5.来歴および育成経過
「H 114」は、オランダのファンデルハーフェ種子会社が育成した3倍体、単胚の一代雑種である。2倍体雄性不稔系統「MOMS105・859」に4倍体多胚系統「T947/6」を花粉親をして交配し、昭和61年(1986年)に育成された。
1)昭和62年:ホクレン農業協同組合連合会が輸入して、「HK97-01」の系統番号で輸入品種検定予備試験を行った。
2)昭和63年〜平成2年:「H 144」の系統名で、北海道立十勝、北見、上川、中央農業試験場等において輸入品種検定試験を行った。
3)平成元年〜平成2年:北海道立十勝、北見農業試験場において品質特性検定試験、十勝農試において栽培特性検定試験、褐斑病抵抗性特性検定試験、中央農試において耐湿性特性検定試験、根釧農試において抽苔耐性特性検定試験を行った。
4)平成元年〜平成2年:全道18カ所において現地検定試験を行った。

6.特性
1)形態的特性:「H 114」は、葉姿はやや開平で、葉長がやや短く、葉形は楕円形である。葉数は中で「モノホマレ」より少ない。葉身の大きさは中で、「モノホマレ」より大きい。根形は円錐形でクラウンは小さく、分岐根は少ない。
2)根重:「モノエース」、「スターヒル」より多く、「モノホマレ」並かやや少ない。
3)根中糖分:「モノホマレ」より高く、「モノエース」、「スターヒル」並かやや高い。
4)品質:有害性非糖分は、アミノ態窒素、カリウムが「モノホマレ」よりやや低く、ナトリウムが「モノホマレ」よりかなり低い。
不純物価は「モノホマレ」、「スターヒル」より低く、品質は良好である。
5)抽苔耐性:「モノホマレ」並の強である。
6)耐病性:褐斑病に対する抵抗性は、「スターヒル」、「モノエース」並の弱である。
他の病害については「モノホマレ」、「スターヒル」、「モノエース」との差はない。
7)耐湿性:「モノホマレ」、「スターヒル」、「モノエース」並のやや弱である。

7.試験成績
1)収量および品質(昭和63年〜平成2年　3カ年平均)

場 所	系統または 品種名	根重 (t/10a)	根中 糖分 (%)	修正 糖分 (%)	糖量 (kg/ 10a)	修正 糖量 (kg/ 10a)	不純 物価 (%)	対「モノホマレ」比(%)
								根重	根中 糖分	修正 糖分	糖量	修正 糖量	不純 物価
十 勝 農 試	H114	6.57	17.20	15.35	1,127	1,006	3.49	101	102	103	103	104	94
	モノエース	6.17	17.07	15.21	1,052	937	3.47	95	101	102	96	97	93
	スターヒル	6.50	17.09	15.23	1,108	987	3.57	100	101	102	101	102	96
	モノホマレ	6.50	16.85	14.90	1,093	967	3.72	100	100	100	100	100	100
北 見 農 試	H114	6.71	17.87	15.76	1,197	1,055	4.28	98	102	103	100	101	91
	モノエース	6.32	17.62	15.49	1,114	979	4.29	92	101	102	93	94	91
	スターヒル	6.66	17.77	15.58	1,182	1,035	4.49	97	101	102	99	99	85
	モノホマレ	6.84	17.51	15.24	1,196	1,041	4.72	100	100	100	100	100	100
中 央 農 試	H114	7.89	16.91	14.65	1,335	1,156	3.85	97	104	106	101	102	91
	モノエース	8.01	16.56	14.27	1,327	1,146	3.95	98	102	103	100	101	94
	スターヒル	7.92	16.65	14.40	1,321	1,142	3.96	97	102	104	100	101	94
	モノホマレ	8.16	16.26	13.88	1,327	1,132	4.21	100	100	100	100	100	100
上 川 農 試	H114	6.45	18.09	16.29	1,168	1,051	3.13	99	102	103	101	102	98
	モノエース	6.17	17.92	16.15	1,106	997	3.09	95	101	102	96	97	96
	スターヒル	6.29	17.85	16.09	1,123	1,012	3.19	97	101	102	98	98	99
	モノホマレ	6.51	17.67	15.84	1,151	1,031	3.21	100	100	100	100	100	100
北 農 試	H114	7.02	17.17	15.11	1,205	1,061	3.54	95	103	103	97	97	98
	モノエース	6.84	16.94	14.95	1,159	1,022	3.40	92	101	102	93	94	94
	スターヒル	7.04	17.11	15.11	1,205	1,064	3.54	95	102	103	97	98	98
	モノホマレ	7.42	16.72	14.66	1,242	1,089	3.63	100	100	100	100	100	100

2)品質特性検定試験(十勝、北見農試)2カ年2場所平均

品種			H114	モノエース	スターヒル	モノホマレ
品 質	有害性非糖分 (meq/100g)	アミノ態N	2.11(94)	2.07(92)	2.13(95)	2.24(100)
		K	4.21(95)	4.17(94)	4.40(100)	4.42(100)
		Na	0.40(67)	0.50(83)	0.36(60)	0.06(100)
	不純物価(%)		4.30(91)	4.20(89)	4.43(94)	4.72(100)

注)不純物価(%)=｛[(10×N%)+(2.5×K%)+(3.5×Na%)]/根中糖分｝×100

8.配布可能種子量　平成3年　1,000kg、平成4年以降　6,000kg

9.適応地帯および普及見込み面積
北海道十勝・網走地域および、これに準ずる地帯に適応し、「モノホマレ」の一部に置き換える。
普及見込み面積　平成3年　1,000ha、平成4年以降　6,000ha

10.栽培上の注意
1)排水性の劣る圃場では根重および根中糖分が低下する場合がある。
2)褐斑病に対する抵抗性は、弱なので適期防除に留意する。
3)多肥栽培は根中糖分の低下や有害性非糖分の増加を招くだけでなく、根重も減収することがあるので北海道施肥標準を守る。
4)その他の栽培法は「モノホマレ」に準ずる。