【指導参考事項】
完了試験研究成錆(作成64年1月)
1.課題の分類  北海道 畜産 乳牛 栄養・飼料 根釧農試
2.研究課題  ロールベールサイレージの調製及び飼料価値査定
       (寒地・寒冷地における草資源およびオールイン飼料の有効利用による
        生産技術
       ロールベールサイレージの効率的利用技術(1)飼料価値査定)
3.予算区分  地域重要新技術
4.研究期間  昭61年〜62年
5.担当  根釧農試 酪農第一科 酪農施設科
      経営科 管理科
6.協力分担

7.目的
ロールベールによるサイレージ調製と利用の増加とともに、安定的な調製利用方法の確立と飼料価値の究明が課題となっている。そこで、ロールベールサイレージの調製貯蔵条件と飼料価値の関係を明らかにし、あわせてハーベスタ収穫体系による細切サイレージと飼料価値を比較検討する。

8.試験研究方法
(1)原料草の水分含量及び密封資材の色を変えてベール内部温度の変化、排汁量の違いを検討した。また、密封資材の物理的特性について検討した。
(2)水分含量、密封資材の色及び貯蔵形態によるロールベールサイレージの発酵品質及び栄養価の違いを1番草、2番草を用いて検討した。
(3)水分含量2水準についてそれぞれ同一条件でロールベールサイレージおよびハーベスタ収穫体系の細切サイレージを調製し、ホルスタイン搾乳牛8頭を用い、ラテン方格法により、産乳効果について比較検討した。

9.結果の概要・要約
(1)無色透明の資材による密封内部の気体温度は、日射により著しく上昇し、日内格差も大きいが、遮光性の資材では、温度上昇と日内格差の程度は小さくなった。
 貯蔵中のロールベールの中心温度は10日以内に最高に達し、除々に下降するが、水分含量の違いでは35%区が、密封資材の色の違いでは無色区が、それぞれ50%、65%区及び有色区に比べて、高めに推移し、日内変動が大きかった(図1〜図4)。
 水分70%程度以下のロールベールサイレージでみられる排汁は結露によるものと思われ、有色資材あるいはシート被覆の無色資材では、ごく少量であるのに対し、無被覆の無色資材では極めて多量であった(図5)。
(2)水分含量が低くなると、粗脂肪の消化率が低下する傾向を示したが、TDN含量に差はみられなかった。しかし、低水分過程での調製遅延、降雨等により栄養価の低下が認められた(表1)。
密封資材の色の違いにより、消化率、栄養価に明らかな差は認められなかった。接地区で粗脂肪の消化率が低かったが、栄養価に差は認められなかった。
貯蔵形態では、袋詰がやや優れ、密封度の違いによるものと推察された。
ラップ方式は、袋詰め方式と同等の栄養価であった。(以上、表2)
(3)ロールベールサイレージの発酵品質は、細切サイレージと比較し、VBN/TNは変わらないが、pHはやや高く、乳酸は減少し、酪酸は増加する傾向がみられた。
 ロールベールサイレージの乾物消化率、栄養価は、2番草の低水分で細切サイレージよりも低かったが、その他では同程度であった。
 ロールベールサイレージの搾乳牛による乾物摂取量は、細切サイレージのそれと比較して若干少ない傾向を示し、長形及び細切給与の差が示唆されたが、有意な差は認められなかった。また、乳量及び乳成分は、1番草では同程度であり、2番草においてロール区がやや少量または低い傾向であったが、総体的にロールベールサイレージと細切サイレージの両者に明らかな差はないものと推察された(表3)。

10.主要成果の具体的数字


図1 水分含量とベール品温の日内変化


図2 密封の資材の色とベール品温の日内変化


図3 原料草の水分含量とベール中心温度の推移
      (黒色、1個詰)


図4 密封資材の色の違いとベール中心温度の推移


図5 密封資材の色及び遮光と排汁量との関係(1番草)

