試験研究成績
1.課題の分類  総合農業 作業技術 飼養管理-11
           北海道 農業物理 畜産
2.研究課題名  電気伝導度を利用した異常乳検出に関する試験
           (電気伝導度を利用した異常乳検出器の改良に関する試験 昭62〜63年)
           (電気伝導度を利用した異常乳検出器の実用化に関する試験 平元年)
3.予算区分  共同研究
4.研究期間  (昭62〜平元)
5.担当  根釧農試 酪農施設科 酪農第二科
6.協力・分担関係  北海道オリオン(株)


7.目的
 高品質乳生産の上から、搾乳時に異常乳を精度よく検出する簡易な自動検出器の実用化が要望されている。乳腺の炎症により上昇する乳汁の電気伝導度を指標として、異常が疑われる分房を精度よく検出する方法について検討する。

8.試験研究方法
1)搾乳中の電気伝導度と異常乳に関する試験
 (1)個体乳および分房乳における電気伝導度と異常乳の関係(昭和62年)
  個体乳、搾乳中の個体乳及び分房乳の電気伝導度と体細胞数の関係について検討した.
 (2)搾乳中の分房別電気伝導度と体細胞数および起因菌感染の関係(昭和63年)
  供試牛群及ぴ頭数2群78頭、根釧農試(朝搾乳39頭)、現地酪農家(夕搾乳39頭)
  調査項目及ぴ方法電気伝導度:分房別測定クロー(市販品)→測定器→ペンレコーダ
  体細胞数:前搾り乳50ml→フォソマチック215により測定
  細菌感染状況:分房前乳による反復検査、起因菌分類は久米に準じた
2)連続する数回の搾乳における搾乳中の電気伝導度と異常乳に関する試験(平成元年)
 (1)電気伝導度検出・収録装置の開発
  40チャンネル、1秒間隔デジタル測定、電気伝導度値1パソコン収録
 (2)連続する数回の搾乳における搾乳中の電気伝導度と異常乳の関係
  供試牛群及ぴ頭数1群47頭、根釧農試、連続4回(2日間)×3期
  調査項目及び方法電気伝導度:分房別測定クロー(市販品)→検出・収録装置
  体細胞数:前搾り乳5ml→フォソマチック90により測定
  細菌感染状況:分房前乳による反復検査、起因菌分類は久米に準じた。

9.成果の概要・要約
1〉体細胞数が少ない分房乳汁の電気伝導度は搾乳中平坦な推移を示し、また個体内の分房間差値も小さい傾向が見られた。しかし体細胞数が多い分房では搾乳開始時から高い値を示したり、搾乳中に高い値を示す例が多く見られた。
2)搾乳中の電気伝導度の種々の変動パターンは、搾乳開始15秒間の最大値(Ei)、搾乳中の最大値(Et)及びそれらの間差値(Eid,Etd)により類別できた。これらに牛の産次を加え5つの変数とすると体細胞数に対する重相関係数は0.63であった。また、体細胞数に対する寄与の程度は変数減少法によればEid<Ei<Et<Etdであり、Etd単独の寄与率は0.29であった。
3)誤陽性率が5%程度となる条件での基準体細胞数を超える分房の検出精度はEi<Eid<Ei+Eid<Et<Etd<Et+Etdの順であった。また、基準の体細胞数が大きくなるほど検出精度は高くなり、Et(8.0mS)+Etd(0.50mS)による体細胞数50万/mlを超える分房の検出精度は82%(14/17)であった。しかし1次性起因菌感染分房の検出精度は低く57%(8/14)にとどまった。
4)5頭複列ミルキングパーラを対象に伝導度を1秒間隔でスキャンし、分房別のEi、Et、それぞれの出現時刻及ぴ搾乳中の測定中断時間を計測しパソコンに取り込む計測装置を開発した。
5)搾乳中の1秒間隔の測定値を用いた場合、搾乳回数が1回では誤陽性率が5%程度となる閥値はEt(7.5mS)+Etm(1.00mS)であった。この閥値での検出精度は1回の搾乳の測定ではやや低かった。しかし、連続する数回の搾乳のEtの最大値(Etm)とその間差値(Etmd)に用いることで検出精度は高まり、連続4回の測定では体細胞数30万/ml を超える分団の検出精度が72%(21/29)となった.


10.主要成果の具体的数字

   Ei 搾乳開始15秒間の最大値
Eid Eiの分房間差値
Et 搾乳中の最大値
Etd Etの分房間差値
Etm 連続する数回の搾乳中のEt最大値
Etmd Etmの分房間差値
T 搾乳時間
Tl 搾乳中の停止時間
図1  電気伝導度の変化と測定値 L 読み取りしきい値


表1  各種伝導度判別閥値による異常分房検出精度の比較
電気伝導度の閥値 異常分房検出精度%(検出分房数/該当分房数)
体細胞数の基準(/ml) 細菌感染
20万 30万 50万 1次性起因菌
  ───── % ─────
Ei(7.5mS) 21.7(10/46) 17.9(5/28) 29.4(5/17) 7.1(1/14)
Eid(0.75mS) 30.8(14/46) 35.7(10/29) 52.9(9/17) 14.3(2/14)
Ei(7.0mS)+Eid(0.5mS) 34.8(16/46) 39.3(11/28) 58.8(10/17) 14.3(2/14)
Et(8.5mS) 37.0(17/46) 42.9(12/28) 64.7(11/17) 28.6(4/14)
Etd(1.0mS) 41.3(19/46) 57.1(16/28) 70.6(12/17) 42.9(6/14)
Et(8.0mS)+Etd(0.5mS) 47.8(22/46) 66.7(18/28) 82.0(14/17) 57.1(8/14)
伝導度の判別閥値は、それぞれの場合誤陽性率が5%となるように度数分布表から求めた。
電気伝導度は搾乳中の実測値(mS、37℃)


表2  測定回数による異常分房検出精度の比較
電気伝導度閥値(mS) 連続
測定回数
  検出の精度
体細胞数の基準(/ml) 乳房炎起因菌感染
  ───── % ─────
 
Etm(7.5)+Etmd(1.00)
1  正陽性率  48.6 53.4 63.2 34.6 74.5 20.7
誤陽性率 4.3 4.9 5.4 4.6    
2 正陽性率 54.4 60.5 62.5 37.3 82.1 21.6
誤陽性率 3.8 4.6 5.4 4.3    
3 正陽性率 60.8 70.2 71.1 43.4 96.0 25.7
誤陽性率 4.1 4.6 5.7 4.4    
4 正陽性率 62.2 72.4 81.3 46.9 100.0 29.7
誤陽性率 4.4 4.7 6.1 4.5    


11.成果の活用面と留意点

12.残された問題とその対応
 1)基準となる電気伝導度閥値の設定
 2)検出部の改良