【指導参考事項】
完了試験研究成績                        (作成 平成2年1月)
1.課題の分類  総合農業 生活環境 病害虫 病害-V-3-b
        北海道 病理昆虫 病害 畑作
2.研究課題名  ポテトジュース(デカンター排液)中などにおけるジャガイモそうか病菌の
          存否確認と、その殺菌に関する試験
     ・ジャガイモそうか病菌のポテトジュース(デカンター排液)中などにおける存否確認試験
     ・ポテトジュース中のそうか病菌に対する消毒試験
3.予算区分  受託
4.研究実施年度・研究期間  (昭59〜61年,63〜平成元年)
5.担当  十勝農試病虫予察科
6.協力・分担関係  北海道澱粉工業協会、南十勝農工連澱粉工場
          中札内村農業協同組合、日本曹達株式会社

7.目的
澱粉製造の過程で排出されるポテトジュース(デカンター排液)をはじめ、塊茎遊離土、汚泥、貯留排液および澱粉粕中におけるジャガイモそうか病菌の存否を確認し、デカンター排液中の病原菌の薬剤よる殺菌法を確立する。

8.試験研究方法
1)各種排出物中のそうか病菌の存否:各種排出物を散布、混入した畑、枠圃場に馬鈴しょを栽培し、新塊茎における感染によって判定した。
2)薬剤による消毒効果確認:中性次亜塩素酸カルシウム剤で処理したデカンター排液を散布、混入した殺菌土壌に馬鈴しょを栽培し、新塊茎における発病の有無によって判定した。
3)デカンター排液中の塩素濃度調査:ジエチル・パラフエニレン・ジアミン(DPD法)によった。

9.結果の概要・要約
1)デカンター排液中にそうか病菌の存在することが確認された。なお、デカンター排液中のそうか病菌の菌量は、産出当該年におけるそうか病の発生の多少によって異なる。
2)そうか病菌は、塊茎遊離土、汚泥、貯留池排液および澱粉粕中にも存在した。
3)中性次亜塩素酸カルシウム剤は、in vitroでそうか病菌の殺菌効果が認められた。(≧5ppm)
4)デカンター排液中のそうか病菌は、中性次亜塩素酸カルシウム剤処理によって明らかに減少した。
5)デカンター排液中のそうか病菌の殺菌に有効な中性次亜塩素酸カルシウム剤の濃度は、7ppm附近とみられる。
6)デカンター排液中のそうか病菌は、脱蛋白処理によって死滅する。
7)10分後のデカンター排液中の残留塩素濃度を7ppmとする場合、添加すべき塩素濃度は、デカンター排液流量30m3/時間の条件下で約350ppm(中性次亜塩素酸カルシウム70%剤15.0kg/時間、60L/分)であった。
8)残留塩素と添加塩素濃度との関係は。操業時期でほとんど変動しなかった。

10.主要成果の具体的数字


第2図 澱粉製造にともなう各種排出物の散布・施用圃場での
    ジャガイモ連作によるそうか病の年次発生推移(1984〜1986)


第3図 デカンター排液中におけるそうか病菌の存在(1985)

第1表 低水温(5℃)下における中性次亜塩素酸カルシウム剤の
     そうか病菌に対する殺菌効果 実験-Ⅱ
胞子鎖 菌株名 濃度
(ppm)
時間(分)
5 10 15 30
らせん状 SNS-30 0 - - -
2.5 37 58 14 4
5.0 27 0 3 1
SSY-9 0 - - -
2.5 157 165 352 1
5.0 0 1 1 1
直〜波状 SHE-13 0 - - -
2.5 9 1 3 0
5.0 6 0 1 0
STF-32 0 - - -
2.5 150 224 42 31
5.0 1 1 1 0
注)数値はコロニー数(3反復の合計)∞:コロニー数1000以上

第2表 デカンター排液中のそうか病菌に対する中性次亜塩
     素酸カルシウム剤の消毒効果-Ⅲ
処理区別 そうか病
発病薯率 発病度
無散布 0**% 0**
1ppm処理排液 0.2** 0.0**
3ppm処理排液 0.2** 0.0**
5ppm処理排液 1.9** 0.7**
無処理排液 24.6 7.5
注)供試品種メークイン、1区3.24㎡3反復、1987年8月28日処理
(11.1L/m3散布)、1988年5月11日植付け、9月6日掘取り、枠土壌は
クロールピクリンで殺菌、**無処理排液区に比較し、1%水準で有意

第3表 デカンター排液中そうか病菌に対する中性次亜塩
     素酸カルシウム剤の消毒効果(温室実験、1989)
処理区別 そうか病
発病薯率 発病度
無散布 0.8**% 0.2**
5ppm処理排液 8.9** 2.2**
7ppm処理排液 0** 0**
9ppm処理排液 1.4** 0.6**
無処理排液 23.1 5.8
注)供試品種メークイン、1区0.6㎡3反復,1988年9月8日処理
  (33.3L/m3散布)、1988年12月23日植付け、1989年4月5日堀取り
  調査、殺菌(メチルブロマイド)土壌使用、*,**無処理排液区
  に比較し、それぞれ5%、1%水準で有意

第4表 デカンター排液中のそうか病菌に対する
     脱蛋白処理(加熱)の影響(温室実験、1989)
処理区別 そうか病
発病薯率 発病度
無散布 0.8**% 0.2**
脱蛋白処理排液 0.7** 0.1**
無処理排液 8.0 2.1
注)供試品種メークイン、1区0.6㎡反復,1988年9月8日処理
  (33.3L/m3散布)、1988年12月23日植付け、1989年4月5日堀取
  り調査、殺菌(メチルブロマイド)土壌使用、**無処理排液区に
  比較し、1%水準で有意

11.成果の活用面と留意点
1)デカンター排液中には、ジャガイモそうか病菌が存在する。
2)中性次亜塩素酸カルシウム(70%)剤(処理10分後の塩素濃度約7ppm)は、デカンター排液中のそうか病菌に対する殺菌効果がある。
3)デカンター排液中のそうか病菌は、蛋白回収処理(加熱)によって死滅する。

12.残された問題とその対応
1)デカンター排液散布による既存そうか病菌への影響
2)塊茎遊離土および、澱粉粕中に存在するそうか病菌対策