【指導参考事項】
成績概要書          (作成平成3年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 土壌肥料
        北海道 稲作
2.研究課題名  水稲の海水混入灌漑水による塩害とその対策
3.予算区分  道費(突発生育障害診断)
4.研究期間  平成元年〜平成2年
5.担当  上川農試土壌肥料科
6.協力・分担  上川専技室、中留萌普及所

7.日的
水稲の出穂期における塩害の実態調査と次年度稲作への対応策について検討する。

8.調査及ぴ試験方法
(1)診断調査
(2)ポットによる塩害実証
(3)塩害実態調査と土壌試料分析
(4)除塩対策(次年度稲作のための)
(5)塩害田における水稲の生育・収量への影響

9.結果の概要
'89年8月、苫前町北長島地区において、出穂期の水稲に突然根腐れ、褐変症状が発生した。急ぎ土壌分析の結果、ナトリウムと塩素含量が異常な高い値を示したことから塩害であると断定した。また、現地に赴き聴取り等の結果、本地区のかんがい水は、古丹別川から揚水しているが河口から約4㎞の位置にあり、当時、高温、寡雨の天候が続き上流からの水は殆んどなく、揚水口の水位が極端に下がって、海水が逆流し、かんがい水に混入していたことに気づかず揚水していたことが判明した。(ポットの塩害実験からみて、海水50%以上の高濃度と推定された。)
そこで、本地区の塩害の実態調査と土壌試料の分析を行い、次年度稲作への対策について検討した結果を下記に示した。
1)水稲の被害調査は褐色森林土、灰色低地土一部グライ土で当揚水場の水系全筆について実施したが、収穫放棄した水田が15%に達し、登熟不良を含めると被害規模はかなり大きいと推定された。
2)EC値とナトリウム、塩素含量とは高い相関関係がみられることから、海水かんがいの程度を簡易にEC値で診断した。その結果、被害田の塩類濃度は障害程度に応じ高まり、EC値の0.5ms/㎝以上で障害程度が大きかったので被害田対策の一応の目安になると考えられた。(図2)
3)被害田の除塩は、ナトリウム、塩素とも洗浄により除去されるが、水の入れ換えのみでは不充分なため、障害の大きかった0.5ms/㎝以上の圃場を対象に、程度に応じて1〜3回代かき・落水を実施した。
4)代かき後、ECの測定値は、目標の0.5ms/cm以下となり翌春の融雪後では、0.2以下となった。また、代かき前に稲わら搬出を行い、根腐れ防止につとめた。
5)障害の大きかった圃場について、本年度の水稲生青と土壌中の塩類等を追跡調査した結果、土壌環元がやや強かったものの生育は、初期から順調に経過し、収量品質も回復した。しかし、稲外分析からみると、窒素やナトリウム含量が高い傾向を示した。(表5・表6)
6)以上の結果、粘質な水田における海水混入による塩害対策(次年度稲作に向け)は、

により、次年度稲作への障害は、ほぼ解消できると判断された。

10.成果の具体的数字

表1 生育障害水田の土壌分析結果
    (イオンクロマトグラフィーによる測定)
A.障害水田の水溶性陰イオン
試料 PO43- cl- SO42-
対照 65.4 34.1 1,035
障害 中 19.5 1,359 124
 〃  甚 9.7 2,514 283
'89.8.25 1:5水抽出(ppm)

B.障害水田の水溶性陽イオン
試料 Na+ NH4+1 K+1 Mg+2 Ca+2
対照 283 3.6 23.0 11.1 29.9
障害 中 670 5.3 41.7 53.8 124.5
 〃  甚 1,504 5.5 38.9 65.4 65.4

表2 海水の希釈とEC
海水の希釈割合 EC
(ms/cm)
(倍) (%)
0 100 43.3
2 50 23.3
5 20 10.04
10 10 5.30
20 5 1.218
50 2 1.008
100 1 0.666
200 0.5 0.384
500 0.2 0.208
1,000 0.1 0.146
古丹別川原水* 0.084
*'89.9.5採取


図1 出穂期における海水混入の影響


図2 障害程度とECの関係


図3 塩害水田土壌の洗浄による除塩効果

表3 代かき回数別EC値の推移(ms/cm)
代かき
回数
代かき前
(A)
代かき後
(B)
融雪後
(C)
C/A比率
1 0.55 0.30 0.13 23
2 0.68 0.34 0.17 25
3 0.95 0.37 0.17 18
ECは平均値で示した。  *4月6日

表4 被害水田の次年度('90年)土壌分析)
採土日 地形 CEC
me
PH
(H2O)
EC
ms/cm
交換性
Na2O
mg/100g
FeⅡ
mg/100g
6月
12日
台地 - 6.2 0.089 46.4 207
低地 - 5.3 0.260 55.6 329
9月
27日
台地 17.8 5.7 0.109 37.6 -
低地 16.8 4.7 0.277 47.2 -

表5 被害水田の次年度('90年)水稲の初期生育及び収量(kg/10a)
項目 乾物重g/㎡ わら重 玄米重 屑米重 検査等級 1筆平均
収量(農家)
備考(品質、苗質)
6/12 7/3
被害田 台地 7.5 83.7 402 580 22 1 540 反収 ゆきひかり 箱ポット  (成)
低地 17.8 86.5 567 583 22 1 540  〃 125    〃   (〃)
農試 15.8* 88.4** 414 531 25 1 - ゆきひかり 箱マット (中苗)
(参考収量)苫前町古丹別の良質米生産実証圃玄米収量505kg/10a(ゆきひかり)
(備考)N施肥量(kg/10a)台地:側9+2止、低地:全層9
    農試:全9 *6月17日 **7月5日

表6 被害水田の次年度('90年)水稲の分析結果
項目 部位 収穫期(%)
N P2O5 K2O Na2O SiO2


台地 茎葉 1.16 0.772 3.25 0.63 5.64
低地 1.32 0.978 2.79 0.77 7.02
農試 0.67 0.367 2.55 0.19 8.29


台地 1.33 0.786 0.57 0.07 3.66
低地 1.28 0.575 0.55 0.06 2.71
農試 1.08 0.773 0.72 0.03 4.46
*6月17日 **7月5日

11.成果の活用面と留意点
1)基本的には、EC等の測定により生育初期からかんがい水に海水の混入を防ぐことが原則である。本試験は、なんらかのトラブルで海水が混入したときの対策である。
2)稲、稲わら搬出及ぴ除塩のため代かきは、当年秋に実施し、翌年春先はできるだけ土壌の乾燥化を図る。
3)生育初期に土壌還元の強いことが予想されるので6月中〜下旬頃に落水・中干しを行い還元防止につとめる。

12.残された問題点とその対応