1.課題の分類 北海道 畜産 乳牛 育種 根釧農試 2.研究課題名 乳固形分を主体とした能力評価ならびに遺伝的改良量の推定 (乳固形分・飼料利用性向上のための能力評価法及び選抜法の実用化に関する試験) 3.研究期間 昭和58〜62 4.担当 根釧農試 酪農第一科 5.予算区分 道単 6.協力・分担 新得畜試 酪農科 |
7.目的
乳牛の能力評価は、生産量のみでは正確な評価とはならない。そこで、牛乳のより正確な評価法としての乳固形分補正量の遺伝的特性を捉え、効率の高い牛群を作出するための基礎的資料を得る目的で遺伝的特性および遺伝的改良量を推定した。
8.研究方法
(1)乳固形分を主体とした産乳形質の遺伝的特性の把握
北乳検データを用いて、乳固形分を補正した乳量の遺伝的特性を把握するため、一乳期240日以上の記録を有する13,132頭の、血統の判明した雌牛(その種雄牛は、268頭であった)の産乳記録を、種雄牛・分娩季節・産次および搾乳日数に四重分類し、最小二乗分散分析(HendersonのMethodV)により解析した
(2)産乳形質の遺伝的改良量の推定
酪農家における遺伝的改良傾向および遺伝的改良量の予測をはかるため実現選抜法を用いて解析した。
9.研究成績の概要・要約
(1)乳固形分を主体とした産乳形質の遺伝的特性の把握
推定された遺伝率は、これまでの報告から類推してほぼ妥当な値であった(表1)。遺伝相関係数から、SNFを考慮した乳固形分補正量(SCM)および、SCMによる簡易な生産効率指数は乳脂肪量(.92,.81)やSNF量(.92,.77)も改良することが推察され、FCM(.92,.89)およびFCM指数(.78,.75)より優れた指数であると推察された。また、代謝体重で乳量を除した各体重指数(FCM・SCM・乳量/BW.75:.80,.77;.60,.64;.49,.78)よりも優れていた(表2)。したがって、SCM指数は飼料効果とは正の、また、乳飼比とは負の遺伝相関関係を有することからも、牛体を大型化し過ぎず、かつ、低コスト化が期待される選抜指標と考えられた。
(2)産乳形質の遺伝的改良量の推定
北海道の酪農家で一般的に利用されているCI円に着目して選抜した場合、10%以上の淘汰率で1,143〜6,153円の改良量が期待された。また、乳量は15%以上の淘汰率で17〜103sの改良量であった(表3)。なお、CI円および乳脂・肪量は、淘汰率5%以下の場合、乳量は10%以下では遺伝的改良が期待されず、むしろ、牛群に遺伝的能力を低下させる個体が残留する可能性の高いことが示唆された。以上のことから、淘汰率10%以上の選抜圧が牛群の遺伝的改良には必要であると推察された。
10.主要な成果の具体的数字
表1 各形質の遺伝率
形質 | h2±S.E. | 形質 | h2±S.E. | 形質 | h2±S.E. |
乳量 | 0.22±0.02 | 体重 | 0.21±0.02 | 乳量体重指数 | 0.22±0.03 |
乳脂肪量 | 0.24±0.03 | FCM | 0.21±0.02 | FCM数 | 0.19±0.02 |
SNF量 | 0.I9±0.02 | SCM | 0.20±0.02 | SCM指数 | 0.18±0.02 |
表2 産乳形質および生産効率の遺伝相関係数*
形質rG | Fat | SNF | FCM | SCM | FCM指数 | SCM指数 | M/BW.75 | 体重 |
乳量 | .63±.05 | .92±.01 | .88±.02 | .83±.03 | .77±.03 | .74±.04 | .90±.02 | .12±.08 |
Fat | .70±.04 | .92±.01 | .92±.01 | .78±.03 | .81±.03 | .49±.06 | .29±.08 | |
SNF | .89±.02 | .92±.01 | .75±.04 | .77±.03 | .78±.03 | .26土.08 | ||
FCM | .98±.00 | .86±.02 | .86±.02 | .74±.04 | .28±08 | |||
SCM | .82±.03 | .85±.02 | .67±.04 | .30±.08 | ||||
FCM指数 | .99±.00 | .87±.02 | -.21±.09 | |||||
SCM指数 | .82±.03 | -.19±09 | ||||||
M/BW.75 | -.2I±.08 |
表3 CI円に着目した場合の各選抜率における期待遺伝的改良量
形質\淘汰率 | 30% | 25% | 20% | 15% | 10% | 5% |
CI円 | 6,153 | 4,901 | 3,648 | 2,396 | 1,143 | -110 |
乳量 | 103 | 74 | 46 | 17 | -11 | -40 |
乳脂肪量 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 1 |
乳脂肪率 | 0.03 | 0.02 | 0.02 | 0.01 | 0.00 | -0.00 |
SNF量 | 6 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 |
SNF率 | 0.14 | 0.12 | 0.10 | 0.07 | 0.05 | 0.02 |
11.成果の活用面と留意点
選抜率には、足腰の故障牛・疾病牛・繁殖障害あるいは管理上の問題牛などによる淘汰牛は含めない。また、選抜の結果、期待遺伝的改良量に達しなかった場合は、選抜以前にすべき諸問題の検討が必要である。今回のデータ解析の中心は、草地型酪農地帯であったため、他の地域については、飼料体系・気候および種雄牛供用の偏りを考慮して参照されたい。
12.残された問題とその対応
遺伝的パラメータ推定にあたっては、初産牛の体重が小さく、しかも、SCMがやや過小評価されたとから、初産牛の取り扱いにはさらに検討の余地が残された。したがって、今後さらに初産牛のデータを収集解析する必要が示唆された。また、乳固形分には乳蛋白質以外の成分が含まれており、選抜形質としてはやや不利であるため、乳蛋白質の情報が集積され次第乳蛋白質を選抜形質に加えて行く必要が推察された。