 9.0 8.0    
秋播小麦 6.1 33 13.5 22.5 4.0(6.0) 10.0(7.4) 8.0(6.9)   2
てんさい 5.29 33 13.5 22.5 0(4.0) 10.0(4.9) 8.0(4.6) 2 2
注)苗は乾籾38g/箱、38〜40日の成苗ポット苗。連作田は現地試験農家水田の隣接田で別農家。
 上段の表の秋播小麦、てんさい跡を輪換
 62年:みちこがね、63年:ゆきひかり  施肥の( )は63年の実績


表2  輪換畑短期輪作における畑作物収量
作物名\年次 収量(kg/10a) 恵庭市収量(kg/10a) 品質(%,g)
58 59 60 61 58 59 60 61 60 61 備考
ばれいしょ - 3678 3103 4083 - 3600 3680 3990 13.4 12.3 でんぷん価
秋播小麦 - 520 480 601 - 229 421 403 784 751 リットル重
てんさい 5585 6380 7364 7046 5150 5500 6120 6520 14.9 15.5 糖分
大豆 353 428 340 381 287 336 340 313 26.5 29.3 100粒重
注)収量は坪刈り(堀り)約5点の平均値。恵庭市は実証試験の所在地で農林統計値。
 なお、秋播小麦は収穫年度で示した。
 大豆のコンバインのロスと試験区外を込みにした実収は、年次別に228,336,320kg/10a。


表3  短期輪作における土壌生産力の推移
    作付順序     孔隙率(%) N無機化量 全炭素 全窒素 有効態
リン酸
58 59 60 61 A B A B B B B
W B S P 64.5 71.3 10.7 18.3 6.67 0.504 32.7
(W) W B S 70.6 67.2 12.6 18.1 6.90 0.523 34.4
B S P W 75.2 71.1 14.7 16.6 6.03 0.479 31.0
S P W B 65.1 69.1 10.0 17.9 6.36 0.475 38.6
( 連作水田 ) 67.9 63.2 12.9 13.7 4.11 0.329 25.8
注)土壌採種期A:57年10月、B:61年11月、N無機化量は風乾土、30℃湛水、28日培養 Nmg/100g乾土
 リン酸はトルオーグ法、P2O5mg/100g乾土、W:秋小麦、(W):春小麦、B:てんさい、P:ばれいしょ、S:大豆


図1  田面起伏の推移


表4  輪換水稲の生育、収量
輪換前の
圃場条件
出穂期
(月.日)
㎡当たり 10a当たり
収量(kg)
同左比
(%)
登熟
歩合(%)
クズ米
歩合(%)
精玄米
千粒重(g)
穂数(本) 頴花数(千粒)



(62)
秋小麦 8.8 549 39 445 108 59.3 12.4 19.9
てん菜 8.8 608 44 483 117 55.5 11.9 20.0
水稲(連) 8.6 495 38 412 (100) 55.9 14.1 19.6
2


(63)
秋小麦 8.7 493 35 468 99 75.8 5.4 19.0
てん菜 8.7 546 43 532 112 64.1 5.8 19.37
水稲(連) 8.8 607 45 475 (100) 56.7 7.8 19.5
注)秋播小麦(61年の実収600kg/10a)稈は搬出、てんさい(根重7.48t)のトップはすき込み、
 連作田は試験区隣接田で別農家。恵庭市の平均収量は、62年410、63年430kg/10a。


表5  作業労働時間
作物名 ばれいしょ 秋播小麦 てんさい 大豆 水稲
年度 59 60 59 60 59 60 59 60 62
面積(a) 178 196 78 318 378 78 484 78 161
合計 870.5 991.5 23.4 104.9 936.0 220.0 417.7 69.5 446.0
時/10a 48.9 50.6 3.0 33 24.8 28.2 8.6 8.9 27.7
*北海道 22.8 15.7 3.1 2.9 24.1 23.8 11.7 13.0 34.9
注) *は北海道農林水産統計(農畜産物生産費)の値(時/10a)


Ⅱ.長沼町における現地試験

表6  栽培概要
作物名 品種名 播種植付期
(月.日)
栽植密度 施肥量(kg/10a)
畦幅 株間 株立本数 株/10a N P2O5 K2O MgO
水稲 キタヒカリ 5.28〜30 35 10   2857 6.0 17.5 7.2 3.0
大豆 キタホマレ 5.17〜29 60 20 2 8333 3.2 10.4 8.0 2.4
春播小麦 ハルヒカリ 4.30〜5.1 30 条播     6.0 10.0 5.0 3.0
ばれいしょ 男爵薯 5.6〜9 75 30   4444 9.6 24.0 19.2 8.4
注)春播小麦・・・61、62年はハルヒカリ、ハルユタカを供試、播種量は12kg/10a


表7  田畑輪換と砕土性、出芽率
年次 作付順序 砕土率(%) 出芽率(%) 茎疫病
羅病率(%)
58 (3S) 70.5 76.3 53.1
(P-W-S) 74.1 77.6 0.3
63 (3S)-R-(4S) 72.7 80.2 47.8
(S-P-W)-R-(S-P-W-S) 78.1 83.3 29.7
注)S:大豆、R:水稲、P:ばれいしょ、W:春播小麦、( )は畑期間、数字は連作年数


表8  水田輪換前の大豆の生育収量
年次 作付順序 LAI
(8月20日)
着莢数
(㎡)
1莢内粒数
(粒)
収量 100粒重
(g)
kg/10a 対比(%)
58 (3S) 3.36 530 1.87 264 81 27.7
(P-W-S) 5.68 629 1.87 326 (100) 31.5
59 2R-(2S) 3.92 654 1.91 355 (100) 30.4
R-(3S) 3.89 653 1.88 336 95 29.0
(4S) 3.73 675 1.83 323 91 28.2
注)作付順序の記号は表8に準じる。


表9  田畑輪換における連・輪作と跡地の大豆の生育収量(63年)
作付順序 LAI
(8月20日)
着莢数
(㎡)
1莢内粒数
(粒)
収量(kg) 100粒重
(g)
10a 対比(%)
(3S)-R-(4S) 3.41 777 1.79 283 82 24.9
(S-P-W)-R-(S-P-W-S) 4.32 868 1.85 347 (100) 25.9
2R-(2S)-3R-(S) 4.67 776 1.79 389 (100) 29.8
(4S)-2R-(2S) 4.40 785 1.87 383 99 28.5
(4S)-R-(3S) 2.60 727 1.84 302 78 27.1
(8S) 2.50 722 1.77 283 73 25.0
注)作付順序の記号は表7に準じる。


11.成果の活用面と留意点
 石狩、空知南部及びこれに準ずる地帯で、排水良好な輪換畑に適用できる。なお、大豆は褐目、中粒種を作付したが、需要に応じた白目種への切り替えとそのための多収化技術の開発が必要である。さらに、排水の悪い条件では、ばれいしょを避け、春播小麦に換えることも可能と判断される。

12.残された問題と留意点
 輪換畑におけるばれいしょでん粉価とてんさいの糖分向上対策。ダイズ茎疫病防除法の確立。抜本的排水対策などの基盤整備。