7.目的
北海道と本州中部以北の高冷地に適する永続性・多収性採種性に優れる採草用四倍体品種を育成する。

8.試験研究方法
1)育種方法　笑気ガス処理による倍数体育種法と母系選抜法。
2)育成経過　昭和49年に「サッポロ」の3年目生存株から稔実率の高い個体を選抜し、相互交配後、笑気ガスで染色体を増加した。その後代から10母系300個体を選抜し、多交配後10母系の種子を等量混合して増殖第1代種子を生産し、この種子を使って昭和61年より系統適応性検定試験・耐寒性検定試験・耐雪性検定試験を行った。

9.成果の概要
1)「北海6号」の4年間合計乾物収量は、「サッポロ」を100として北海道平均で112、3年間合計乾物収量は東北平均で107の収量比であり、特に多雪地帯で多収を示す。3年目と4年目の乾物収量については北海道平均で123であり、「サッポロ」より永続性に優れている。
2)「北海6号」の開花始日は「サッポロ」より平均して2日おそく、北海道平均は6月29日であり、「サッポロ」と同じ早生に属する。
3)「北海6号」はウィルス病、菌核病、茎割病、うどんこ病には「サッポロ」より強く、輪紋病、さび病、そばかす病には「サッポロ」並みでやや強い。黒葉枯病には「サッポロ」より弱い。
4)形態的特性としては、四倍体であるため小業が「サッポロ」より大きく、茎も太い。
茎数は「サッポロ」よりやや少ない。葉色は「サッポロ」より濃く、葉斑はより鮮明である。草丈は1番草ではおおむね「サッポロ」より高く、2、3番草では「サッポロ」より低 い傾向を示す。
5)生理生態的特性としては、早春の萌芽が「サッポロ」より平均して2日早く、北海道平均は4月17日である。萌芽性、春の草勢、再生性は「サッポロ」より優れる。
越冬性はほぼ「サッポロ」並みである。1、2番草は「サッポロ」にぐらべてやや倒状しやすい。イネ科牧草との混播適性は「サッポロ」並みで、良好なマメ料率を維持する。
6)耐寒性は中で「サッポロ」の強よりやや劣るが、「レッドヘッド」「ハヤキタ」より強い。耐雪性は中で「サッポロ」より強い。
7)乾物率は「サッポロ」より1-2%低いが、粗タンパク質含有率は「サッポロ」よりやや多くADF(酸性デタージェント繊維)含有率は「サッポロ」並みである。
8)採種量は2年間平均で0.94㎏/aであり、「サッポロ」並みの採種性を有する。

10.総括的な成果の具体的数字
表1　試験期間中の総乾物収量(「サッポロ」比、「サッポロ」は実収量kg/a、
　　[　]内は1989年の乾物収量の1987年(播種翌年)の乾物収量に対する比(%))

場所		北海6号		サッポロ		レッドヘッド		ケンランド		1sd(0.05)
北海道農試	4年間	118	[102]	(338)	[79]	99	[72]	-		11	[12]
根釧農試	RC4年間	98	[87]	(100)	[46]	154	[53]	-		16	[15]
根釧農試	RC+TY	101	[92]	(318)	[79]	114	[95]	-		15	[7]
北見農試	4年間	105	[66]	(270)	[57]	120	[61]	-		10	[ns]
天北農試	4年間	119	[81]	(263)	[76]	94	[36]	-		8	[13]
新得畜試	4年間	119	[87]	(312)	[85]	99	[61]	-		13	[15]
北海道5場所平均		112	[73]	(257)	[69]	113	[57]	-
青森畜試	3年間	104	[98]	(184)	[106]	79	[76]	-		13	[23]
東北農試	3年間	115	[69]	(276)	[43]	96	[18]	-		ns	[12]
宮城畜試	3年間	102	[72]	(325)	[58]	98	[27]	-		ns	[21]
神奈川畜試	2年間	91		(308)		-		109		8
石川畜試	3年間	101	[102]	(251)	[109]	-		95	[74]	ns	[ns]
長野畜試	2年間	102		(201)		-		121		10
静岡畜試	3年間	100	[47]	(178)	[39]	-		114	[57]	ns	[18]

表2　「北海6号」のおもな特性

		北海6号	サッポロ	レッドヘッド
開花始日	北海道平均	6月29日	6月27日	6月27日
	東北平均	6月12日	6月9日	6月8日
ウィルス病罹病程度1)		1.0	3.3	2.9	(北海道農試・北見農試)
菌核病罹病程度1)		1.1	3.0	2.6	(天北農試)
茎割病罹病程度1)		1.2	2.2	1.3	(天北農試・北海道農試)
うどんこ病罹病程度1)		2.2	3.0	2.4	(6場所平均)
小葉の長さ(mm)		56.0	47.8	51.9	(北海道農試)
小葉の幅(mm)		33.9	28.2	31.2	(北海道農試)
茎の太さ(mm)		3.5	3.0	3.2	(北海道農試)
茎数(本/50cm)		175	224	175	(北見農試)
葉色2)		4.1	3.0	3.5	(北海道農試・天北農試)
1番草草丈(cm)		76.4	74.8	77.7	(12場所平均)
倒伏程度3)		2.4	2.1	1.8	(8場所平均)
RC+TY乾物収量(kg/a)		464.5	407.0	427.2	(北海道農試4年間合計)
乾物収量中マメ科率		82%	83%	89%	(北海道農試4年間合計)
越冬性4)		2.0	2.9	3.1	(6場所平均)
耐寒性		中	強	弱	(根釧農試)
耐雪性		中	弱	強	(新潟農試)
1番草乾物率		15.0%	16.5%	16.2%	(12場所平均)
採種量(kg/a)		0.94	0.96	0.60	(北海道農試2年間合計)

1)1:無または微、5:甚。
2)1:淡、5:濃。
3)1:少、5:多。
4)1:良、5:不良。

11.成果の活用面を留意点
北海道、および本州中部以北の高冷地に適する。普及見込み面積は5万haである。イネ科牧草と混播で採草利用する。凍害のおそれのある少雪地帯では、チモシーと混播し、越冬前までに十分な茎葉を展開できるよう年2回刈りとする。増殖第1代種子を現在3kg保有しており、増殖第2代種子を育種家種子として供給する。

12.研究成果の区分
①　普及に移しうる成果