【指導参考事項】
完了試験研究成績               (作成平成元年12月)
1.課題の分類  畜産 乳牛 栄養飼科−北海道
          北海道 畜産
2.研究課題名  混合飼料給与による泌乳前期の乳牛の乾物摂取量
3.予算区分  経常
4.研究実施年度・研究期間
   完了  昭和61〜63年度
5. 担当 北農試・畜産・栄養生理研
6.協力・分担関係  ホクレン

7.目的
泌乳前期の乳牛に最大乾物摂取量をうるような飼料条件で給与し、産乳と体重との組合せ水準別の乾物摂取量(DMI)のガイドラインを示す。

8.試験研究方法
昭和61年〜62年度
ホクレン畜産実験研修牧場(訓子府町)でつなぎ飼養する泌乳前期牛21頭(6、7月分娩7頭、9月分娩2頭、11〜2月分娩12頭)の分娩後90〜100日間のDMI、乳量を毎日、体重、乳脂率は週ごとに定時に測定した。この牧場はTDN73〜74%、CP15〜16%、乾物粗飼料率55%で調製した完全混合飼料(TMR:トウモロコシサイレージ主体)を、1日3〜7回給与、自由採食させて いる。
昭和63年度
ホクレン牧場のデータをもとにしたDMIの推定値の検証、北農試牛舎にけい養の泌乳前期牛9頭について、DMIを14日間測定した。飼料はTDN72%、CP15%、乾物粗飼料率45%で調製したTMR(グラスサイレージ主体)を、1日3-5回給与(実験1)した場合、2回と4回給与とを比較した場合(実験2)で、自由採食させて行った。

9.結果の概要・要約
1.分娩後約100日間の泌乳前期牛21頭の平均値は、DMI23.8kg、体重比で3.5%、体重685kg、4%FCM32.6kgであった。TDNおよびCPの充足率はそれぞれ105%、114%であった(表1)。
2.21頭のうち暑熱負荷をうけない、健康な14頭について、体重(Xbw)とFCM(Xfcm)からDMI の推定式をえた。
Y=13.1684+0.0068Xbw+0.2213Xfcm(寄与率59%)…①
この式から、体重とFCMの組合せ別のDMIの推定値を示した(表2)。推定式の寄与率が低いので、区間推定値もあわせて示した。
3.①式の寄与率が低いのは、「泌乳効率」(FCM/DMI)や「体重比」(DMI/体重)が個体によって異なっているからである。したがって、正味体重の増減量(あるいは分娩後日数)を説明変数に加えると寄与率が高まるとみられるが、泌乳前期の体重の増減量は正味体重の増減量と必ずしも一致しないとされている。ここでは体重と乳生産とでDMIを推定する限界を認めた上で、区間推定値もあわせて示した(表2)。
4.ホクレン牧場と同じようにウシの採食状況に応じて給与回線を変えた結果(試験1)北農試にけい養する泌乳牛5頭のDMI(A)と①の推定値(P)は近似し、A/P比は100.4%であった。実険2のDMIは、4回給与区が27.0kg、2回給与区が26.8kgとなり、給与回数による違いは認められなかった。A/P比は92.6±6.7%であった。

10.主要成果の具体的数字(総括)
表1 分娩後3カ月間の乳牛の乾物摂取量(DMI)                      (平均±標準偏差)
ウシ
番号
分娩
月日

