完了試験研究成績
1.課題の分類  総合農業 作業技術 移植-2
           北海道 農業物理
2.研究課題名  たまねぎ苗巻取機の苗自動挿入装置の開発に関する研究
3.予算区分  共同
4.研究実施年度・研究期間  継・中・【完】 平成元年(昭62〜平元)
5.担当  中央農試 農業機械部機械科
6.協力分担関係  (株)久保田農機製作所


7.目的
 たまねぎ移植体系の中で慣行裸苗を使用するテープ式苗カセット方式は、移植期の制約された作業日数の中で、圃場作業能率が高いため、広く利用されている。しかし、苗取りからカセットヘの苗の巻取りが手作業であることから、高い能率を持つ移植機の性能を支えるためには、自家労働力だけで対応することが困難であり、多くの雇用労働力に依存しなければならない状況にある。従来人力に頼っていた苗取りの省力化と、巻取り機への挿苗の自動化を図るため、育苗箱を用いた育苗を検討し、これから自動的に苗を取り出し、巻取機へ供給する装置を開発する。

8.試験研究方法
1)育苗方式の検討
 (1)試験実施年次、場所及び品種名
  ①播種能率調査・・・平成元年長沼町
  ②苗調査・・・昭和63年長沼町「そらち黄」
          平成元年札幌市「札幌黄」、岩見沢市「春ひぐま」、中央農試「レオ」
  ③収量調査・・・昭和63年長沼町「そらち黄」、平成元年札幌市「札幌黄」
 (2)調査項目・・・播種必要資材調査、所要時間調査、苗素質(50本抽出3反復)、収量(4畦3m、3反復)
2)苗自動挿入装置の性能試験
 (1)試験実施期日、場所及び品種名・・・平成元年5月札幌市農家「札幌黄」、中央農試「レオ」
 (2)開発機・・・玉ねぎ苗自動供給機 AS-18
 (3)調査項目・・・苗取り作業能率、得苗率と手作業の頻度、連続作業時の能率及び補助作業頻度

9.結果の概要・要約
1)開発機水稲用育苗箱を改造した苗箱に育苗された苗を用いる。苗箱の裏側から苗を突き出し、チエ一ン
 で葉先を揃えながら搬送し、苗箱のピッチから巻取機の苗溝のピッチヘ間隔を広げ、ローラの作用でホ
 ッパに供給する。ホッパは可倒式で、まず根が下になるよう傾斜して根の位置を揃え、再び水平となって
 巻取り機へ苗を供給する。
2)水稲用育苗箱を改造した苗箱で育苗した苗の形質は、慣行裸苗との差は認められなかった。
 同一の圃場で管理した結果、総収量、規格内収量ともに慣行裸苗と箱育苗の差は認められなかった。
3)箱育苗への播種作業能率は、3人の組作業で、10アールあたり1.45時間であった。
4)苗取りは、苗箱をはずして苗運搬用の台車へのせることで終了し、時間あたり96,768本(29.3a)を処理し
 た。投下労働量は10アールあたり0.34人・時となり、従来の約6%で可能であった。
 箱育苗による得苗率は約80%で、開発機によって、そのほとんどを巻取機に供給することができた。
 作業員1人で従来の巻取り作業とほぼ同程度の能率が得られ、1カセットを巻取るための所要時間は8.8
 〜9.8分であった。投下労働量は10アール当り4.2〜4.7人・時となり、従来の巻取作業の30〜40%で可能
 であった。

10.成果の具体的数字

図1  苗自動挿入装置概観


表1  苗自動挿入装置仕様諸元
全長(mm) 1,970
全幅(mm) 990
全高(mm) 1,900(作業時)
1,320(運搬時)
重量(kg) 190
動力 200W電動モータ
電源 単相100V
苗突出し棒 先端シリコンゴム
突出速度(m/s) 0.11
直径(mm) 12
本数 18
搬送チェーン カーブチェーン
ピッチ(mm) 25
搬送速度(m/s) 0.183


表2  育苗箱の仕様
寸法(外寸) 317×631×50mm
マス目数 720(18×40)2.78cm2/マス
1マス当り容量 11.8cc(15×15×49mm)


表3  使用した必要資材
費目 必要量(10a当り)
苗箱 58枚
種子 コーディングしたもの41,250粒
育苗床土* 慣行床土300l、ピートモス150l
播種板 専用、720穴  1台
突起板 専用       1台
衝撃土詰機 ビート土詰用  1台
ハウス面積 11.6㎡
*pH、有効態リン酸については慣行床土基準に準じた。
 慣行床土は沖積土、ピートモスはA級。


表4  播種作業能率
1枚当たり所要時間(min) 1.5
毎時処理量(箱/h) 40
10a当たり所要時間(h) 1.45
作業人員(人) 3


表5  苗素質
年次 場所 品種名 区別 育苗日数(日) 葉数 葉鞘径(mm) 根長(cm) 根数(本)
昭和
63年
長沼町 そらち黄 箱育苗 55 3.7 3.9 6.8 10.0
慣行裸苗 3.6 4.0 9.0 9.5



札幌市 札幌黄 箱育苗 61 2.2 3.1 4.6 9.5
慣行裸苗 2.0 3.0 5.4 9.6
岩見沢市 春ひぐま 箱育苗 58 2.1 3.3 3.8 10.1
慣行裸苗 2.0 3.2 4.3 10.0
中央農試
場内
レオ 箱育苗 54 2.5 3.8 4.1 9.8
慣行裸苗 2.3 3.7 3.9 9.5


表6  収量調査結果
年次 品種 移植日 調査日 区別 規格内品内訳(%) 規格内品
(kg/10a)(%)
規格外品
(kg/10a)(%)
総収量
(kg/10a)
LL L M S
昭和
63年
そらち黄 5/10 9/5 箱育苗 8.1 87.7 3.9 0.3 5,171(81.0) 1,212(19.0) 6,383
慣行裸苗 14.5 83.0 2.5 0 5,022(78.4) 1,383(21.6) 6,405
平成
元年
札幌黄 5/2 9/8 箱育苗 13.0 81.8 5.2 0 4,981(71.4) 2,000(28.6) 6,981
慣行裸苗 6.4 90.7 2.9 0 4,949(73.6) 1,778(26.4) 6,727


表7  苗取作業能率
処理区別 開発した方式 従来手作業
処理量(本/h) 96,768 30,000
所要時間(h/10a) 0.34 1.1
作業人員(人) 1 5
投下労働量(人・時/10a) 0.34 5.5


表8  得苗率と補助作業頻度
品種名 育苗での欠苗(%) 小苗率(%) ホッパ上の欠株(%) 姿勢乱れ(%) 得苗率(%) 作業頻度(%)
札幌黄 10.6 6.1 11.3 10.2 82.6 33.7
レオ 15.0 2.3 16.5 8.3 81.2 27.4


表9  巻取作業能率
処理区別 苗挿入装置使用 従来巻取作業
札幌黄 レオ 札幌黄
作業内訳(%) テープセット 4.2 6.5 9.0
巻取り 90.1 87.1 86.4
仕上げ 5.7 6.4 4.6
所要時間(min/巻) 8.8 9.8 8.4
巻取本数(本/巻) 1,155 1,139 1,155
作業人員(人) 1 1 3
毎時処理量(a) 2.4 2.1 2.5
投下労働量(人・時/10a) 4.2 4.7 12.0


11.成果の活用面と留意事項
 苗箱の設置は、苗床への密着を図るため、充分灌水してから行う。
 水管理については特に注意し、徒長しないようにする。

12.残された問題点と今後の対応