【指導参考事項】
完了試験研究成績                       (作成3年1月)
1.課題の分類  食品 いちご 食品 品質保持
          北海道
2.研究課題名  イチゴの鮮度保持技術に関する試験
          (寒地・寒冷地におけるイチゴの収穫期調節と高品質安定生産技術の確立)
3.予算区分  補助(地域重要新技術)
4.研究期間  (平成元年〜平成2年)
5.担当  中央農試園芸部流通加工科
6.協力・分担関係  道南農試園芸科・中央農試農業機械部

7.目的
道産イチゴを西南暖地の端境期に当たる6〜11月に移出するために保鮮流通技術を確立する。

8.試験研究方法
(1)収穫熟度と予冷温度の検討
300g塩ビパック内に‘宝交早生’250gを入れ、ポリエチレン0.03mm(PE0.03)で密封
元年度:熟度[完全着色、五分着色]x予冷温度[1,5,I0,20℃]×日数[0,2,4,6日]
2年度:熟度[完全着色、五分着色]x予冷温度[1.5,10℃]×日数[0,2.4,6日]
+同処理に加えて、包装フィルム開封後1日間20℃放置
(2)包装フィルムの試験
300gビパック内に‘宝交早生’250gを入れて、各種フィルムにて密封
元年度:予冷温度[5,20℃]×フィルム[PE0.03,PE0.05,OPP(2軸延伸ポリプロピ
レン),ポリスチレン,PE+リン酸カルシウム,PE+ゼオライト]
2年度:予冷温度[10℃]×フィルム[PE0.02,PE0.03,PE0.04.0PP,PE+ゼオ
ライト,PE+ヒノキチオールシート,無包装
(3〉夏秋イチゴ果実の特性
短日処理苗を元年7月5目に定植した。供試品種は‘夏秋77号’と‘宝交早生’

9.結果の概要・要約
(1)イチゴ果実を10℃以上の高い温度に保つと、日数が経過するにつれてアントシアン含量の増加、果肉の暗赤色化、果肉の軟化が認められ、鮮度が著しく低下した。完全着色果は1℃に保てば五分着色果よりも品質が良く、‘宝交早生’の鮮度保持に最適温度は1℃であった。フィルム無包装はフィルム包装に比べて鮮度低下が著しかった。フィルム包装により、鮮度を1℃で6日間、5℃で4日間保持できた。‘夏秋77号’は果肉の硬度が高く、日持ち性に優れていると考えられた。
(2〉五分着色果は収穂後日数が経過すると着色が進行した。しかし、食味は向上しなかった。
(3)ポリエチレン0.04mm(PE0.04)、2軸延伸ポリプロピレン(OPP)は低い酸素透過性のため、果実中のエタノール生成が著しく、またPE0.02は高い酸素透過性のため、果実の呼吸が盛んであった。そのため、イチゴの鮮度保持フィルムとしては厚さ0.03mmのポリエチレンフィルム、または厚さ0.03mmのポリエチレンに無機多孔質を練り込んだフィルムが適していた。
(4)夏秋どりイチゴ(夏秋77号)は気温が低くなる9月下旬より、果肉の硬度が高くなり、酸度が低下し、食味が向上した。

10.成果の具体的数字


第1図 アントシアン含量、ペクチン質に及ぼす
    予冷温度と熟度の関係(1989年)

第1表 完全着色果の結果(1990年)
温度 処理日数 酸度 アントシアン
(OD/g)
糖度 WP/TP O2
(%)
エタノール 総合
鮮度
収穫果実 0.60 8.6 8.6 0.43 - 5.7 3
1℃2日(包装) 0.61 8.9 8.2 0.45 11.1 <1.0 3
5    〃 0.55 9.9 8.9 0.46 8.6 <1.0 3
10    〃 0.57 10.5 7.9 0.45 3.5 <1.0 3
1 2日(包装) +1日(開封)
(20℃)
0.41 9.3 8.5 0.45 - 1.7 3
5   〃 0.55 11.0 8.2 0.45 - 1.3 2
10   〃 0.54 12.0 7.9 0.45 - 2.0 2
1 4日(包装) 0.54 8.6 8.9 0.44 7.5 <1.0 3
5   〃 0.51 9.8 8.7 0.45 5.0 1.3 2
10   〃 0.52 10.6 8.7 0.46 0.5 2.9 1
1 4日(包装) +1日(開封)
(20℃)
0.54 9.6 7.9 0.47 - 3.8 2
5   〃 0.52 10.5 8.7 0.49 - 4.1 2
10   〃 0.56 11.6 8.1 0.49 - 5.7 1
1 6日(包装) 0.54 7.8 8.7 0.47 5.2 3.0 2
5   〃 0.54 10.3 9.2 0.47 2.0 3.5 1
10   〃 0.59 11.1 8.7 0.49 0.4 28.6 0
1 6日(包装) +1日(開封)
(20℃)
0.54 9.0 8.3 0.49 - 4.1 0
5   〃 0.58 10.7 9.1 0.48 - 3.8 0
10   〃 0.58 11.9 8.6 0.48 - 4.6 0
注)酸度:g/100mL,WP/TP:水溶性ペクチン含量,エタノール:mg/100g

