完了試験研究成績 (作成 平成元年12月)
1.課題の分類  畜産 鶏 飼養
          北海道 畜産
2.研究課題名  寒冷期における産卵鶏のエネルギー要求量の解明ならびに寒地向け冬季用飼料の開発
           (寒地向け低コスト養鶏飼料の開発)
3.予算区分  共同 (民間)
4.研究期間  (昭和61〜63年)
5.担当  滝川畜試 研究部 家きん科
6.協力・分担関係  ホクレン農業協同組合連合会

7.目的
 特に冬季間を中心として、低温環境下における産卵鶏のエネルギー要求量を解明し、その要求量を満たす飼料のエネルギー水準について検討することにより、気温の年較差の大きい北海道の気象条件にあった産卵鶏用の冬季用飼料を開発する。

8.試験研究方法
 (1)低温環境における環境温度とエネルギー摂取量の関係(ME要求量の推定式の策定)
 (2)冬季用飼料のME、CP水準の決定
  【試験1】ME3100kcal/㎏飼料とME2800kcal/㎏飼料の比較
  【試験2】3水準(ME2950、3100、3250kcal/㎏)の高エネルギー飼料の検討
  【試験3】高エネルギー飼料のCP水準の検討

9.結果の概要・要約
(1)低温環境における環境温度とエネルギー摂取量の関係の解明
 1)環境温度に直接影響を受ける維持のME要求量(MEm)は、15℃以下になると温度の低下にしたがって
  直線的に上昇したが、20℃から15℃にかけてMEmの上昇は認められなかった。
 2)15℃以下の環境温度で通用される以下のようなME要求量の推定式が求められ、開放鶏舎での産卵試
  験における観測値と比較しても当てはまりの良いことが明らかとなった。
  ME要求量(kcal/日)=(148.00-1.508T)W0.75+5.5△W+2.07EM  
    
 T=環境温度(℃)   △W=体重変化(g/日) 
 W=体   重(㎏)   EM=産卵日量(g/日)

(2)冬季用高エネルギー飼料のME,CP水準の決定
【試験1】
●冬季寒冷時における高エネルギー飼料(ME3100kcal/㎏)の給与は産卵性の改善に効果が認められ、ME2800kcal/㎏飼料と比較すると日産卵量で1g以上高く飼料要求率では0.1を越える改善が認められた。
【試験2】
●飼料中のエネルギー含量を高める程度は、ME3100kcal/㎏飼料では余裕のあるME摂取量が得られるが、産卵の程度によってはME2950kcal/㎏で充足されると考えられた。またME3250kcal/㎏の飼料では飼料摂取量が低下することにより、CP16%の飼料ではCP摂取量が不足がちになるようであり、エネルギーよりも蛋白質が産卵に対する制限要因になりてくると考えられた。
【試験3】
●産卵試験を行った5種類の高エネルギー飼料とも良好な産卵成績を示した。5つの飼料区とも食い込みが良かったことから、いずれも要求量を満たすCP摂取量が得られた。したがって、飼料のCP含量を高めた効果は産卵成績には明確にあらわれず、産卵率はCP含量が高い飼料の方が良くなる傾向を示したが、日産卵量にすると一定の傾向は認められたかった。
 ただし、今回の成績のような飼料摂取量を期待できないような場合も想定されるので、110g以上の飼料摂取量が期待できない場合で高産卵の時には17%程度のCP含量が必要ではないかと考えられた。

10.成果の具体的数字

表1  ME要求量の推定式
  ME=(148.00-1.508T)W0.75+5.5△W+2.07EM  
   





ME ME要求量(kcal/日)





    T 環境温度(℃)
    W 体重(kg)
    △W 体重変化(g/日)
    EM 産卵日量(g/日)


