【指導参考事項】
成績概要書                                  (作成 平成2年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 病害虫 病害
           北海道 病理昆虫 病害 水稲
2.研究課題名  イネばか苗病菌のベンゾイミダゾール系薬剤に対する耐性化と緊急対策試験
3.予算区分  道費
4.研究期間  昭和63年
5.担当  中央農試稲作部栽培第二科
6.協力分担関係  中央農試病虫部病理科
              〃    発生予察科

7.目的
健苗育成と良質米の安定生産をはかるため、道内におけるベンゾイミダゾール系薬剤耐性菌の発生密度と耐性程度を明らかにすると共に、種子消毒のための代替薬剤の探索を行なう。

8.試験研究方法
1)耐性菌の検定:ペノミル水和剤を用い、最低生育阻止濃度(MIC)を求める。
2)種子消毒剤の効果査定:12薬剤

9.結果の概要・要約
1)MIC値≦10ppm、>10ppm〜≦200ppm、>200ppmの範囲に属する菌株を、それぞれ感受性菌、中度耐性菌及ぴ高度耐性菌とすると、昭和62の検定では62地点中7地点(11.3%)から中度以上の耐性菌が、同63年の検定では78地点中8地点(12.5%)から中度耐性菌が、6地点(9.4%)から高度耐性菌がそれぞれ検出された。このことから、昭和63年は前年度より薬剤耐性化が進んでいると考えられた。
2)平成1年の検定では、24地点中2地点(8.3%)から中度耐性菌が、20地点(83.4%)から高度耐性菌が検出された。この結果は調査地点数が少なく、また供試菌株に片寄りがあることから、全道の状況を示す数字となりえないが、同年にばか苗病の発生面積が急増したこと(図1)、高薬量による種子消毒において多発する例(表4)が散見されたことなどから耐性化が前2年よりさらに進行しているものと考えられる。
3)高濃度短時間処理を行なったにもかかわらず本病が多発したところでは、分離菌のMIC値は1,600ppm程度の高いものが多かった(表4)。
4)ベンゾイミダゾール系薬剤にかわる種子消毒剤の検索を行なった結果、プロクロラズ(25%)乳剤、トリフルミゾール(15%)乳剤及びペフラゾエート(20%)水和剤が実用性あると考えられた。各薬剤の処理方法は下記の通り。
プロクロラズ乳剤
  1,000倍24時間浸漬、100倍10分間浸漬
トリフルミゾール乳剤
  300倍48時間浸漬、30倍10分間浸漬、5倍3%吹き付け処理
ペフラゾエート水和剤
  200倍24時間浸漬、20倍10分間浸漬、0.5%湿粉衣、7.5倍3%吹き付け処理

10.主要成果の具体的数字
表1 昭和62年度におけるイネばか苗病薬剤耐性菌の検出状況
         (ベノミル水和剤による検定)
採集地 検定
地点数
MIC値別地点数
支庁 市町村数 地点数 10ppm以下 100ppm以上
渡島 3 4 3 3 0
桧山 2 2 2 2 0
胆振 1 1 1 0 1
日高 3 3 0    
後志 1 1 0    
石狩 5 8 5 4 1
空知 20 34 31 29 2
上川 10 22 18 15 3
留萌 2 2 2 2 0
47 77 62 55(88.7%) 7(11.3%)
注)ベノミル水和剤の検定濃度;0,1,10,100ppm

表2 昭和63年度におけるイネばか苗病薬剤耐性菌の検出状況
         (ベノミル水和剤による検定)
採集地 検定
地点数
MIC値別地点数
支庁 市町村数 地点数 10ppm以下 25〜200ppm 400ppm以上
渡島 5 6 5 3 1 1
桧山 1 1 0      
胆振 4 5 3 2 1 0
日高 4 8 5 2 1 2
後志 2 5 3 3 0 0
石狩 5 15 10 10 0 0
空知 16 40 34 30 2 2
上川 10 21 14 11 2 1
留萌 3 4 4 3 1 0
50 105 78 64(78.1%) 8(12.5%) 6(9.4%)
注)ベノミル水和剤の検定濃度;0,1,2.5,5,10,25,50,100,200,400,800,1600ppm

表3 平成1年度におけるイネばか苗病薬剤耐性菌の検出状況
         (ベノミル水和剤による検定)
採集地 検定
地点数
MIC値別地点数
支庁 市町村数 地点数 10ppm以下 25〜200ppm 400ppm以上
渡島 2 2 0      
桧山 3 3 0      
胆振 5 8 4 0 0 4
日高 2 2 2 0 1 1
後志 1 2 0      
石狩 7 9 8 0 1 7
空知 15 33 10 2 0 8
上川 12 19 0      
留萌 3 3 0      
50 81 24 2(8.3%) 2(8.3%) 20(83.4%)
注)ベノミル水和剤の検定濃度;0,1,2.5,5,10,25,50,100,200,400,800,1600ppm


