完了試験研究成績 (作成 平成1年12月)
1.課題の分類  畜産 めん羊 繁殖
           北海道 畜産
2.研究課題名  めん羊における2年3回繁殖技術に関する試験
           (めん羊における繁殖季節の人為的制御技術の確立に関する試験)
3.予算区分  道費
4.担当  滝川畜試 研究部 衛生科
5.研究期間  昭和60〜平成1年
6.協力・分担関係

7.目的
 めん羊の繁殖季節は一般に秋から冬に限られている。そのため、妊娠期間が5ヵ月であるにもかかわらず、1年に1回しか繁殖しない。一方、国内のめん羊飼養はラム生産などを目的として漸増傾向にあるが、1年1産であるためラム肉の出荷時期がかたより、結果として販路が限られる状況にある。さらに近年、ニュージーランド、米国などからのラム肉の輸入が増加しつつあり、これに対抗するため低コスト生産技術が求められている。このような問題を解決する方法として季節外繁殖に関する研究が古くから取り組まれてきたが、管理の繁雑さあるいは受胎率が低いなどの理由から一般に普及する技術とはなっていない。
 そこで、実用的でかつ受胎率の高い季節外繁殖技術を確立し、さらに、これを応用した2年3回(8ヵ月サイクル)繁殖方式の確立をめざして試験を実施した。

8.試験方法
(1)非繁殖季節における発情誘起法の検討
 ・処理方法として黄体ホルモン法またはメラトニン投与法を用いて、発情誘起、受胎成績および種々の臨
 床繁殖学的項目について検討し、さらに、季節、供試羊の生理的状態(分娩、授乳)による影響について調
 べた。
(2)雄羊の生殖能力に関する検討
 ・雄羊の生殖能力が季節によってどの程度変動するか、また、非繁殖季節におけるメラトニン投与によっ
 て生殖能力の回復が可能かどうかを検討した。
(3)2年3回繁殖方式に関する実証試験
 ・1988年2月に分娩した雌羊11頭に対してメラトニン投与(メラトニン・フィーディング)を3月から実施した。
 さらに、これによって受胎、分娩した雌羊に対して発情誘起処理を加えずに、早期離乳した後自然交配
 し、2年3回繁殖を試みた。

9.結果の概要
(1)黄体ホルモン含有スポンジの膣内挿入法によって発情を誘起する場合、黄体ホルモン(P4)の含有量は
 従来の500mgよりも750mgを用いたほうが発情誘起率は高かった(66.7%vs83.3%)。
(2)黄体ホルモンスポンジ法を用いた場合の受胎率は非繁殖季節の中期(5月)で49.1%と最も低く、発情、子
 宮頚管粘液分泌および排卵のタイミングとの間に不調和が生じていた。
 このような不調和の改善は、基礎的知見の不足などから極めて難しいと考えられた。
(3)メラトニン・フィーディングによって発情を誘起する場合、1頭1回あたり3mg以上で確実な効果が得られた。
(4)分娩後の生理状態はメラトニン・フィーディングの効果に抑制的に、また、授乳は分娩後4週以降では
 影響しなかった。
(5)メラトニン・フィーディンクを用いて、lO〜11月に分娩させるためには3月下旬から1頭あたり日量4mgの
 メラトニンを70日間、12月に分娩させるためには5月中旬から45日間、1月に分娩させるためには6月下
 旬から45日間の投与が必要と考えられた。
(6)非繁殖季節の雄羊にメラトニン・フィーディングを行うと、投与開始後45日目には造精機能が繁殖季節
 のレベルに回復した。
(7)メラトニン・フィーディングによる季節外繁殖技術を応用して、2年3回繁殖を90%の成功率で実証した。


10.主要成果の具体的数字

表1  膣内スポンジのプロジェステロン含有量が発情誘起に及ぼす影響(5月)
 群   n  処理 発情誘起率
(%)
発情開始時間1)
h
発情持続時間
h
プロジェステロン PMSG
6 250mg 500iu 0 - -
6 500mg 500iu 66.7 19.1±4.92) 18.0±8.5
6 750mg 500iu 83.3 21.6±4.7 18.0±5.4
1)スポンジ除去後経過時間   2)表内の時間は平均値±標準偏差を示す


表2  分娩および授乳がメラトニン投与の効果に及ぼす影響
 群   n  供試羊 処理 発情誘起時期1)
5 非分娩+非授乳 メラトニン 60日 47±14
5 分娩+非授乳 メラトニン 60日 68±5.7
5 分娩+授乳 メラトニン 60日 66±9.5
3 分娩+授乳 無処理 77±3.3
1)投与開始から発情が誘起されるまでの日数


     
図1  発情、排卵および子宮頸管粘液分泌に与えるP4膣内スポンジ処理時期の影響    図10  メラトニン投与量が繁殖季節の開始に及ぼす影響
  □:周期的な卵巣活動があることを示す
図3  メラトニン投与が雄牛の精巣周囲長に及ぼす影響(2月)


表3  2年3回繁殖の実証
項目/産次 1産目 2産目 3産目
試験頭数 11 11 10
処理 メラトニン
交配年月 9月 '87 5〜7月 '88 11月 '88-1月 '89
受胎率(%)1) 100 100 90
分娩年月 2月 '88 10〜1月 '88 4〜6月 '89
子羊生産率(%) 155 164 143
授乳期間 7週 7〜9週 7〜9週
1)子羊生産率(%)=(出生子羊頭数/雌羊頭数)×100


11.成果の活用面と留意点
 (1)本技術の一般農家への指導は当面、試験研究の一環として行う。
 (2)2月における雌羊へのメラトニン投与は効果が不安定なので避けたほうがよい。

12.残された問題とその対応
 (1)メラトニンは松果体ホルモンの一種であり、薬事法上の規制を受けることから、一般農家で使用可能
  となるような対応が必要となる。
 (2)取り扱いが容易で、安価なメラトニン製剤の開発が求められる。