【指導参考事項】
成績概要書                       (作成:平成2年1月)
1.課題の分類  草地 飼料生産・利用 舎飼飼養
          畜産 肉用牛 栄養飼料 北農試
          北海道 家畜・草地合同
2.研究課題名  低消化性繊維質飼料に対する新アンモニア処理システム
          (低・未利用資源の活用による肉用牛生産システムの確立
          ①低消化性繊維質飼料の高度利用技術の開発
3.予算区分  経常・受託
4.研究期間  (平成元年〜3年)
5.担当  北農試・企画連絡室・総研3チーム
6.協力・分担関係  農林水産省十勝種畜牧場

7.目的
麦稈、イナわら等、低質粗飼料を対象にしたコントラクター方式による安全性を優先させ総合的技術集約型新アンモニア処理システムを開発する。

8.試験研究方法
①新アンモニア処理システムの基本と各部分技術を設計し、開発させる。
②アンモニア処理方式の比較(慣行方式:スタック密封→スパージャー注入、新方式:べールラップ・スタック密封→インジェクター注入)。
③インジェクターによるアンモニア注入方式の確立。
④アンモニア収支試験による新方式の評価。
⑤ロールベールラップ用ストレッチフィルムの開発と評価試験。
⑥麦稈、イナわらに対する新アンモニア処理システムの実用化試験。

9.結果の概要・要約
①新アンモニア処理の基本システムとしてロールベール収集→ベールラップ密封→注入装置による液化アンモニア注入装置を設計した。新注入装置は安全性を優先させ、国内法規に準拠して設計し、開発させたものである。
②慣行方式(スタック密封→スパージャー注入)に較べて、新方式(ベールラップ密封→インジェクター注入)は処理ムラが少なく、均一処理が出来た。
③インジェクターでベール中心部へアンモニアを一カ所注入し、アンモニアの拡散状況を温度変化を指標にして調べた結果、ベール中心部と上部の反応は注入後、直ちに始まり 両側部の反応は遅れて進み、下部は貯留した液化アンモニアの気化のため−20℃前後に 低下し、アンモニアが完全に気化するのに(常温に戻るのに)、冬場では5-14日、夏場でも遅い例では5日間かかり、下部の反応が最も遅れた。これらのデータに基づいてインジェクターのノズル形状を改良させ、ベールヘの注入位置については乾燥材科ではべール中心部よりも上部に、水分が多い材料では中心部よりも下部に注入することによって均一処理が可能になった。
④わら乾物あたりアンモニアを3%インジェクターで注入した場合のアンモニア収支はわら吸収分が90%、わら結合分が40%で、ガス体で残った分が1%、飛散分は10%程度であった。
⑤強度、延伸性、粘着性、耐候性、経済性に優れたストレッチフィルムを開発させた。このフィルムは長期間にわたって気密性を保持するので、アンモニア注入が遅れてもカビの発生を防止出来、コントラクターの作業集中が回避され、計画的な注入作業が出来る。なお、アンモニア注入表示フィルム、補修用フィルムも開発させた。
⑥わらの材料水分は30%以下であれば、均一処理が出来、30%以上の高水分でもベール密度を低くし、貯蔵期間を長くすることによって均一処理が可能である。
⑦ベール一個あたりの注入所要時間は1〜2分で、1時間あたり40個前後、わら乾物量で10t程度の処理能力がある。

10.成果の具体的数字

注入装置仕様
①アンモニアの種類:
  液化アンモニアによる注入
②注入能力:
  7kg/分
③常用圧力:
  6-10kg/c㎡・G
④上限耐圧:
  20kg/c㎡・G
⑤使用電源の種類:
  D.C.24V
⑥アンモニア容器:
  500kgまたは1ton
⑦アンモニア注入制御:
  可変オリフィス式
⑧インジェクター材質:
  SUS304

11.成果の活用面と留意点
①普及上の留意点:液化アンモニアは各種法規で取扱が厳しく規制されているので、新システムでは、農家は密封までの作業を行い、アンモニアの取扱、注入作業はコントラクターが行うことによって、安全性と均一処理を確保する。
②新アンモニア処理システムはわらのロールベーラ収集・ベールラップ密封を基本にしているが、どの様な収集形態のわらや、密封方式でも注入装置によってアンモニア処理が可能な、全国に広く使用出来る汎用システムである。
③成果の普及・公表:平成元年度北海道農業試験会議成績検討会議、総合農業、草地、畜産試験促進会議主要成果に提出予定。第82回日本畜産学会で発表。マスコミ等で公表。

12.残された問題とその対応
①北海道ではアンモニアの大量供給体制がないのでコストが高い。貯蔵・供給体制の整備が必要。
②コントラクターの組織化、教育・養成が必要。
③関連資材の開発、標準化・規格化による農家の資材選択の幅の拡大。
④上記の問題点に対応した事業化が検討されている。