図1 北海道における近年のイネばか苗病の発生推移
                   (道農業改良課調査)

表4 平成1年度の供試菌株の来歴とベノミル剤及びチウラム・ベノミル剤に対するMIC値
菌株
番号
採集地 品種名 種子
消毒
発生状況 チウラム
ベノミル
MIC値
ベノミル
MIC値
耐性

判定
277* 当別町東小川通 ** ゆきひかり BT.高 本田で4〜5株 400 1600 R
279* - 1600 R
280* 100 1600 R
282* - 1600 R
284* - 1600 R
288* - 1600 R
292* 100 1600以上 R
445 - 1600 R
446 - 1600 R
296* 当別町大軒町 A** ゆきひかり BT.高 本田で4〜5株 200 1600 R
298* 200 1600 R
299* - 1600 R
300* 200 1600 R
302* 200 1600 R
74 秩父別町 A** ゆきひかり BT.高 2〜3本/育苗箱☆ 200 1600 R
77 200 - R
68 100 - R
72 100 1600 R
73 200 1600 R
70 200 1600 R
イ2ネ4 B** ゆきひかり BT.高 5本/育苗箱☆ 200 1600 R
4 400 1600 R
9籾 - 1600 R
32 200 1600 R
S5 100 1600 R
イ2モ1 100 1600 R
イ2モ3 100 1600 R
イ2モ3 200 - R
42 - 1600 R
61 C** ゆきひかり BT.高 2〜3本/育苗箱☆ - 1600 R
68 - 1600 R
69 200 1600 R
58 400 400 R
S4 200 800 R
S7 200 1600 R
290 200 1600 R
イ3ネ3 - 1600 R
イ3ネ1 50 1600 R
イ3ネ4 200 1600 R
R1 静岡県     400 1600 R
注)
*;本田発病より病原菌を分離した。
**;病害診断標本より分離した。
BT.高;チウラム・ベノミルの高濃度短時間浸漬処理
チウラム・ベノミルおよびベノミルの検定濃度;0,1,2.5,5,10,25,50,100,200,400,800,1600ppm
−;未検定
S(感受性);MIC値10ppm以下とした。
M(中度耐性);MIC値25ppm〜200ppmとした。
R(高度耐性);MIC値400ppm以上とした。
☆;農家の抜き取り後に調査した。
代替農薬の効果査定試験に関する具体的数字は新資材の成績を参照されたい。

11.成果の活用面と留意点
1.道内においてベンゾイミダゾール系薬剤に対するばか苗病菌の耐性化が年々進み、その密度は相当高まっていると考えられる。
2.感受性菌並びに耐性菌に対して、すでに実用化されているトリフルミゾール水和剤に加えプロクロラズ乳剤、トリフルミゾール乳剤及ぴペフラゾエート水和剤なども種子消毒の効果が高い。
プロクロラズ乳剤(25%);(商品名:スポルタック乳剤)
1000倍液24時間浸漬
100倍液10分間浸漬
毒性;普通物、魚毒性;B類相当、登録;無
トリフルミゾール乳剤(15%);(商品名:トリフミン乳剤)
毒性;普通物相当、魚毒性;B類相当、登録;有
登録内容;浸種前1回処理
30倍10分間浸漬
300倍24〜48時間浸漬
5倍(使用量は乾燥種籾1kg当たり希釈液30mL)種子吹き付け処理(種子消毒機使用)
又は塗沫処理
その他;高濃度短時間浸漬処理の同一薬液使用回数は10回、低濃度長時間浸漬処理では5回までとする。
ペフラゾエード水和剤(20%);(商品名:ヘルシード水和剤)
毒性;普通物、魚毒性;A類、登録;有
登録内容;浸種前1回処理
20倍10分間浸漬
200倍24時間浸漬
7.5倍(使用量は乾燥種籾1kg当たり30mL)種子吹き付け処理(種子消毒機使用)
乾燥種籾重量の0.5%種子粉衣(湿粉衣)
その他;高濃度短時間浸漬処理の同一薬液の使用回数は10回、低濃度長時間浸漬処理では3回までとする。
3.採種ほにおける播種前の種子消毒にはベンゾイミダゾール系以外の薬剤の使用が望ましい。

12.残された問題点とその対応