【指導参考事項】
成績概要書                         (作成平成3年1月)
1.課題の分類  野菜 野菜 栽培 ダイコン他 栽培一般
          北海道
2.研究課題名  無加温ハウス利用による早春まきダイコンの抽だい防止法確立試験
          (環境制御によるハウス野菜の合理的栽培法確立試験)
3.予算区分  道単
4.研究期間  昭和62年〜平成元年
5.担当  道南農試園芸科
6.協力・分担関係  なし

7.目的
ダイコンの生理的特性を利用した合理的温度管理法を確立し無加温ハウスを利用した早春まきダイコンの生産安定に寄与する。

8.試験研究方法
Ⅰ ダイコンの花芽分化、抽だいに及ぼす環境条件の影響
1.試験区別
1)夜間低温処理期間の影響(は種後5℃夜間〈17時間〉処理期間0〜60日間、10日間隔)
2)低温感応性の品種間差異(品種 “耐病総太り” “庚” “T340”)
3)昼間高温処理期間の影響(は種後25℃以上昼間〈6時間〉処理期間0,10,20,40,60日間)
4)目長条件の影響(日長8,11,13時間、自然日長〈14-15時間〉)
2.処理及ぴ栽培法
処理は環境制御温室内で行ない処理中の気温は昼間が1)、3)の処理終了後、4)で20℃、2)で18℃、夜間は1)の処理終了後、4)で15℃、2)、3)で5℃、4)のみ処理前5℃240時間低温処理、品種は“耐病総太り”、は種期は1)で1988/11/26、2)、3)で1989/11/28、4)で1990/4/6
Ⅱ トンネルを利用した温度管理による抽だい防止法確立試験
1.試験区別
1)ハウス内でのトンネル被覆の効果(トンネル有・無)
2)トンネル昼間密閉処理期間の検討
   トンネル昼間密閉処理期間          品種及びは種期
1989年:は種後0,10,20,30,40日間ד庚”:1989/2/10、2/20 1990/2/13、2/22
1990年:は種後10,20,30,40日間“耐病総太り”:1989/2/28、3/10 1990/3/13、3/23

3)品種及びは種期について
“庚”:1989/2/10〜3/10 1990/1/25〜3/13 ほぼ10日間隔
“耐病総太り”:1989/2/28〜3/30 1990/3/3〜4/12 ほぼ10目間隔
2.栽培方法
1)の品種は“庚”、ハウス(5.4m間ロビニールハウス)、マルチ(0.02㎜ホーリーシート)、トンネル(0.05㎜ポリ)、は種後40日間夜間被覆、は種後昼間密閉処理;1)、3)は20日間、但し1990年の“耐病”は30日間、栽植密度833株/a、施肥量N,P2O5,K2O各0.5㎏/

9.結果の概要・要約
Ⅰ ダイコンの花芽分化、抽だいに及ぼす環境条件の影響
1)花芽分化は早春期を想定した条件(夜間5℃17時間)では、は種後30〜40日まで促進され、感温相の転換期となりその後の低温は花芽分化を抑制した(第1図)。
2)夜間5℃17時間の低温条件では抽だいは“耐病総太り”で種後70日目と最も早く、低温感応性の低い“T340”で69日、“庚”で30日遅くなった(第2図)
3)昼間高温処理により40日処理までは処理期間が長い程花芽分化は抑制された(第3図)。
4)長日条件により花芽分化は促進され、その程度は13時間を越えると急激に強くなり日長が春から夏に比べ短い早春期の栽培では日長条件で有利と考えられた(第4図)。
Ⅱ トンネルを利用した温度管理による抽だい防止法確立試験
1)ハウス内マルチ条件でトンネルによりマルチのみに比べ抽だい株率は着しく低く根重は増加した(第5図)。
2)トンネル昼間密閉処理により30〜40日処理で抽だい抑制効果は高かったが40日処理で生育抑制となる場合があり、収穫期での根重、抽だい状況を考慮して“庚”で20〜30日間、“耐病総太り”で30日間の処理が適当と考えられた(第1表)。
3)トンネルによる40日間の夜間保温と20日間(“庚”)及び30日間(“耐病総太り”)の昼間密閉処理により“庚”では1/25、“耐病総太り”では3/10がは種限界と考えられ、また根重1000gを目標としたは種後マルチ下10㎝積算地温は“庚”で1100℃、“耐病総太り”で1200℃が目安と考えられた(第2,3表)。
以上の結果から無加温ハウスを利用した早春まきダイコンの抽だい防止法として、1)被覆方法は0.05mmポリトンネル+マルチとし、2)トンネルによる夜間保温は、は種後40日間、3)トンネルによる昼間密閉処理は“庚”では種後20〜30日間、“耐病総太り”で30日間が適当と考えられた。目標根重を1000gとすると栽培の成立する環境条件は、1)温度条件として、“庚”では、は種後40日間の12.5℃以下の日平均遭遇時間が16.5時間以下、22.5℃以上の日平均遭遇時間が3.5時間以上で、は種後積算地温(マルチ下10cm)1100℃に達する日数が95日以下、“耐病総太り”では、は種後40日間の12.5℃以下の日平均遭遇時間が13.0時間以下、22.5℃以上の日平均遭遇時間が4.0時間以上で、は種後積算地温1200℃に達する日数が75日以下、2)日長条件として、は種時の日長は13時間以下と考えられた(第3表)。以上の条件から、道南でのは種前限は、“庚”で1.25“耐病総太り”で3.10と考えられた。

