【指導参考事項】
成績概要書                      (作成平成3年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 土壌肥料 2-1-2-a
          北海道 土壌・環境
2.研究課題名  大豆根粒菌の接種法改善(大豆有効根粒菌の接種効率向上)
3.予算区分  共同研究
4.研究期間  (平成元年〜2年)
5.担当  道立十勝農試 土壌肥料科
      十勝農協連農産化学研究所
6.協力・分担関係  なし

7.目的
より少ない接種菌量で、より高い接種効果を得るために、増殖型接種材を利用した効率的接種法を確立する。

8.試験研究方法
①増殖型接種材の培養条件の検討:土壌に有機物を混合し、殺菌した培地を用いて、有効根粒菌A1017の増殖性を検討した。有機物としては、魚粕、油粕、ピートモス、腐葉土を供試した。さらに増殖型接種材を土壌と添加し、接種菌の生存性を調査した。
②増殖型接種材の競合的根粒形成能:魚粕培養接種材(土壌に魚粕を10%混合して殺菌し、根粒菌を増殖させたもの)とパーライト接種材(液体培養した菌を集菌・洗浄し、パーライトと混合したもの)の競合的根粒形成能を比較した。
③増殖型接種材の圃場での根粒形成率:十勝農試圃場で、各種接種方法による接種菌由来根粒形成率を比較検討した。
④農家圃場における増殖型接種材の土壌接種効果:農家圃場において、魚粕培養接種材を用いた根粒菌接種が大豆の子実収量に与える影響を検討した。

9.結果の概要・要約
①各種有機物と土壌を混合して殺菌した培地での根粒菌の増殖性は、魚粕10%混合培地で最も良好であり、培地1g当り109に達した(表1)。これを、非殺菌土壌に添加した場合の接種菌生存率は、無菌培養期間が短い5日目のものが10日、15日目に比べて勝っていた。ピートモス添加培地での根粒菌の増殖はpHを矯正した場合でも魚粕添加培地より劣っていた(表2)。
②魚粕培養接種材を非殺菌土壌に添加したときの接種菌の生存率は、パーライト接種材より高かった。ポット条件で50%の接種菌由来根粒形成率を得るためには、魚粕培養接種材では、土着根粒菌数の28%にあたる接種菌数で充分であったが、パーライト接種材では62〜80%の菌数が必要であった(表3)。
③十勝農試圃場における結果によると、パーライト接種材を用いた土壌接種では、接種菌数109(1株当り)レベルで、20〜30%の接種菌由来根粒形成率を得るにすぎなかったが、魚粕培養接種材では、108レベルでも40〜90%の根粒を接種菌に置き換えることができた(図1)。
④農家圃場においても、魚粕培養接種材を用いた108レベルの土壌接種で、33〜89%の接種菌由来根粒形成率を得た。また、土着根粒菌による根粒が有効根粒菌に置き替ることにより、一部の農家圃場で大豆の子実収量が顕著に向上し、その他の圃場でも無接種区とほぼ同等かやや高い収量が得られた(図4)。

10.主要成果の具体的数字
表1 有機物添加土壌を用いた無菌培養での
    根粒菌の増殖過程と培地のpH
有機物 混合量
(30g/当り)
根粒菌の増殖数
(107CFU/g)
培地
PH
有機物(g) 炭カル(mg) 5日 10日 15日
なし 0 0 18 23 16 6.0
魚粕 1 0 130 85 118 6.7
魚粕 3 0 230 210 310 6.9
油粕 1 0 54 69 110 6.3
油粕 3 0 88 119 173 6.3
ピートモス 15 0 0.9 0.5 0.5 5.0
ピートモス 30 0 T T T 4.4
ピートモス 15 200 43 - - 7.0
ピートモス 30 400 18 - - 7.0
腐葉土 1 0 36 26 40 6.0
腐葉土 3 0 28 41 21 5.7
T:低すぎて測定できず。

表2 非殺菌土壌に接種した根粒菌の生存率(%)
土壌培養 無菌培養期間 5日 10日 15日
 区        日数 7日 14日 7日 14日 7日 14日
魚粕(1g) 14 1.4 11 4 6 1.8
魚粕(3g) 39 6 9 2 8 1.4

表3 根粒菌の競合的根粒形成能の資材間差
接種材 培養試験での接種菌の生存率 ポット試験での
競合的根粒形成能
接種量
(107CFU/30g)
生存率数(%)
5日目 10日目 15日目 CAB1) NA2) NB3)
1.魚粕培養接種材 93 71 28 26 2.4 71% 0.28
2.長期培養パーラメント接種材 63 24 13 10 1.2 55% 0.80
3.短期培養パーラメント接種材 77 29 12 6.1 1.5 60% 0.62
1)競合力パラメーター、大きいほど競合的根粒形成能が強い。
2)接種菌と土着菌の密度比が1:1のときの、接種菌由来根粒形成率(%)
3)接種菌由来の根粒形成率が50%のときの、接種菌と土着菌の密度比。

表4 農家圃場での接種効果
試験地 処理区 接種菌由来
根粒形成
率(%)
開花期
根粒重
(g/株)
子実収量
(kg/10a)
大正 無接種 - 5.1 356
魚粕培養接種材 33 5.0 353
川西 無接種 - 3.3 336
魚粕培養接種材 34 3.8 405
芽室 無接種 - 0.9 384
魚粕培養接種材 89 0.7 392

11.普及上の留意事項
①魚粕培養接種材による大豆根粒菌の接種を、土着菌の能力が低いと思われる圃場で積極利用することが望ましい。
②培地として用いる魚粕には、品質のぱらつきがあることが予想されるので予め根粒菌の増殖性を調査すべきである。

12.今後の問題点
①増殖型接種材を利用した種子接種法の検討