【指導参考事項】
成績概要書                      (作成1991年1月修正)
                              差替用 1月25日
1.課題の分類 総合農業 作物生産 夏作物 稲(栽培)−Ⅴ
         北海道   稲作     栽培
2.研究課題名 道南における水稲良食味品種の生育診断と裁培法改善試験
         −気象条件に対応した窒素追肥の要否判断について−
3.予算区分 道単
4.研究期間 昭和62年〜平成2年
5.担当 道南農試作物科
6.協力分担 渡島南部、同中部、同北部、桧山南部
同北部各地区農業改良普及所、道南農試土壌肥料科

7.目的
道南の稲作安定化にとって、初期生育の促進と旺盛化は重要である。側条施肥と追肥、および防風処理が初期生育の促進と旺盛化ならびに収量、品質に対する効果を検討し、あわせて測条施肥した場合の追肥の要否の判断基準について検討した。

8.試験研究方法
1987年(昭和62年)、'88、'89、'90年に、今金、八雲、厚沢部、知内、大野の5ヶ所で、「ゆきひかり」、「きらら397」、「渡育224号」、「空育125号」、「巴まさり」の5品種を使い、測条施肥(50%)区と全層施肥区、測条施肥した場合の追肥(分けつ期、幼形期、幼形期7日後、止葉期)区および測条施肥区の比較として防風処理区を設けた。

9.結果の概要、要約
1)生育初期(6月)、中期(出穂前30日間)の気温が低温〜ヤヤ低温であったのは1988年、'89年及び知内、八雲であった。また初期、中期が高温〜ヤヤ高温であったのは'87年、'90年及び厚沢部、大野、今金であった。これに後期(出穂後40日間)の気温を組合せ、さらに、幼形期等の生育進度を対応させて、気象経過のパターンを6類型に分けた。(図1、図2、表1)
2)防風処理の初期生育に対する効果は低温年('88、'89年)に比較的高く、高温年('90年)には認められなかった。出穂期、成熟期は促進し、穂数、総籾数が増え、登熟歩合が向上し、増収効果は'90年を除いて大きかった。(図3、図4)
3)測条施肥の初期茎数の増加に対する効果は、いずれの年次も認められたが、初期低温年('89)にはさほど高くなかった。穂数、総籾数はわずかに増加することもあるが、ほとんどの場合、全層施肥と大差がない。登熟歩合向上と収量性に対する効果は認められた。(図3、図4)
4)測条施肥した場合の幼穂形成期追肥の増収効果は、高温年に大きく、低温年で小さかった。この傾向は、他の時期の追肥についてもほぼ同様の傾向であった(図5)。'89年(低温年)では、幼穂形成期追肥よりも止葉期追肥の効果が「ゆきひかり」「きらら397」で大きかった。また、いずれの品種も幼穂形成期に近い時期の追肥では、穂数、総籾数が増え、稈長がやや伸びて、登熟歩合はとくに低温年で下がり、検査等級はやや下がった。
5)追肥により、総籾数は、全ての地域で増加したが、登熟歩合の低下の少なかった知内、厚沢部、大野で増収効果が高かった。追肥によって増収効果の見られた総籾数の範囲は、「ゆきひかり」と「渡育224号」では3.5万/㎡以下、「きらら397」では3.3万/㎡以下の場合であり、「ゆきひかり」と「きらら397」では総籾数の少ないほど収量比が高い傾向であった。(図6)
6)以上の結果、防風処理は6月が低温で.平均風速2m/s以上の気象条件の地域では基本技術となる。測条施肥栽培は生育初期、中期が低温、やや低温で生育遅延的気象条件の年次や地域では有効である。しかし、追肥は不要である。生育初期から全般に高温〜やや高温の年次や地域では測条施肥の効果があり、さらに、総籾数が3.3万/㎡以内と予想される場合は追肥(幼形7日後、止葉期)が必要である。ただし総籾数が3.5万/㎡を超えないこと。また生育初期か、後期がやや不安定な気象条件の年次や地域では、登熟歩合低下の点を考慮し、追肥は控えることが望ましい。

10.主要成果の具体的数字
表1 気象的類型別の測条施肥・追肥効果、防風処理効果
類型 気温の経過 生育期(月日) 50%測条施肥 追肥 防風処理 事例
初期 中期 後期 幼形期 出穂期 成熟期 年次・地域
極低温 やや
高温
高温 7.20 8.11 10.2 × '89
低温 低温 やや
低温
7.16 8.13 10.6 × '88      ヤクモ
やや
低温
やや
低温
高温 7.10 8.7 9.22 × シリウチ
やや
高温
高温 やや
低温
7.6 8.5 9.26 × イマガネ
やや
高温
高温 やや
高温
7.7 8.4 9.21 '87 アッサブ オオノ
高温 やや
高温
高温 7.3 7.30 9.12 '90
注) 生育期と気温経過は事例である。
   初:初期生育、籾:総籾数、登:登熟歩合、収:収量
   ◎、○、▲、×:効果あり、ヤヤ効果あり、ほとんど効果なし、やや劣る

11.成果の活用面と留意点
1)測条施肥栽培における追肥の要否の判断にあたっては、基肥量が施肥標準以下であることを前提とし、気象経過の他に総籾数の予測が最も重要であるが、予測法が十分でないため、幼穂形成期における水稲の生育量、土壌窒素診基準(上川中南部向け)、幼穂形成期後30日間の予想気温等を参考にする。
2)なお、「ゆきひかり」、「きらら397」は耐倒伏性、「渡育224号」は耐冷性にやや難点があるので、これらの危険性の予想されるときは追肥は避けること。

12.残された問題点とその対応
幼穂形成期における総籾数の予測法の確立。追肥効果の品種間差の検討。