10.成果の具体的データ


第1図 ダイコンの抽だいに及ぼす夜間低温処理期間の影響


第2図 夜間低温条件における花芽分化の品種間差異
    (1989,11,28は種9:00〜16:00;16:00〜9:00;5℃)


第3図 抽だい株率に及ぼす昼間高温処理期間の影響
     (1989,11,28は種9:00〜15:00 25℃以上15:30〜8:30 5℃目標)


第4図 ダイコンの花芽分化に及ぼす日長処理の影響
      (は種後35日)


第5図 ハウス内マルチ被覆条件での抽だい株率に及ぼすトンネルの影響
    (1989.2.20は種“庚”は種後84日目)
    (は種後40日間夜間被覆。は種後20日間昼間密閉)

第1表 収穫調査結果(1989年“耐病総太り”トンネル昼間密閉処理)
は種期
(月.日)
調査日
(は種後
日数)
トンネル
密閉期間
(日間)
総平
均一
根重(g)
抽だい
株率
(%)
花茎長
(cm)
2.2 5.19
(80)
0 950 100 13.4
10 990 93 7.3
20 989 90 7.9
30 1047 57 6.5
40 744 77 9.4
3.1 5.25
(76)
0 959 90 9.2
10 960 70 6.2
20 1079 55 5.3
30 1073 55 3.3
40 1104 45 3.7

第2表 収穫調査結果(1990年“耐病総太り”は種期別)
は種期
(月.日)
調査日
(は種後
日数)
トンネル
密閉期間
(日間)
総平
均一
根重(g)
抽だい
株率
(%)
花茎長
(cm)
3.3 5.10(68) 30 772 4 0.2
5.18(76) 30 1049 66 1.5
5.25(83) 30 1906 100 6.3
3.13 5.22(70) 30 872 0 -
5.24(72) 30 1029 0 -
6.5(84) 30 2490 75 1.9
4.12 6.21(70) 30 1319 30 1.9

第3表 総括表

は種期
(年.月.日)
昼間
トン
ネル
密閉
日数
夜間ト
ンネル
被覆
根重(g)
(は種後
日数)
根重1000g
以上になる
日数
(含推定)
は種後
40日間
の日平均
遭遇時間
抽だい
株率
(%)
花茎

(cm)
抽だい
始めと
なるは
種後日数
(含推定)
花茎長
5cm以上
となる
日数
(含推定)
栽培
可能性
の評価
12.5℃
以下
22.5℃
以上
(は種後日数)
90.1.25 20 1006
(88)
88 16.7 3.4 88 1.8 85 100
(88)
90.2.13 0 1150
(83)
80 14.8 4.1 100 2.6 90 100
(94)




89.2.28 30 1047
(80)
79 14.4 3.9 57 6.5 60 78
(80)
89.3.10 30 1073
(76)
75 12.8 4.5 55 3.3 72 78
(76)
90.3.13 10 1029
(72)
72 11.3 5.3 75 1.9 80 90
(72)
90.4.12 30 1319
(70)
65 8.6 5.3 30 1.9 60 75
(70)
栽培可能性の評価:◎:抽だいせず収穫可能 △:収穫可能限界
            ○:抽だい始めで十分収穫可能 ×:収穫不可能

11.成果の活用面と留意点
1)無加温ハウスを利用した早春まきダイコン栽培に利用できる。
2)トンネル昼間密閉処理中の気温の上限は60℃とし、60℃を越える場合ハウスの換気を行ないトンネル内の湿度条件を保ち、トンネルの開閉を行なう場合は葉ヤケ軽減のため始めは裾上げ換気をし急激な湿度条件の変化が起きないようにする。(密閉処理中は、湿度を保つ。トンネル資材はポリとする。)
3)は種後40日を過ぎると花芽分化の感温相の転換期を経過している可能性が高く、高温条件により花芽分化が促進されるのでは種後40日目以降は生育適温以上にならないよう換気を行なう。

12.残された問題点とその対策
収種日数短縮(抽だい回避の目的で)のための施肥量と栽植密度