 図1  維持のME要求量と環境温度との関係


表2  開放鶏舎における産卵成績と推定式による飼料の要求量
週齢 月日 鶏舎内温度 体重 産卵日量 飼料摂取量 推定式による飼料要求量
最低 最高 平均 滝川(差) NRC(差)
21-24 10.3-10.30 7.0 13.1 10.1 *1658 43.3 106.7 103.8(-2.9) 114.6(7.9)
25-28 10.31-11.27 4.2 8.6 6.4 1694 52.7 111.0 114.9(3.9) 126.6(15.6)
29-32 11.28-12.25 0.1 4.2 2.1 1731 56.2 116.4 122.2(5.8) 135.1(18.7)
33-36 12.26-1.22 -0.5 4.2 1.9 1767 52.6 114.2 120.9(6.7) 134.1(19.9)
37-40 1.23-2.19 -1.0 4.3 1.6 1804 56.8 120.5 125.5(5.0) 139.0(18.5)
41-44 2.20-3.19 1.3 7.3 4.4 *1840 56.1 117.4 123.8(6.4) 136.8(19.4)
45-48 3.20-4.16 5.3 10.4 7.8 1840 55.4 117.6 117.8(0.2) 130.0(12.4)
49-52 4.17-5.14 8.0 14.2 11.1 1840 53.6 111.9 113.7(1.8) 125.0(13.1)
53-56 5.15-6.11 10.2 17.1 13.7 1840 52.8 111.0 110.9(-0.1) 121.6(10.6)
57-60 6.12-7.9 14.5 21.5 18.0 1840 52.4 110.9 106.9(-4.0) 116.5(5.6)
61-64 7.10-8.6 17.3 22.9 20.1 *1840 49.8 108.2 103.2(-5.0) 112.3(4.1)
 *実測値


表3  開放鶏舎における寒冷期間の産卵成績(25〜46週齢)
ME-CP水準
(kcal/kg-%)
産卵率
(%)
平均
卵重
(g)
産卵
日量
(g)
飼料摂取量
(g/羽・日)
ME摂取量
(kcal/羽・日)
飼料
要求
備考
━━━━━〔試験Ⅰ〕━━━━━
シェーバー 2800-16 85.8 61.3 52.6 117.2 328.2 2.22 試験期間は10月31日〜4月2日
鶏舎内温度
 ・最低温度の平均=1.1℃
 ・最高温度の平均=6.0℃
3100-16 86.9 62.5 54.3 114.2 354.0 2.10
ゼットP 2800-16 91.0 60.4 55.0 116.1 325.1 2.11
3100-16 92.6 60.7 56.2 112.3 348.1 2.00
━━━━━〔試験Ⅱ〕━━━━━
シェーバー 2950-16 85.3 61.3 52.3 111.2 328.0 2.13 試験期間は10月29日〜3月31日
鶏舎内温度
 ・最低温度の平均=0.1℃
 ・最高温度の平均=4.7℃
3100-16 85.2 61.2 52.1 109.4 339.1 2.10
3250-16 85.1 61.0 51.9 106.2 345.2 2.05
ゼットP 2950-16 91.1 60.3 55.0 112.4 331.6 2.04
3100-16 93.0 61.2 56.9 112.1 347.5 1.97
3250-16 91.9 60.7 55.7 106.6 346.5 1.91
━━━━━〔試験Ⅲ〕━━━━━
ゼットP 2950-16 91.2 62.9 57.3 118.6 349.9 2.07 試験期間は10月28日〜3月29日
鶏舎内温度
 ・最低温度の平均=4.2℃
 ・最高温度の平均=9.5℃
2950-17 94.2 60.7 57.1 117.0 345.2 2.05
3100-16 92.4 62.0 57.3 115.7 358.7 2.02
3100-17 93.6 62.9 58.9 114.5 355.0 1.95
3100-18 94.0 61.9 58.2 113.1 350.6 1.94


11.成果の活用面と留意点
(1)ME要求量の推定式は15℃以下の低温環境においてあてはまる式であり、それ以上の温暖ないし夏季の
 暑熱環境では使用できない。
(2)この推定式による計算値はME要求量の平均値を推定するようになっており、個体差を主としたバラツキを
 カバーするような安全率は加味していないことから、実際の飼料給与計画をたてるにあたっては、この推定
 式による計算値よりもやや多めの給与量に設定する必要がある。
(3)高エネルギー飼料は、冬季間の鶏舎内温度が平均で10℃以下とならないような鶏舎ではME2950kcal/
 kg飼料を基本とし、それ以下の環境温度になる場合にはME3100kcal/kg飼料が適当である。

12.残された問題とその対応
(1)ME要求量の推定式に、安全率を含ませる必要性の有無。