4.来歴および試験経過
「HT 1」は、スウェーデンのヒレスヘッグ種子会社が育成した、そう根病圃場低抗性を有する、二倍体、単胚の一代雑種である。二倍体、単胚の細胞質雄性不稔系統「MS-257D」と、二倍体、多胚の花粉親系統「2X/32」とを交配し育成された。
昭和61年に北海道農業株式会社が輸入し、「Hill mono 1168」の系統名で輸入品種検定予備試験を行った。
昭和62年から十勝、北見、上川、中央換試において、輸入品植検定試験に供試し、昭和63年からは北海道農試が輸入品種検定試験に供試し、平成元年まで試験を実施した。
なお、昭和63年に系統名を「HT 1」と改めた。
昭和62年と平成元年に、北見農試においてそう根病抵抗性検定試験を行った。また、現地のそう根病発生圃場において、昭和62年から昭和63年まで3か所、平成元年は1か所でそう根病抵抗性検定を行った。
昭和63年から平成元年まで、十勝、北見農試で品質特性検定試験、十勝農試で栽培特性検定試験と褐斑病低抗性検定試験、中央農試で耐湿性検定試験、根釧農試で抽苔耐性特性検定試験を行った。
昭和63年から平成元年まで、全道18か所で現地検定試験を行った。

5.特性
「HT 1」は、葉長が「モノミドリ」と同程度で、葉色が緑、葉形がやや皮針で、葉姿がやや直立型である。クラウンは小さく、露肩が少なく、根形は短円錐で分岐根が少なく、肉質はやや軟らかい。
抽苔耐性は既存のヨーロッパ系輸入品種並に強く、当年抽苔することはほとんどない。
そう根病の圃場低抗性は「モノミドリ」よリ強い。褐斑病抵抗性は「スターヒル」並の 弱である。耐湿性は既存の品種と同様に弱である。
根重は、健全圃場では「モノミドリ」よリ多く、「スターヒル」、「モノエース」より 少ない。そう根病発病圃場では、「モノミドリ」に比べ、少程度の発病圃場で9〜29%、 中程度で38〜42%多い。
根中糖分は、健全圃場では「モノミドリ」、「スターヒル」より高く、「モノエース」 並の高糖分品種に属する。そう根病発病圃場では「モノミドリ」に比べ、少程度の発病圃場で29〜44%、中程度で34〜37%高い。
品質は、健全圃場でアミノ態窒素が「モノミドリ」、「モノエース」よリ高く、カリウムが同程度、ナトリウムがやや低く、不純物価はやや高い。そう根病発病圃場では、カリウムとナトリウムが相対的に低くなり、不純物価は少以下の発病圃場で「モノミドリ」よりやや少なく、中以上の発生圃場では「モノミドリ」よリ明らかに低い。

6.成果の具体的数字
表1　輸入品種検定試験成績(昭和62年から平成元年　3か年平均)

場所名	系統名または 品種名	根重 (t/10a)	根中糖分 (%)	糖量 (kg/10a)	対モノミドリ比(%)
					根重	根中糖分	糖量
北見 農試	HT1	5.92	18.22	1080	107	104	112
	スターヒル	6.17	17.90	1106	112	102	114
	モノエース	5.97	17.84	1065	108	102	110
	モノミドリ	5.51	17.55	966	100	100	100
十勝 農試	HT1	6.02	18.02	1086	102	104	106
	スターヒル	6.45	17.58	1134	109	101	110
	モノエース	6.21	17.69	1099	105	102	107
	モノミドリ	5.90	17.41	1027	100	100	100
中央 農試	HT1	6.63	16.82	1113	101	101	103
	スターヒル	6.87	16.68	1143	105	100	106
	モノエース	7.21	16.73	1199	110	101	111
	モノミドリ	6.55	16.61	1083	100	100	100
上川 農試	HT1	5.68	18.20	1033	107	102	109
	スターヒル	6.15	18.04	1109	115	101	117
	モノエース	5.80	18.15	1051	109	102	111
	モノミドリ	5.33	17.82	948	100	100	100
北 農試*	HT1	6.99	17.40	1217	105	103	108
	スターヒル	7.32	17.22	1260	110	102	112
	モノエース	7.24	17.03	1233	109	101	110
	モノミドリ	6.66	16.87	1123	100	100	100

注)*北農試は昭和63年と平成元年の2か年平均

表2　そう根病抵抗性検定試験成績

場所名	系統名または 品種名	根重 (t/10a)	根中糖分 (%)	糖量 (kg/10a)	対モノミドリ比(%)
					根重	根中糖分	糖量
北見 農試	HT1	3.34	13.95	469	140	144	200
	モノミドリ	2.39	9.70	235	100	100	100
千歳市	HT1	6.12	15.20	927	109	123	133
	モノミドリ	5.62	12.32	696	100	100	100
斜里町	HT1	6.13	16.51	1004	116	124	143
	モノミドリ	5.29	13.36	701	100	100	100
津別町	HT1	3.29	12.47	420	147	155	219
	モノミドリ	2.24	8.04	192	100	100	100

注)そう根病発病圃場で実施し、北見農試は昭和62年と平成元年の2か年、
　千歳市は昭和62年から平成元年の3か年、斜里町と津別町は昭和62年、
　63年の2か年平均値。

7.配布しうる種子量　　500㎏

8.適応地帯および普及見込み面積　　全道一円のそう根病発生地帯、500ha

9.栽培上の注意
1)「HT 1」はそう根病圃場抵抗性を有するが、前回作付けした圃場の発病程度を十分に考慮して、汚染程度が高いと思われる圃場での栽培は避ける
2)既存の品種と同様に耐湿性は弱いので、過湿になりやすい圃場での栽培は避ける。
3)褐斑病に弱いので適期防除を行う。
4)根中糖分の低下や有害性非糖分の増大を招くので多肥栽培は避ける。
5)その他の栽培法は「スターヒル」に準ずる。