表1 水分含量の異なるロールベールサイレージの消化率及び栄養価

区分 消化率 栄養価
乾物 粗蛋白質 粗脂肪 NFE 粗繊維 DCP TDN
1番草 % 乾物中%
中水分区 66.4A 68.2A 74.6A 62.4A 71.6A 8.8A 65.5A
低水分区1) 60.3B 60.9B 64.4B 55.0B 67.3B 7.1B 59.2B
2番草  
65%区 61.0 67.4 70.2a 56.3 66.1 10.4 62.5
50%区 62.1 66.0 64.0b 58.3 69.2 10.3 62.5
35%区 61.1 64.7 59.2b 57.0 69.1 9.3 59.8
注) 試験区ごとにA,B:P<0.01 1):降雨による調製遅延8日

表2 調製条件の違いによるロールベールサイレージの消化率及び栄養価

区分 消化率 栄養価
乾物 粗蛋白質 粗脂肪 NFE 粗繊維 DCP TDN
密封資材の色(1番草)
黒色区 66.6 67.7 76.7 62.5 72.0 8.6 66.0
銀色区 68.9 69.4 72.7 64.5 74.7 8.1 67.2
灰色区 68.0 69.5 73.8 65.2 72.6 8.6 66.9
無色区 67.0 65.1 72.1 63.5 73.9 8.0 65.6
(2番草)
黒色区 61.9 66.2 66.7a 57.6 69.0 10.3 62.1
銀色区 62.4 66.4 65.8a 61.3 66.7 10.3 63.2
白色区 62.3 68.2 60.0b 59.6 68.7 11.4 62.9
無色区 63.9 68.9 70.1a 60.5 69.9 10.4 64.4
貯蔵場所(1番草)
台上区 66.6 67.7 76.7A 62.5 72.0 8.6 66.0
接地区 66.2 68.5 70.9B 62.6 71.1 9.0 65.1
貯蔵形態(2番草)
台上1個詰区 63.9A 68.9a 70.1a 60.5a 69.9 10.4 64.4
5個袋詰区 62.1AB 66.0ab 64.0b 58.3a 69.2 10.3 62.5
スタック区 60.2B 66.8a 64.4b 54.3b 68.2 10.3 60.2
縦2段積区 60.1B 62.5b 64.6b 57.7ab 66.6 9.7 60.7
密封方式(1番草)
袋詰方式 72.9 72.6 72.7 71.9 78.6 10.5 71.9
ラップ方式 72.7 70.2 76.3 72.0 78.0 10.2 71.8
注)試験区ごとにa、b:P<0.05、A、BP<0.01

表3 ロールベールサイレージと細切サイレージの栄養価及び乾物摂取量と乳量、乳成分

区分 水分 pH 栄養価 乾物摂取量 FCM量 乳成分 体重
DCP TDN サイレージ 全飼料 脂肪 蛋白質 SNF
1番草 %   乾物中% kg/日 % kg
R(中水分) 66.5 4.27 10.5 71.9 13.9 19.8 25.2 3.81 3.02 8.65 636
C(中水分) 69.6 4.16 11.4 72.9 14.3 20.2 25.4 3.82 3.06 8.67 643
R(低水分) 55.2 4.47 8.9 72.2 13.8 19.7 25.2 3.98 3.04 8.67 635
C(低水分) 57.8 4.25 9.5 71.3 14.2 20.1 25.6 3.91 3.04 8.70 637
2番草  
R(中水分) 68.2 4.73 11.6 58.3 14.1 17.9 20.0 3.84 2.99 8.56 635
C(中水分) 68.1 4.12 12.2 58.6 14.9 18.7 20.3 3.78 3.11 8.73 647
R(低水分) 50.6 5.47 8.8 53.9 13.6 17.4 18.5 3.81 3.02 8.54 637
C(低水分) 52.0 4.86 10.2 60.4 15.0 18.8 20.4 4.00 3.13 8.75 648
注)R:ロールベール C:細切

11.成果の活用面と留意点
@ロールベールサイレージの利用に際しては、調整後の点検を励行し、破損部を発見したら、直ちに補修、または再密封するか、開封して給与するなどの配慮が必要である。また、調製条件による栄養価の良否にあわせた給与、貯蔵状態の悪化に伴う適宜給与ができるように、貯蔵堆積場所を配置することが望ましい。

12.残された問題とその対応
・ロールベールサイレージの細断給与による摂取量、乳生産の改善効果の検討
・ロールベール密封時のアンモニア注入が、品質保持及び栄養価の改善に及ぼす効果と問題点の検討