1.課題の分類 総合農業 作業技術−施肥・播種-3 北海道 農業物理 2.研究課題名 平畦マルチ機械化体系 (寒地・寒冷地における野菜の新作型開発と高品質生産安定技術の確立) (マルチ栽培における省力機械化と生産安定技術) 3.予算区分 地域重要新技術 4.担当 十勝農業試験場 農業機械部 5.研究実施年度研究期間 昭和61〜昭和63年 6.協力分担関係 中央農業試験場 園芸部・農業機械部 |
7.試験目的
十勝地方で主にマルチ栽培が行われている作物はスイートコーンで収益性向上、生産安定、品質向上を目的として行われている。現在、スイートコーンの栽培面積は5600haで、うち20〜30%がマルチ栽培である。現行のマルチ栽培は機械化体系が成立しておらず、発芽時の孔あげ、フィルム除去等が人力作業で、労働時間が多く労働負担が極めて大きい。そこで、大規模畑作に適合する平畦施肥播種マルチャおよびマルテフィルム除去機を開発し、省力機械化と安定生産に寄与する。
8.試験研究方法
1)試験期間,場所 昭和61〜63年,道立十勝農試および現地圃場
2)供試機 施肥播種マルチャ:JS2200M,フィルム除去機:NMS01
9.結果の概要・要約
1)平畦マルチャの開発改良
@施肥播種マルチャ
開発した施肥・播種マルチャはトラクタ直装,トウモロコシ専用で施肥・播種と同時とマルチ作業が行える。播種条数は2条,畦幅は1m,株間は10〜30pまで2p毎に設定可能で,空気式播種機であるため1粒点播が可能である。春,風によりフィルムが飛散するのを防止するため,フィルムと地面を密着させるための鎮圧ローラ,畦の中央部に土をかけるコンベヤを装着した。
A播種精度
種子はメローゴールド,ジュビリー,ページェントを用いた。改良区は空気式施肥播種機,対照区は傾斜目皿式播種機を用いた。株間はほぼ設定どおりに播種され,1株当りの粒数は空気式播種機では1粒割合は90%と高かったが,傾斜目皿式播種機では45%程度と少なく多粒播であった。欠株は両区ともほとんど認められず播種精度は良好であった。発芽に支障がないように,発芽部にスリット状に切れ目を施したフィルムを使用したが、発芽時の開孔補助率は現地圃場では10%程度であった。
B生育,収量
生育は改良・慣行マルチ区では草丈,葉数に差が認められずほぼ同じ生育を示したが、対照区は生育が劣った。マルチ区の収量は980kg/10aで対照区より上回った。株元の深さ5cmの地温は晴天時,日中は5〜8℃,夜間は2〜5℃程度対照区より高く,また曇,雨の日でもマルチ区は対照区より高かった。
2)マルチフィルム除去機の開発
@マルチフィルム除去機
マルチフィルム除去機はローラによる巻取り方式で,動力源はトラクタの油圧を利用し、油圧流量の制御により作業速度と巻取り速度を同調させた。またローラにスリップクラッチを装着し、トラクタが停止してもフィルムが破断せずローラの回転が停止し、走行を始めるとローラも回転しフィルム巻取りが可能で,1行程で2条処理が可能である。
Aマルチフィルム
フィルムは厚さ0.02mm,幅1800mmを使用し、発芽の障害とならない様に播種位置にピッチ40mmの切れ目を施し、またフィルム分離を容易にするため1カット内に長さ1mm程度の切れ目を2ヶ施した。
B速度0.4〜1.2m/sでフィルム除去を行い,巻取り時のローラトルクは2〜5kg-mであった。
Cフィルム除去は中央部に飛散防止の土・雨水があっても,巻取り時にフィルム面から滑り落ちフィルムに付着する土・水は少なかった。また作業速度と巻取り速度が一致し,フィルムは破断することなくフィルム除去作業が可能であった。フィルムの表裏面への水,土砂の付着量は200m巻のフィルムで重量は34kgまで増加した。実作業は巻き取ったフィルムの重量が大きくなるため、500〜700m程度でフィルムを除去機から取り除く必要がある。フィルム飛散防止のために置いた中央部の土量が多すぎると,巻取り時にフィルム破断の原因をなるため,土量は1〜2kg/m程度にとどめる方が好ましい。
3)作業能率
慣行マルチと改良マルチの行程別の作業能力を調査した。慣行マルチは7行程であるが,改良マルチでは5行程に減少した。慣行マルチのha当りの投下労働時間は50.6時間で,そのうち人力作業である発芽時のフィルム孔あけ作業と除去作業は37.1時間と全体の73%を占めている。改良マルチでは人力作業が殆ど無くなり,ha当りの投下労働時間は13時間と慣行法の1/4まで減少した。
10.主要成果の具体的数字
表1 施肥播種マルチャ仕様諸元
型式名 | JS2200M |
全長(mm) | 2,650 |
全幅(mm) | 2.15 |
全高(mm) | 1,720 |
重量(kg) | 400 |
表2 除去機の仕様諸元
型式名 | NMS01 |
全長(mm) | 1,950 |
全高(mm) | 2.365 |
全幅(mm) | 2,150 |
全重(kg) | 350 |
表3 種子の形状
品種名 | 粒長 (mm) |
粒幅 (mm) |
粒厚 (mm) |
千粒重 (g) |
メローゴールド | 7.84 | 9.41 | 6.11 | 279.3 |
ジュビリー | 9.44 | 8.74 | 4.08 | 199.7 |
ページェント | 9.73 | 7.87 | 5.17 | 166.9 |
表4 播種精度
年次 | 区分 | 株間 (cm) |
粒数 | 粒数割合(%) | 欠株 率(%) |
株数 (本/10a) |
||
1粒 | 2粒 | 3粒 | ||||||
63 | 慣行マルチ | 22.6 | 1.82 | 31.7 | 55.0 | 13.3 | 0 | 4,429 |
