【指導参考事項】
完了試験研究成績           (作成1990年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 病害虫-Ⅰ-8-b
          北海道 病理昆虫
2.研究課題名  北海道におけるアワヨトウ発生の推定法
        (寒地害虫の発生要因の解明)
3.予算区分  経常
4.研究期間  昭62年〜平1年
5.担当  北農試・生産環境・虫害
6.協力・分担関係  農環研・気象資源研
            九農試・情報処理研

7.目的
牧草地の新規造成に伴い、それまで重要でなかった害虫が顕在化してきたり、環境の不安定性と関係して、突然あるいは一定の同期をもって異常発生する例が知らされている。本研究においては、寒地害虫の発生要因の解明を行うことを目的としている。
寒地の害虫としては、①もともと北海道に固有の害虫、②もともと北海道に棲息しなかったが、過去に侵入し、その後定着・常発している害虫、③北海道では越冬できず他地域から飛来・侵入を繰り返す害虫に大別できる。当面はアワヨトウを例にとって、北海道では越冬できず、他地域から飛来・侵入を繰り返す害虫について、侵入・定着におよぼす気象要因の解析を行う。

8.試験研究方法
(1)九州農業試験場で開発された、850mb面天気図を読み取り、風向・風速をメッシュ化することにより飛来の可能性を推測する手法を用いて、北海道におけるアワヨトウの飛来 ・侵入を推測することが可能かどうかの検討を行った。
(2)飛来があったとして、次世代の発生時期を、メッシュ化された月平均気温を用いて、 有効積算温度の法則から推測することが可能かどうかの検討を行った。
(3)アワヨトウの異常発生のみられた1987年に現地調査とアンケート調査を行い、アワヨ トウの発生と地形との関係について考察を行った。
(4)以上の結果を組み合せ、アワヨトウのように北海道で越冬することができず、他地域 から飛来・侵入を繰り返す害虫について、発生要因を解明する手順の検討を行った。

9.研究の概要・要約
(1)1987年6月1日から23日までの850mb面天気図を用いてメッシュ化した風向・風速図を検討した結果、6月5日から7日にかけて中国南東部か北海道に向かって強い風が吹いており、この風によって大量飛来したものと考えられる(1987年度)。
1989年6月にも道南農試場内に設置した糖蜜トラップおよび予察灯でアワヨトウ成虫の補獲が認められたので、同様の手法で天気図の解析を試みたが、天気図からは、海外飛来の可能性は少ないと思われた(1989年度)。
(2)1987年の発生の際に、十勝地方で道央や道南に比べて第1世代の発生が遅れた原因を有効積算温量の法則から解析した。メッシュ気候値とアメダスデータを用いて3次メッシュ の温度データを求め、各メッシュごとに幼虫期間を計算した。それによると、十勝地方は、石狩地方に比べ約10日ほど期間が長くなることがわかった。このことから、6月中旬の低温が産卵・発育を抑制したと考えられる(1988年度)。
(3)1987年の異常発生の際に、現地調査を行い、調査地点を①高台にあり周囲を見渡せる 開けた所、②高台にあり周囲を山や林などに囲まれた所、③平地にあり開けた所、④平地にあり周囲を山や林などに囲まれた所の4つに類型化できた。そこでアンケート調査を実施したところ、高台にある圃場では第2世代の発生がみられない場合が多いこと、この傾向は周囲を見渡せる開けた所で顕著であること、平地では第2世代の発生した地点が多く、この傾向は周囲を山や林などで囲まれた所に多いことがわかった。
(4)以上の点から、アワヨトウ発生の推定法として次頁のような模式図が考えられる。

10.成果の具体的数字
北海道におけるアワヨトウ発生の推定法手順

予察灯などのトラップで数日にわたって
連続して誘殺が認められた。

誘殺初めの1〜2日前からの850mb天気図を読み取り
メッシュ化された風向・風速図を作成する

その時期の発生地と考えられる場所から連続した強風域が
北海道に到達している場合、飛来があったとみなす

天気図から飛来が考えられる地域についてメッシュ気候値と
アメタスデータから次世代幼虫の発生盛期を推測する

天気図から飛来が考えられる地域の幼虫発生調査を行う
その場合、地形との関係を考慮に入れ、調査地点を選ぶ

発生が認められた地域では早期防除を行う

11.成果の活用面と留意点
850mb面天気図の入力方法としては、①気象ファクシミリを受信する、②気象協会からコピーを入手する、③気象協会からオンラインでデータを入力する、の3通りが考えれる。①、②の場合、74の観測地点の風向・風速データを読みとり、データファイルを作成する必要がある。③の場合、74地点の風向・風速データだけを切り出して使用する。いずれ の場合も、解析プログラムは用意されている。

12.残された問題とその対応
ガンマキンウワパのように、過去に飛来・侵入したと推測されるが、その後常発している害虫については、経常研究「生理活性物質の利用によるヤガ類の発生生態の解明」の中で継続する。