4.来歴および試験経過
「SES IR 2」は、ベルギーのヨーロッパ種子会社(Societe Europeenne de Semences)が育成した二倍体、単胚の一代雑種である。
1984年(昭和59年)に、二倍体、単胚の細胞質雄性不稔系統「MS-24-6」と二倍体、多胚の花粉親系統「4-21775」を交配し育成された。
1)「SES IR 2」は、ヨーロッパでそう根病抵抗性が確認され、昭和60年に日本甜菜製糖株式会社が輸入した。
2)昭和61年から十勝、北見、中央農試において輸入品種検定試験に供試し、昭和62年から上川農試、昭和63年から北海道農試において輸入品種検定試験に供試し、平成元年まで試験を実施した。
3)昭和62年と平成元年に北見農試においてそう根病抵抗性検定試験を行った。また、現地でそう根病が発生している圃場において、昭和62年から昭和63年まで3カ所、平成元年は1カ所でそう根病抵抗性検定試験を行った。
4)昭和63年から平成元年まで十勝、北見農試において品質検定試験、十勝農試において栽培特性検定試験、褐斑病抵抗性検定試験、中央農試において耐湿性検定試験、根釧農試において抽苔耐性検定試験を行った。
5)昭和63年から平成元年まで全道18カ所において現地検定試験を行った。

5.特性
1)形態的特性:「SES IR 2」は、「モノミドリ」と同程度の草丈で、葉姿はやや直立である。葉数はやや多く、葉身はやや小さい。クラウンは小さく、根型は円錐型、根長はやや長く、分岐根は少ない。
2)当年抽苔:既存のヨーロッパ系輸入品種と同様に抽苔耐性は強く、当年抽苔することはほとんどない。褐斑病抵抗性は「モノミドリ」よりやや弱いが、既存のヨーロッパ系輸入品種より強く、抵抗性は中である。その他の病害については「モノエース」とほとんど差がない。
4)耐湿性:他の優良品種と同様に弱である。
5)根重:「SES IR 2」の根重は、健全圃場では「モノミドリ」より多く、「モノエース」と同程度がやや劣る。そう根病発病圃場では、「モノミドリ」に比べ、少程度の発病圃場では9〜20%、中程度では90〜92%根重が多い。
6)根中糖分:「SES IR 2」の根中糖分は、健全圃場では「モノミドリ」よりやや低い。そう根病発病圃場では「モノミドリ」に比べ、少程度の発病圃場で17〜40%、中程度の発病圃場で34〜36%根中糖分が高い。
7)品質:「SES IR 2」の有害性非糖分は、健全圃場では「モノミドリ」「モノエース」に比べアミノ態窒素、カリウムが高いが、ナトリウムが低い。不純物価は「モノミドリ」「モノエース」よりも高い。そう根病発病圃場では、カリウムとナトリウムが相対的に低くなり、不純物価が少以下の発病圃場で「モノミドリ」よりやや高いが、中以上の発病圃場では「モノミドリ」より明らかに低い。

6.主要成果の具体的数字
表1　輸入品種検定試験(昭和61年〜平成元年)

試験 場所	系統名または 品種名	根重 (t/10a)	根中糖分 (%)	糖量 (kg/10a)	不純物価 (%)	対「モノミドリ」比(%)
						根重	根中糖分	糖量	不純物価
十勝 農試	SES　IR　2	6.20	17.12	1,061	3.70	105	98	103	118
	モノエース	6.18	17.83	1,101	3.10	105	102	107	99
	モノミドリ	5.88	17.50	1,029	3.14	100	100	100	100
北見 農試	SES　IR　2	5.65	17.07	962	4.65	109	98	107	117
	モノエース	5.63	17.92	1,007	3.92	109	103	112	99
	モノミドリ	5.16	17.48	901	3.96	100	100	100	100
中央 農試	SES　IR　2	6.71	16.36	1,094	4.88	103	98	101	117
	モノエース	7.02	16.89	1,178	4.23	108	101	108	101
	モノミドリ	6.53	16.71	1,186	4.17	100	100	100	100
上川 農試	SES　IR　2	5.69	17.44	991	3.28	107	98	105	111
	モノエース	5.80	18.15	1,051	2.94	109	102	111	100
	モノミドリ	5.33	17.82	948	2.95	100	100	100	100
北海道 農試	SES　IR　2	6.94	16.53	1,146	4.10	104	98	102	115
	モノエース	7.24	17.03	1,233	3.61	109	101	110	102
	モノミドリ	6.66	16.87	1,123	3.55	100	100	100	100

注)十勝、北見、中央農試は昭和61年から平成元年まで、上川農試は昭和62年から平成元年まで、
　北海道農試は昭和63年から平成元年までの平均値である。

表2　そう根病抵抗性検定試験(「SES IR 2」のそう根病発病程度別の収量、品質)

そう根病 発病程度	試験場所 (年次)	根重 (t/10a)	根中糖分 (%)	糖量 (kg/10a)	不純物価 (%)	対「モノミドリ」比(%)
						根重	根中糖分	糖量	不純物価
微	千歳市(H1)	5.87	14.40	845	6.70	101	103	104	107
	斜里町(S62)	5.36	16.00	858	6.54	107	101	108	114
少	千歳市(S62)	5.70	14.29	815	5.55	109	117	128	119
	千歳市(S63)	6.85	12.20	837	7.12	118	113	132	115
	斜里町(S63)	6.70	15.27	1,024	5.17	120	140	169	84
中	北見農試(H1)	5.42	14.38	780	5.85	190	136	258	50
	津別町(S62)	5.27	13.68	722	6.31	192	134	256	74
多	北見農試(S62)	3.62	14.91	540	5.87	188	170	322	42
	津別町(S63)	4.76	11.99	572	9.75	275	205	566	36

注)そう根病発病程度は「モノミドリ」の葉部黄化程度から判断した。

7.配布しうる種子量　　600Kg

8.栽培適応地域及び普及見込み面積　全道一円のそう根病発生地帯に適応する。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　普及見込み面積　　500ha

9.栽培上の注意事項
1)「SES IR 2」はそう根病圃場抵抗性を有するが、前回作付けした圃場の発病程度を十分に考慮して、汚染度程の高いと思われる圃場での栽培は避ける。
2)既存の品種と同様に耐湿性は弱いので、過湿になりやすい圃場での栽培は避ける。
3)褐斑病に対して強度の低抗性を有していないので適期防除に留意する。
4)根中糖分の低下や有害性非糖分の増大を招くので多肥栽培は避ける。
5)その他の栽培法は「モノエース」に準ずる。