【指導参考事項】
成績概要書(作成平成3年1月)
水稲乳苗移植栽培に関する試験
     北海道農試・企連室・総研1テーム 道立中央農試・稲作部・圃場管理科
     作開部・稲育種研究室        道立上川農試・水稲栽培科
     農計部・農業機械研究室      道農政部・農業改良課・専技室
(昭和60年〜平成2年)

試験目的:現行の育苗・移植機材を利用した省力・省資材の超短期育苗法、とその移植栽培法を確立する。

試験方法
1〉実施年度:北農試60〜H2年,中央農試63〜H2年,上川農試62〜H2年,現地試験H2年
2)供試品種:キタアケ・ハヤカゼ・はやまさり(品種適応試験:はやまさり,ハヤカゼ,キタアケ,空育125号,ゆきひかり,きらら397)
3)育苗法:播種量乾籾200〜600g/箱,育苗日数2〜14日,播種期4月28日〜5月20日
4)移植期:5月1日〜5月30日(上川農試作期試験含む)
5)本田初期生育:低温活着性(水温4,移植条件4〜5組合わせ,冷水かけ流し)の検定
6)田植機移植の適応性:62〜元年歩行型(2,4条).平成2年は乗用型(6条)使用(北農試乗用型4様種使用,115x30mの大型水田で移植…農機研と共同)
7)現地実証試験:4普及所(空知南東部,空知南西部,空知中央部,旭川)で実施

試験結果の概要
1)加温(32℃)出芽3日,緑・硬化4〜7日(ビニールハウス)の計7〜10日間育苗で苗長4〜6㎝,葉数0.7〜1.2葉の苗(乳苗)が得られた。播種量は苗の形質,ブロック当り本数および苗のマット強度等から乾籾350〜400g/箱が適当と判断した(表1,2)。
2)乳苗は胚乳残存率が35〜65%と高く,低温活着性が良いので,稚苗よりやや早植えが可能 である。
3)現行の田植機を使用し,一部,植付爪や苗送り装置等の部品を交換することで移植が可能であること,マット強度の関係から苗長4㎝以上で植付精度が増すこと,最小掻取り巾は11x7mmまで可能であることなどが明らかになった。また,乗用田植機(6条)でも良好な植付(掻取)が行われることを確認した(表3,図1)。
4)乳苗の生育は旺盛で,直播,稚苗にまさり茎数を得やすい(図2)。出穂期は稚苗に比較 して2〜4日遅れるが,直播よりは3〜9日早く,収量は稚苗なみで直播よりは明らかに多収となり,また年次間変動も小さい(表4)。
5)乳苗は稚苗・中苗・成苗より育苗期間が短かいぱかりでなく,10a当りの必要苗箱数もI3〜15箱と少なくてすみ.播種期を遅く,移植期を早くすることが可能となる(表5)。
6)現地実証試験によれば,育苗法.過剰籾,耐倒伏性などさらに検討する必要はあるが.4ケ所のうち3ケ所で稚苗・中苗を上廻る収量が得られ.いずれも普及性ありと判断された
以上,乳苗について,その育苗方法,田植機移植の適応性および本田での生育・収量等につ いて検討した結果,実用化の可能性が高いと結論づけられた。今後さらに,適品種の選定,本田肥培管理,移植作業性の向上などを検討する必要がある。

普及指導上の注意事項
1)出芽は出芽器を使用し,加温(32℃,3日)して行う。種重ね出芽の場合は15箱程度とし苗箱中心部が過湿にならぬよう床土の種類に応じて灌水量を調整する。
2〉緑.硬化期間の調整により苗のマット強皮が十分(1㎏以上〉になってから移植する。
3)田植機の掻き取り回教および植付爪を乳苗用に換え,調蟹しておく。
4)活着までの水管理は苗の保護のため苗が水没する程度までとする。
5)水稲機械移植栽培暫定基準(4)−乳歯−を適用する。

表1 育苗日数と苗成育
育苗
日数
北農試(60年) 上川農試(63年) 同左植付精度 中央農試(63年)
苗長 葉数 胚乳
残存率
マット
強度
苗長 葉身長 茎数
乾物重
胚乳
残存率
マット
強度
平均
本数
標準
偏差
苗長 第1
鞘高
1葉 2葉
% g mg/本 % g
4 2.4 0.2 72.5 400                 2.0 1.8
6 3.8 0.5 65.3 850 2.3 0 0 3.1 68.8 900 12.1 6.52 3.6 2.0
8 4.5 0.7 53.2 1,300 5.4 1.2 0 4 54.1 1,500     4.6 2.2
10 5.8 1.1 42.3 2,500 7.8 1.5 1.8 5.1 44.1 2,500 8.6 3.62 5.5 2.3
12 5.8 1.2 35.2 3,400 7.4 1.2 2.2 5.5 33.1 3,700 11.2 3.1    
14         8.0 1.2 1.8 5.7 29.5 3,200 9.2 4.41    
参考:稚苗(20日) 10.8 2.1 6.5 12.1 12.4 2,900 4.3 2.25    
注)播種量(乾籾g/箱):北農試400g,上川農試350g,中央農試300g
  育苗:積重ね加温(32℃)3日,緑・硬化(ハウス)1〜11日(4〜14日育苗)

表2 播種量/箱とブロック当り苗本数
播種量
g
良苗
%
損傷苗
%
ブロック本数
試算 実測
200 99 13.2 3.5 4.3
300 98 17.8 5.2 6.4
400 93 11.4 7.0 7.8
500 90 10.1 8.7 10.0
600 88 11.1 10.5 11.1
注)損傷苗:切断,籾落下など(北農試62)

表3 乗用田植機の機種別苗ブロック掻取り精度(路上走行・北農試H2年)
機種 ブロック当たり苗数の割合(%) 平均
本数
掻取精度(%)
0-1 2-3 4-5 6-7 8-9 10-11 12以上 正常 ばらけ 損傷
A 3 9 26 27 24 10 2 6.4 95 3 3
B 8 19 21 30 17 6 1 5.6 95 3 2
C 0 6 11 29 28 16 10 7.9 93 6 1
D 2 7 13 20 22 23 15 8.5 96 2 2
注)平均本数は,正常,ばらけ,損傷の全平均。

表4 出穂期及び収量(年次平均,手植え)
  北農試(61〜H2) 中央農試(63〜H2) 上川農試(63〜H2)
出穂期
月・日
収量
kg/10a
出穂期
月・日
収量
kg/10a
出穂期
月・日
収量
kg/10a
乳苗 8.11 600(567〜620) 8.6 509 8.3 575
稚苗 8 603(557〜630) 4 504 1 580
直播 15 421(224〜554) 9 493 8 430
注)品種:キタアケ,但し中央農試は,はやまさり
北農試直播については62,H元は苗立不良のため中止。従って3ヶ年(61,63,H2)のデータによる。

表5 乳苗と稚,中,成苗の比較
種類 播種期 育苗
日数
移植期 10a当り
苗箱数
乳苗 5月上旬 7〜10日 5月中旬 13〜15箱
稚苗 4月下〜5月上旬 21 5月中〜5.25 20
中苗 4月中〜下旬 30〜35 *5月中〜5月末 34〜40
成苗 35 *5月中〜6.05 40〜56
注)*育苗型式によって異なる。


図1 株当り苗本数の割合
   注 (北農試2年 歩行型4条)


図2 茎数の推移(中央63)