改善マルチ | 22.7 | 1.12 | 88.3 | 11.7 | 0.0 | 0 | 4,413 | |
対照 | 22.9 | 1.45 | 56.6 | 41.7 | 1.7 | 0 | 4,376 |
表5 生育調査
圃場 | 区分 | 草丈 (mm) |
葉数 (mm) |
分け つ数 |
乾物重 (g/株) |
品種 |
場内 圃場 |
慣行マルチ | 523.6 | 9.83 | 1.55 | 5.47 | メローゴールド |
改善マルチ | 562.9 | 9.94 | 1.73 | 6.50 | ||
対照 | 361.2 | 7.35 | 0.02 | 1.34 |
表6 収量調査
圃場 | 区分 | 全重 (kg/10a) |
雌穂数(本/10a) | 雌穂重(kg/10a) | 平均一 穂重(g) |
||||
有効 | 無効 | 不稔 | 皮付 | 剥皮 | 指数 | ||||
現地 圃場 |
慣行マルチ | 5,428 | 4,560 | 147 | 0 | 1,350 | 983 | (117) | 215 |
改善マルチ | 5,602 | 4,230 | 146 | 0 | 1,437 | 891 | (106) | 211 | |
対照 | 3,670 | 4,281 | 148 | 0 | 1,330 | 840 | (100) | 196 | |
場内 圃場 |
慣行マルチ | 4,724 | 4,576 | 0 | 0 | 1,373 | 1,017 | (115) | 222 |
改善マルチ | 5,384 | 4,266 | 0 | 0 | 1,420 | 1,022 | (116) | 240 | |
対照 | 4,136 | 4,376 | 0 | 0 | 1,393 | 884 | (100) | 202 |
表7 巻取り動力
区分 | フィルム 厚さ |
機関 回転数 |
変速 位置 |
作業 速度 |
巻取りトルク | 回転 数 |
平均 馬力 |
フィルムの 状況 |
||
最小 | 最大 | 平均 | ||||||||
(mm) | (rpm) | (m/s) | (kgf/m) | (rpm) | (PS) | |||||
フィルム重量 10kg |
0.02 | 1000 | L3 | 0.59 | 1.62 | 4.37 | 2.72 | 46.6 | 0.18 | ゆ→ひ |
1000 | L4 | 0.79 | 1.94 | 4.86 | 3.89 | 62.3 | 0.34 | 〃 | ||
フィルム重量 116kg |
0.02 | 1000 | L3 | 0.59 | 2.59 | 6.16 | 4.18 | 46.6 | 0.27 | ゆ→ひ |
1000 | L4 | 0.79 | 2.92 | 6.16 | 4.57 | 62.3 | 0.40 | ひ |
表8 フィルム破断荷重
フィルム厚さ (mm) |
切断荷重 (kg/90cm) |
切断トルク (kgf-m) |
試験片との引張 強さの比較(%) |
0.015 | 31.35 | 7.29 | 56.1 |
0.018 | 32.47 | 7.55 | 49.9 |
0.020 | 34.75 | 8.08 | 49.0 |
表9 フィルム除去試験(現地圃場)
巻取りフィルム重(kg/200m) | 6.7(19.7%) |
付着水+付着土量(kg/200m) | 27.3(80.3%) |
合計(kg/200m) | 34.0(100%) |
飛散防止土量(kg/m) | 0.8 |
含水比(db%) | 湿土59.26,乾土14.04 |
表10 作業能率
作業名 | 慣行マルチ | 改良マルチ | ||||||||
作業能率 | 作業 人員 |
投下労働時間 | 作業能率 | 作業 人員 |
投下労働時間 | |||||
(ha/hr) | (hr/ha) | (hr/ha) | 割合(%) | (ha/hr) | (hr/ha) | (hr/ha) | 割合(%) | |||
砕土・整地 | 1.47 | 0.68 | 1 | 0.68 | (1.4) | 1.47 | 0.68 | 1 | 0.68 | (5.2) |
播種 | 0.42 | 2.38 | 2 | 4.76 | (9.4) | 0.32 | 3.14 | 2 | 6.28 | (48.4) |
マルチ | 0.31 | 3.27 | 2 | 6.54 | (12.9) | |||||
孔あけ | 0.06 | 17.30 | 1 | 17.30 | (34.2) | *1 | ||||
除草剤散布 | 1.50 | 0.67 | 1 | 0.67 | (1.3) | 1.50 | 0.67 | 1 | 0.67 | (5.2) |
フィルム除去 | 0.15 | 6.60 | 3 | 19.80 | (39.2) | 0.44 | 2.27 | 2 | 4.54 | (3.50) |
中耕・追肥 | 1.25 | 0.80 | 1 | 0.80 | (1.6) | 1.25 | 0.80 | 1 | 0.80 | (6.2) |
合計 | 50.55 | (100) | 12.97 | (100) | ||||||
フィルム価格 | 8,500円/10a | 11,000円/10a |
11.成果の活用面と留意点
施肥播種マルチャ、フィルム除去機の利用により、スイートコーンマルチ栽培の省力化が可能になるとともに、人力作業の労働負担が軽減する。
12.残された問題とその対応
施肥播種マルチャおよびフィルム除去機の他の作物への利用拡大の可能性検討。