第2表 包装フィルムの結果(1990年)
資材 条件 酸度 アントシアン
(OD/g)
糖度 O2
(%)
エタノール 総合
鮮度
(収穫果実) 0.56 9.5 9.7 - 6.7 3
PE0.02 1日(20℃)
包装
0.51 10.8 9.5 1.5 1.4 3
〃0.03 0.53 11.1 8.2 0.9 11.2 3
〃0.04 0.46 10.5 8.6 0.4 48.9 3
OPP 0.52 10.1 8.6 0.5 53.5 3
サンゴールG 0.51 10.5 9.0 1.6 2.8 3
PE+ヒノキチオール 0.53 10.3 8.9 1.8 11.9 3
無包装 0.58 12.5 9.0 - 3.1 3
PE0.02 2日(10℃)
包装
0.58 10.5 7.9 17.2 4.7 3
〃0.03 0.49 10.8 7.5 4.2 3.9 3
〃0.04 0.57 12.0 8.4 3.8 5.0 3
OPP 0.52 10.4 8.8 0.4 16.7 3
サンゴールG 0.56 12.6 8.7 4.2 2.5 3
PE+ヒノキチオール 0.57 10.4 8.2 0.6 2.0 3
無包装 0.53 12.9 9.4 - 9.4 2
PE0.02 2日(10℃)
包装
+
1日(20℃)
開封
0.59 11.7 9.3 - 4.5 2
〃0.03 0.54 10.8 8.7 - 5.0 2
〃0.04 0.50 10.8 8.2 - 3.9 2
OPP 0.51 12.6 8.4 - 3.9 2
サンゴールG 0.59 10.7 8.6 - 3.9 2
PE+ヒノキチオール 0.52 11.1 8.3 - 2.4 2
無包装 0.48 13.7 9.6 - 5.6 1
PE0.02 4日(10℃)
包装
0.53 12.7 8.7 13.3 4.5 1
〃0.03 0.52 8.1 8.3 7.4 2.8 2
〃0.04 0.52 9.5 8.1 1.5 91.1 1
OPP 0.42 11.4 8.3 2.0 148.6 1
サンゴールG 0.55 9.3 8.0 7.2 4.5 2
PE+ヒノキチオール 0.59 9.1 8.4 0.9 3.4 2
無包装 0.61 12.5 9.0 - 5.6 0
PE0.02 4日(10℃)
包装
+
1日(20℃)
開封
0.52 13.3 8.7 - 5.0 1
〃0.03 0.52 11.7 8.4 - 5.0 1
〃0.04 0.51 11.4 8.3 - 37.2 1
OPP 0.50 10.5 9.1 - 116.4 0
サンゴールG 0.55 13.1 8.1 - 6.4 1
PE+ヒノキチオール 0.55 12.6 9.1 - 3.6 1
無包装 0.55 12.6 9.6 - 5.6 0
PE0.02 6日(10℃)
包装
0.49 11.4 7.9 14.0 4.5 0
〃0.03 0.52 10.8 8.4 0.8 18.4 1
〃0.04 0.48 9.3 8.2 3.0 154.4 0
OPP 0.50 11.1 7.8 2.8 298.1 0
サンゴールG 0.46 10.2 8.7 3.2 38.4 1
PE+ヒノキチオール 0.58 10.7 8.4 0.6 3.9 1
無包装 0.56 11.7 9.4 - 8.9 0
注)酸度:g/100mL,エタノール:mg/100g

第3表 夏秋どりイチゴの果実特性
開花月日 収穫
月日
成熟日数 作型 夏秋77号 宝交早性
酸度 糖度 WP/TP TP 酸度 糖度 WP/TP TP
8.2〜4 8.24 20〜22 ハウス 1.29 10.0 0.55 568 - - - -
8.9 8.30 21 1.26 8.8 0.50 561 0.81 9.2 0.46 505
8.16〜17 9.7 21〜22 1.28 8.6 0.46 531 1.15 11.0 0.48 461
8.19〜20 9.12 23〜24 1.36 9.8 0.44 598 1.28 10.4 0.45 447
8.24〜26 9.20 25〜27 1.12 11.2 0.45 606 - - - -
8.28〜30 9.26 27〜29 1.10 11.5 0.42 564 - - - -
8.19〜20 9.12 23〜24 露地 1.13 10.6 0.50 514 0.84 9.0 0.46 442
8.24〜26 9.20 25〜27 0.98 10.4 0.50 532 0.84 11.2 0.41 438
8.28〜30 9.26 27〜29 0.88 11.0 0.46 497 0.74 10.6 0.42 473
注)酸度:g/100mL,TP:mg/100mg

11.成果の活用面と留意点

12.残された問題とその対応
・パック詰め前の予冷の検討