7.目的
牧草サイレージを主体とした飼養において分娩前後のエネルギー水準をコントロールして乳蛋白率、肝臓の脂肪沈着および血液成分に及ぼす影響を検討する。

8.試験研究方法
1)試験区分
分娩前後のエネルギー水準をTDN充足率で右表のように4区分とし、分娩後は乳量に応じて飼料給与量を1週ごとに設定した。
2)供試飼料
チモシー主体の牧草サイレージと乳配を主として蛋白補正用に大豆粕を用いた。

9.結果の概要・要約
1)分娩前の体重/体高比は試験1では527と過肥となり、試験2では456とやや削痩した。分娩直後から9週後にかけH・L区で95㎏、L・L区で62㎏減少したH・S区、L・S区では大きな体重の減少はみられなかった。
2)乳蛋白率はH・S区、L・S区では分娩後3〜16週まで3.0%前後で推移したが、H・L区では9週以降平均2.71%、L・L区では6週以降2.68%と有意な低下がみられた。乳蛋白率の低下は主に乳蛋白の原料となるアミノ酸がエネルギー源として利用されるためとされているが、泌乳初期には多くの体脂肪がエネルギー補給のために動員されるので乳蛋白率への影響が少なくなるものと考えられる。
3)肝臓の脂肪沈着割合がH・L区の分娩後2週で平均18%みられ、特に乳量の高い牛は1ヶ月にわたり40%を越え、泌乳初期のエネルギー不足による遊離脂肪酸の過剰動員が脂肪肝の主たる要因と考えられた。しかし、H・S区では乳量の高い牛もほとんど脂肪沈着が認められず、脂肪肝の予防には分娩初期のエネルギー充足が最も重要と考えられた。また、L・L区、L・S区でも10%以上の脂肪洗着がみられ、分娩前の低栄養によりリポ蛋白の産生、分泌が阻害されることによる脂肪肝も懸念される。脂肪沈着割合は20%を越えると、BSP試験やケトン体、ビタミンA等の血液成分に異常がみられ、肝機能の低下が窺える。
4)遊離脂肪酸はもっとも鋭敏に分娩前後のエネルギーの過不足を反映した。血統およびケトン体はH・L区、L・L区の乳量の高い牛に異常がみられた。インスリン、総コレステロールおよびリン脂質およびその他の血液成分は今回のエネルギー水準では処理間に差が認められなかった。

10.成果の具体的数字
表1　乳量および乳組成の平均値

	週	H・L	H・S	L・L	L・S
FCM (kg/日)	2-8	26.8	31.8	30.5	33.8
	9-16	19.1	27.6	23.1	29.1
乳蛋白 (%)	2-8	2.97	2.99	2.75	2.91
	9-16	2.71	3.01	2.69	2.95
乳脂 (%)	2-8	4.31	4.05	3.80	3.74
	9-16	3.63	3.91	3.64	3.79
乳糖 (%)	2-9	4.60	4.73	4.66	4.85
	9-16	4.59	4.73	4.52	4.82
SNF (%)	2-8	8.56	8.67	8.41	8.76
	9-16	8.24	8.67	8.21	8.77

表2　分娩後2、4週の肝脂肪沈着割合、
　　　　BSP試験および血液成分

	週	H・L	H・S	L・L	L・S
肝脂肪 (%)	2	18	1	12	10
	4	16	0	11	0
BSP (%)	2	10.5	2.9	12.3	4.1
	4	・	・	・	・
FFA (μEq/L)	2	1228	438	1035	566
	4	521	291	699	295
ケトン体 (μmol/L)	2	1840	695	940	656
	4	1878	758	1523	536
VitA2 (Iu/dL)	2	80	98	121	114
	4	84	100	136	145

図1　乳蛋白率の推移

図2　分娩前後の遊離脂肪酸の推移

11.成果の活用面と留意点
1)高泌乳牛では泌乳前期エネルギーが不足するので、泌乳後期にある程度体脂肪をつけておくことが必要であるが、過肥牛はエネルギー効率の面から、さらに過肥牛症候群といわれる生産病の発生との関連からも望ましくない。
2)逆に乾乳期の過肥を心配するあまり低栄養状態で飼養され、乳生産や繁殖に問題のある農家も多いので、乳牛郡全体のボディコンディションの動きに注意する必要がある。

12.残された問題とその対応
1)乳蛋白率向上のためにエネルギー補給とともに、泌乳前期のパイバスアミノ酸の添加効果を検討する。
2)高泌乳牛の肝機能コントロールは乳生産および生産病予防にとって重要であり、蛋白、脂質および糖代謝と脂肪肝、ビタミンAおよび性ホルモンの代謝等との関連についてさらに検討する必要がある。