1.課題の分類 野菜・茶業 野菜 育種 − アスパラガス 遺伝・育種 北海道 園芸 野菜 − アスパラガス 品種・育種 2.研究課題名 アスパラガス組織培養体における正常な根の誘導技術 (アスパラガスにおける組織培養の育種的利用) 3.予算区分 経常・育種強化 4.研究実施年度・研究期間 昭和62年(昭和58年〜平成元年) 5.担当 北海道農試・作開・野菜研 6.協力・分担関係 |
7.目的
当場で選抜された能力の高い親株及びその次代優良株の利用を図るため、組織培養を利用した株の保存・増殖技術を確立することを目的として研究を行った。アスパラガスの茎頂培養の場合、活着の容易な正常な根(いわゆる白色根)を形成させることが困難であり、増殖率の向上を阻んでいる。そこで水浸状の透明根から正常な根を誘導する条件を検討した。
8.試験研究方法
MS基本培地に0.03mg/L NAA、0.01mg/L BA、を添加した固形培地で増殖した培養個体(系統'873-32')の約1㎜大の頂芽を培養に用いた。0.1mg/L NAA、0.03mg/L BA、0.05㎎/Lアンシミドールを添加したMS液体培地で3週間培養し、透明根を分化した個体を材料とした。これらの個体を、ろ紙1枚を敷き第1表の培地を添加したシャーレに置床した。処理後、植物体を植物ホルモン無添加のMS培地の移植した。また、低湿処理によって形成された白色根と透明根の組織の観察を行った。1カ月後に根の状態を調査した。その後鉢上げし、さらに3週間後に活着率を調査した。
9.結果の概要・要約
液体培地上で形成された透明根を、培地量を変えることにより低湿度条件下において白色根の誘導を試みた。この結果、蒸留水を培地として添加した場合は、培地量1mLの処理区で、4日間の低湿処理後置床個体数24のうちの約80%にあたる19個体の根が白色を呈した(第1図).一方、培地量を3mLとして過湿状態においた区では、逆に83%の個体の根が水浸状態のままであった。また蒸留水とショ糖溶液とで白色根への変化率に大きな差異が認められなかったことから、今回観察された透明根から白色根への変化は、培地成分ではなく適度な乾燥条件によって促進されると考えられた。
根の組織の横断面を観察した結果、低湿処理後の根では皮層の細胞が規則的に密な状態で配列し中心柱も発達しているのに対し、無処理の根では不規則で大きな細胞間隙が数多く認められた(第1図)1カ月後に根の調査を行い、その後鉢上げし、活着率を調査したところ、根の伸長、活着率ともに低湿処理をした区で優れていた(第2表、第3表)
10.成果の具体的数字
第1表 白色根の誘導に与える培地の影響
培地 | 置床 個体数 |
発根個体数 | |
白色根 | 透明根 | ||
蒸留水 (3mL) | 24 | 4(17)* | 20(83) |
蒸留水 (1mL) | 24 | 19(79) | 5(20) |
ショ糖溶液(3mL) | 24 | 2(8) | 22(92) |
ショ糖溶液(1mL) | 24 | 23(96) | 1(4) |
第2表 ホルモンフリー培地置床1カ月後の根の発達
一根長(mm) | 根数(本) | 全根長(mm) | |
低湿処理 | 56.7±29.8 | 2.2±1.0 | 125.8±68.2 |
無処理 | 14.4±5.8 | 2.2±1.0 | 32.1±15.8 |
図1 透明根及び透明根から誘導された白色根の横断面組織
第3表 低湿処理が活着率に与える影響
鉢上げ数 | 活着数 | 活着率 | |
低湿処理 | 50 | 36 | 72% |
無処理 | 48 | 5 | 10% |
11.成果の活用面と留意点
白色根への変化は、培養個体が大きくなり根長が伸びてからでは厳しい。
本試験の結果は、下記のようなアスパラガスの組織培養による増殖過程中、主として茎頂からのシュート形成を発根直後に用いることができる。
「選抜個体」→滅菌・切除→「茎頂」→シュート形成・発根→「小植物体」→鉢上げ→「植物体」
12.残された問題とその対応
発根率の低い系統の発根促進には、更に培地の検討が必要である。