【指導参考事項】
完了試験研究成績(作成元年1月)
1.課題の分類  総合農業 営農 経営 経営方式 3-6-4
          北海道 経営
2.研究課題名  畑作経営における投資基準の策定
        〜農地購入による耕地規模拡大投資について〜
3.予算区分  道費
4.研究期間  (昭和62年)
5.担当  十勝農試経営科
6.協力・分担関係

7.目的
 畑作経営を対象に農地購入による耕地規模拡大投資のあり方を、経営成果や資金管理において検討し、投資基準を作成する。

8.試験研究方法
1)調査・分析方法
(1)畑作経営を対象に耕地面積規模拡大と負債の動態を整理する。
(2)上記の経営のうち、この10年間に農地購入を行った事例を対象に、経営成果と負債の構造を検討する。
(3)経営モデルを構築し、線形計画法の手法を援用して、農地購入による耕地規模拡大投資のあり方が経営成果、資金管理に及ぼす効果を比較検討する。
2)調査対象
十勝中央部(帯広市川西地域)の畑作経営

9.結果の概要・要約
1)畑作経営を対象に、54年以降10年間の固定資本の取得額と負債残額の推移をみると、 固定資本の取得は農業機械が最も多いが、負債の形成に結びつくのは投資時の負担が大 きい農地購入である。また、農地購入投資を行った経営では、制度資金のみならず系統 資金の依存が高まっている。
2)農地購入後の資金回転に差異が認められる経営間比較からその要因を検討すると、農 地購入前の負債残額に大きな相違が認められた。農地購入前の負債残額が大きな経営に おいては、農地購入負債が加わり償還厚から短期資金が継続する不安定な資金運用を行 なっている。
3)農地購入の経営成果と資金の循環を検討するため、畑作経営が5haの農地を購入し25haへ拡大した経営モデルを構築した。第1に、農地購入の期待収益の増加と、農地購入賃金に既存負債を加えた資金返済を比較考慮した。調査地域の農地価格45万円/10aで、57〜62年の平均収益では、資金返済に支障がない既存負債額は約1,000万円であるが、63年以降の将来収益が低下する予想のもとでは約600万円に低下する。
4)次に収益変動を考慮し、農地購入肱大による期待成果と資金返済計画の年次推移を比 較検討した。既存負債が小さな条件の場合は、収益の増加から資金返済後の剰余を形成 が可能となり農地購入拡大の有利性を示す。しかし、この既存負債の条件においても、 農地価格が高い場合は(55万円/10a)資金返済額が増加し、経常収支から資金返済額を賄うことができずに財務が不安定となる。他方、既存負債が大きい条件では、この負債に農地購入の借入金が加わり、資金の返済額を賄うことが出来ずに財務が不安定な構造で推移する。
5)今後、将来収益の低下が想定される63年以降の農地購入について検討した。既存負債 小、農地価格45万円/10aの場合は、平均収益を想定すると資金返済後の剰余は僅かであり、冷害等の収益反動を考慮すると剰余はマイナスとなる。従って、将来収益の低下が想定されるもとでは、農地購入投資は慎重な検討が必要になる。

10.成果の具体的数字
表1 農地購入による経営収益と賃金バランス(その2・農地購入による耕地規模拡大)

類型 2-a
規模拡大・既存負債小
年次 57年 58年 59年 60年 61年 62年 63年 72年
耕地面積 25 25 25 25 25 25 25 25
耕地購入面積 5 - - - - - - -
利益額(プロセス利益) 15,868 11,115 14,032 13,023 13,983 14,096 13,109 13,109
受取利息 461 380 286 328 314 359 399 444
一定費 3,965 3,965 3,965 3,965 3,965 3,965 3,965 3,965
支払い利息 1,272 1,273 1,195 1,115 1,072 1,042 973 519
農家所得 11,092 6,257 9,158 8,271 9,259 9,447 8,569 9,069
家計費 5,273 5,273 5,273 5,273 5,273 5,273 5,273 5,273
租税公課 1,534 2,773 1,564 2,290 2,068 2,315 2,362 2,251
賃金返済 1,316 1,479 1,540 973 1,068 1,107 1,148 1,212
賃金バランス 2,069 -3,148 877 -166 954 860 -101 492
期末負債残高 27,584 27,605 26,065 25,092 24,024 22,917 21,769 10,912
うち既存負債 7,806 6,819 5,792 5,352 4,900 4,435 3,957 567
  新規土地拡大賃金 19,778 19,286 18,774 18,240 17,684 17,104 16,500 9,780
  新規賃金借入残 0 1,500 1,500 1,500 1,440 1,377 1,311 565
期末貯金残高 9,418 7,770 8,647 8,481 9,435 10,295 10,193 12,832
当期貯蓄額 1,080 831 1,000 961 996 1,004 948 948
当期引出し額 361 2,479 123 1,127 42 144 1,049 456
注1.農家所得=利益額+受取利息−一定費(機械・施設の取り替え更新費用+修理費
  +燃料費)−支払い利息額。
 2.賃金バランス=農家所得−(家計費+租税公課+賃金返済)。
 3.57年の期首負債残高は、8,650千円、57年の期首貯金残高はいずれも8,700千円。


図1 賃金バランス(農地取得耕地拡大〜25ha:既存負債小)

11.成果の活用面と留意点

12.残された問題とその対応
 このモデル分析では、既存負債の返済過程で機械・施設等の取り替え投資における制度資金を利用した資金婚環は検討していない。