DMI 体重比 体重 4%乳脂1)
補正乳
NRCに対する
割合2)
充足率 乳検による
乳量成績
TDN3) CP4)
kg % kg kg % % % kg
1 5/29 2 21.0±2.9(28.5)5) 3.3±0.5(4.5)5) 636±16 33.1±4.6 94.8 91 103 6870(291)6)
2 6/8 7 22.3±3.9(32.5) 3.5±0.6(5.0) 641±10 37.4±3.7 93.7 87 96 8756(305)
3 6/10 5 23.0±3.5(34.0) 3.4±0.5(5.1) 688±10 36.0±5.0 96.5 91 99 8346(305)
4 6/15 6 22.0±3.4(30.5) 2.9±0.4(4.0) 767±12 37.6±4.4 86.8 83 93 8953(305)
5 7/16 3 24.3±4.6(34.9) 3.8±0.7(5.2) 641±27 38.1±4.5 101.0 93 101 9612(305)
6 7/26 6 24.4±4.6(37.1) 3.6±0.8(5.3) 677±18 39.5±4.4 97.6 90 99 9233(305)
7 8/1 8 26.6±5.5(37.5) 3.8±0.7(5.2) 692±30 35.0±3.4 113.1 107 118 9317(305)
8 8/26 4 16.5±3.8(28.5) 2.8±0.7(5.1) 585±20 28.8±3.4 82.6 83 94 8154(289)
9 9/2 4 27.7±5.0(37.4) 3.6±0.6(4.9) 760±14 34.2±4.2 115.3 112 126 8099(275)
10 11/10 1 22.6±2.7(28.1) 4.1±0.5(5.1) 551±14 27.6±1.8 118.2 114 131 6735(273)
11 11/12 1 20.6±3.7(29.5) 3.8±0.7(5.7) 543±13 31.3±2.6 123.3 127 152 5266(302)
12 11/24 3 26.2±3.7(34.5) 3.9±0.5(5.2) 673±10 30.9±3.0 120.3 120 137 6802(283)
13 11/26 7 25.9±3.7(35.8) 3.4±0.4(4.7) 769±15 39.2±2.9 99.7 93 102 10541(298)
14 12/4 2 24.1±4.2(33.5) 4.0±0.7(5.8) 608±24 28.1±3.5 120.6 121 139 5079(249)
15 12/16 3 23.7±2.9(30.1) 3.1±0.3(3.7) 774±31 33.6±4.4 98.9 94 107 6847(305)
16 12/16 4 24.0±2.4(29.1) 3.5±0.3(4.1) 690±17 29.8±3.0 111.2 112 128 6421(261)
17 12/25 3 25.8±2.4(32.3) 3.6±0.3(4.8) 716±13 28.0±4.4 121.6 125 122 6084(253)
18 12/26 3 22.7±2.3(27.2) 3.1±0.3(3.8) 733±18 25.0±3.1 111.8 119 140 5992(298)
19 1/1 5 25.7±2.4(30.1) 3.3±0.3(3.9) 774±9 34.0±2.5 106.8 104 116 8511(270)
20 1/16 5 25.9±2.7(31.6) 3.4±0.3(4.1) 773±10 31.1±4.2 112.4 114 130 6077(237)
21 1/28 6 25.1±2.9(31.9) 3.6±0.4(4.5) 700±8 36.3±4.0 104.2 100 113 8192(305)
平均     23.8   (32.1) 3.5   (4.7) 685 32.6 106.2 104 117  
1)4%乳脂正乳=15×乳脂量+0.4×乳量
2)1988年NRC標準のDMI要求量(泌乳中後期)に対する割合
3)1987年日本標準にもとづき以下の算式:(DMI×0.735/((維持要求量+乳生産要求量)×補正係数)×100
4)1987年日本標準にもとづき以下の算式:(DMI×0.16/((維持要求量+乳生産要求量)×補正係数)×100
5)最大値
6)搾乳日数

表2 TDN73-74%、CP14-16%の混合飼料を3-7回給与したばあいの泌乳全期牛の乾物摂取量(DMI)
体重(kg) 550 600 650 700 750 800
4%乳脂補正乳(kg)-------------------------- kg ---------------------
20 21.3
(17.8〜24.9)2)
21.7[16.9]1)
(18.1〜25.2)
22.0
(18.4〜25.7)
22.4[18.1]
(18.5〜26.2)
22.7
(18.5〜26.9)
23.0[19.3]
(18.4〜27.6)
25 22.4
(19.1〜25.8)
22.8[18.7]
(19.6〜26.0)
23.1
(19.9〜26.3)
23.5[19.9]
(20.2〜26.8)
23.8
(20.3〜27.3)
24.1[21.1]
(20.3〜28.0)
30 23.5
(20.0〜27.1)
23.9[20.6]
(20.7〜27.1)
24.2
(21.2〜27.3)
24.6[21.8]
(21.6〜27.6)
24.9
(21.8〜28.0)
25.2[22.9]
(21.9〜28.6)
35   25.0[22.4]
(21.4〜28.6)
25.3
(22.0〜28.6)
25.7[23.6]
(22.5〜28.8)
26.0
(22.9〜29.1)
26.4[24.8]
(23.2〜29.5)
40     26.4
(22.6〜30.3)
26.8[25.5]
(23.2〜30.4)
27.1
(23.7〜30.5)
27.5[26.6]
(24.1〜30.8)
1)1988年NRC標準のDMI要求量(泌乳中後期)
2)95%区間推定;以下の算定による[y±2.201((1+1/14+0.000021097(xbw-696.86)2-0.00045514(xbw-696.86)(xfcm-31.0)+0.00581212(xfcm-31.0)2×1.74)0.5]

11.成果の活用面と留意点
1)表2の推定値は、養分要求量以上を充足する数値である。
2)泌乳前期の高泌乳時の飼料はTDN含量70〜75%の範囲内での給与設計が望ましい。
3)本成績のDMIの推定値(表2)は、TMR給与で、給与量に対する残飼量のDM比が10%前後を前提にしている。
4)体重と乳生産とで推定したDMIは、推定値±3kgの許容範囲でとらえた。
5)FCM20kg前後の牛、あるいは体重550kg前後の牛のDMIは、表2の推定値よりも低くなる可能性がある。

12.残された問題とその対応
北海道の高温時の飼養管理