1.課題の分類 畜産 乳牛 飼養 新得畜試 北海道 畜産 2.研究課題名 乳牛用飼料における繊維質不足の影響と重曹添加効果 3.予算区分 中核研究 4.研究期間 継(昭和62年〜64年) 5.担当 新得畜試酪農科,衛生科 6.協力・分担関係 根釧農試,岩手畜試,山形畜試,福島畜試 |
7.目的
とうもろこしサイレージは粗飼料の中でも澱粉含量が多く、繊維質含量が少ない。また、し好性も良いことから、併給する他の粗飼料の品質が悪いと、併給飼料の摂取不足による繊維質不足の状態になりやすく、乳脂率が低下するおそれがある。
そこで、本試験ではとうもろこしサイレージを主体粗飼料とする乳牛用飼料における繊維質不足の影響、および繊維質不足時に乳脂率を正常に維持するための重曹添加効果について検討した。
8.試験研究方法
試験1.とうもろこしサイレージ主体飼養時における繊維質の摂取不足が乳脂率に及ぼす影響
供試飼料: | とうもろこしサイレージ(CS),牧草サイレージ(GS),濃厚飼料 |
飼料給与: | CSとGSを2:1で飽食量給与、濃厚飼料は乳期と乳量に応じて乳量の1/3 〜1/5(上限12s/日)給与 |
供試家畜: | ホルスタイン泌乳牛27頭(泌乳前期〜後期) |
供試飼料: | とうもろこしサイレージ主体の混合飼料(TMR) (CS,GS,配合,大豆粕,ミネラル) |
試験処理: | 濃厚飼料割合 2(50%,70%)、重曹添加 2(有,無) |
重曹添加重: | 飼料乾物の1.5% |
供試家畜: | ホルスタイン泌乳牛12頭(泌乳中期) |
試験計画: | 4×4ラテン方格法(1期21日間) |
9.結果の概要・要約
1-1)とうもろこしサイレージ(CS)に併用した牧草サイレージ(GS)の摂取量は、原料草の刈り取り時期が遅かったため著しく低く、飼料設計ではCSとGSの給与比率を2:1としたが、摂取した飼料に占める濃厚飼料とCSの割合が高まり、泌乳前期の牛では摂取した飼料中の繊維質含量が要求量を下回った。
1-2)供試牛の6割強が泌乳前期に当たることもあって、平均乳脂率は3.1%と低かった。泌乳前期の牛の乳脂率の平均値は2.87%と非常に低い値を示し、最低値は2%を割った。
このような牛では摂取した飼料中の繊維質含量が要求量を大きく下回り、第一胃内容液のpH.酢酸/プロピオン酸(A/P)も低い値を示した(表1)。
1-3)摂取した飼料中の繊維質含量と乳脂率の間には有意の相関関係が認められた。また、繊維質含量と第一胃内容液のpHおよびA/P、更にpHおよびA/Pと乳脂率の間にも有意の相関関係が認められた。
2-1)濃厚飼料割合50%飼料の粗繊維およびADF含量はそれぞれ、約17%、21%と、日本飼養標準(1987年版)での要求量の最低値幸満たしていたが、濃厚飼料割合70%飼料では粗繊維およびADF含量はそれぞれ約13%、16%と明らかに繊維質不足であった。
2-2)乳脂率は、濃厚飼料割合50%飼料で高かったが、繊維質不足の濃厚飼料割合70%飼料では低下した。また、濃厚飼料割合50%飼料では重曹の添加効果は認められなかったが、繊維質不足の濃厚飼料割合70%飼料では重曹添加により乳脂率の低下を若干軽減できた(表2)。乳量は、濃厚飼料割合50%飼料にくらべ濃厚飼料割合70%飼料のほうが高かったが、濃厚飼料割合70%飼料の乳脂率が低かったため、FCM量ではほぼ同じであった(表2)。
2-3)第一胃内容液のpHおよびアンモニア態窒素濃度は、濃厚飼料割合70%飼料および50% 飼料とも、重曹添加区、無添加区で差は認められなかったが、VFA組成は濃厚飼料割合70%飼料および50%飼料とも、重曹添加区のほうが酢酸濃度が高く、AP比も高い傾向があった。
10.成果の具体的数字
表1 飼料摂取量、繊維質含量、乳生産および第一胃内溶液のpH、A/P
乳期 | 前期 | 中期 | 後期 | 全体(範囲) |
頭数 | 17(6) | 5(5) | 5(3) | 27(14) |
乾物摂取量(kg/日) | ||||
総摂取量 | 16.8 | 14.7 | 13.5 | 15.8(10.1-22.3) |
とうもろこしサイレージ | 5.8 | 7.2 | 8.0 | 6.5(3.3-9.6) |
牧草サイレージ | 2.0 | 1.9 | 2.4 | 2.0(0.3-3.2) |
濃厚飼料 | 9.0 | 5.6 | 3.1 | 7.3(2.1-10.2) |
濃厚飼料割合(%) | 53.8 | 38.1 | 22.9 | 45.9(15.3-71.8) |
ADF含量(%) | 19.1 | 22.6 | 25.5 | 20.9(14.5-27.3) |
粗繊維(%) | 14.9 | 18.1 | 20.9 | 16.6(10.6-22.5) |
乳量(kg/日) | 35.3 | 23.8 | 17.8 | 29.9(13.8-45.3) |
乳脂率(%) | 2.87 | 3.31 | 3.72 | 3.11(1.14-4.82) |
第一胃内溶液 | ||||
pH | 6.89 | 7.04 | 7.13 | 6.97(6.48-7.45) |
A/P | 2.39 | 3.31 | 4.04 | 2.87(1.40-4.80) |
表2 供試TMRの乾物摂取量および乳量、乳成分
濃厚飼料割合 重曹 |
50% | 70% | ||
無添加 | 添加 | 無添加 | 添加 | |
kg/日 | ||||
乾物摂取量 | 21.9b | 22.1b | 23.5ab | 24.6a |
% | ||||
体重比 | 3.35 | 3.37 | 3.50 | 3.68 |
kg/日 | ||||
乳量 | 26.6 | 26.1 | 28.5 | 28.7 |
4%FCM | 26.1 | 25.5 | 25.9 | 26.9 |
% | ||||
乳脂肪率 | 3.88b | 3.87b | 3.40a | 3.59ab |
SNF率 | 8.78 | 8.75 | 8.95 | 8.92 |
11.成果の活用面と留意点
1)粗飼料の主体がとうもろこしサイレージの場合、併用する牧草飼料は採食性の良いものが必要である。
2)乳量の多い泌乳前期には繊維質の摂取不足による乳脂率の低下がおき易いので飼料構成に注意し、飼料の摂取状況を把握する。
3)繊維質の要求量が満たされている通常の飼養管理条件下では重曹を添加する必要はない。繊維質の摂取不足時における重曹の添加給与は乳脂率の低下をある程度軽減できる。
12.残された問題とその対応
1)でんぷん質に富むとうもろこしサイレージの飼料特性を活かした濃厚飼料の給与法
2)飼料の物理性を考慮した繊維質要求量の検討