【指導参考事項】
試験研究成績            (作成 平成3年1月)
1.課題の分類  総合農業 作業技術 農業施設8-(3)
          北海道 農業物理 畜産
2.研究課題名  搾乳設備の設置・点検基準策定
3.予算区分  受託
4.担当  根釧農試 酪農施設科、酪農第二科
5.研究実施年度・研究期間  平成元年〜2年
6.協力・分担関係  なし

7.目的
普及数の多い繋ぎ飼い牛舎パイプライン搾乳機について、高泌乳牛の増加に対応するとともに一層の乳質向上のため、設置方法と点検設備の基準を検討する。

8.試験研究方法
既往の試験研究成果に加えて、補足的に試験試験調査を行い、基準を検討する。
1)実施試験調査
(1)酪農家における設備と搾乳真空度の実態調査
ア.場所:中標津町、標津町、別海町
イ.調査数:平成元年11戸、平成2年8戸
ウ.調査項目:設備仕様および真空ポンプ排気量、漏れ、各部真空度
(2)ミルククロー容積に関する逆流実験(模擬搾乳)およびロングミルクチューブにおける真空度低下の測定
(3)ライナゴムの劣化度合調査:使用回数と破断強度および細菌の残留性調査
2)既往の試験研究成果(指導参考)
S54:パイプラインミルカーの特性(ユニット数とパイプ径)、S55:搾乳施設の合理化に関する試験(パイプラインミルカ)、S63:搾乳設備の圧力変動防止に関する試験、その他性能調査(H1など)

9.結果の概要・要約
1)既往の試験では牛乳配管内の急激な真空度低下が9cmHg以上あると、ミルククローから乳頭先端へ逆流が生じ、乳房炎感染の恐れが認められた。このことを主な判断基礎として基準を検討した。
2)酪農家における搾乳中の牛乳配管内の真空度低下は、作業の不手際を除くと、搾乳部4〜6台の時、牛乳配管の内径が38mmφ以上、勾配5/1,000以上でかつ真空ポンプ排気量が750L/min以上の設備では、6cmHg以上の真空度低下は少なかった。(図1)。
3)以上から、真空ポンプ排気量は、搾乳部台数をnとすれば、150×n×150(L/min)で得られる値が望ましいと判断された。また、迅速な排気量及び漏れチェックのためにY形管とフルボアのバルブから成るテストポートと真空ポンプ吸入口近くの配管に取りつけることが必要と観察された。
4)通常、真空配管に使われている水道用亜鉛メッキ鋼管(SGPW)に関する既往の試験および現地調査の結果では、真空配管の圧損は、真空ポンプからサニタリトラップに至る主真空配管については1cmHg未満、パルセータ用真空配管については0.5cmHg未満が望ましく、FANNINGの式により、空気流量と配管の径および長さの関係を導いた(表1、表2)。
5)現地調査の結果及び既往の試験結果から牛乳配管勾配を5/1,000以上とし、圧損を0.25cmIIg未満にすることが望ましく、これを基にFANNINGの式と搾乳部1台当たりの空気流入量と配管径及び配管長さの関係から、配管径と長さ毎の使用可能搾乳部台数を導いた(表3)。
6)ミルククローの容積が小さいとミルククロー内の真空度変動が大きく、乳頭への逆流を発生しやすい傾向が見られたが、スムーズな流れに対するミルククロー構造の工夫などもあり、限界値を設定するのは困難であった。
7)酪農家で使用済みのライナゴムについて、使用回数と破断強度および細菌の残留性を調べた結果、合成ゴムでは使用回数が2,000回を越えると、急速に劣化が進むことがわかった(図2)。このため、使用回数は2,000回を限度とすべきと判断された。シリコンゴムについてはサンプル数が少なかったことや弾力性などの面から、今後さらに調査をする必要がある。
8)以上の他、真空ポンプの点検のための具備要件、調圧器や真空計の位置などについて検討し、望ましい状況を盛り込み、設置・点検基準案を策定した。

10.成果の具体的数字

表1 主真空配管(真空ポンプ〜サニタリトラップ間)の空気流量と長さに対する
    呼び径(実験結果に基づき、真空度低下△Pを1cmHgとして算出)
配管長さ
m
空気流量(L/min)
800未満 800〜1000 1000〜1200 1200〜1400 1400〜1600 1600〜1800
〜4 32A 32A 40A 40A 40A 50A
4〜6 32A 32A 40A 40A 50A 50A
6〜8 32A 40A 40A 50A 50A 50A
8〜10 40A 40A 50A 50A 50A 65A
10〜12 40A 50A 50A 50A 65A 65A

表2 パルセータ用真空配管の
   長さと搾乳部に対する呼び径
   (△Pを0.5cmHgとした)
搾乳
部数
1スロープの配管長さm
20〜40 40〜60 60〜80
4 32A 32A 32A
5 32A 32A 32A
6 32A 32A 40A

表3 牛乳配管の内径・長さに対する
   使用可能搾乳部数(△Pを0.25とした)
管径
mm
1スロープ当たり配管長さm
30 40 50 60 70 80
38 2 2 1 1 1 1
42 3 2 2 2 2 2
46 3 3 3 3 2 2
50 4 4 3 3 3 3
54 5 5 4 4 4 3
注:スロープ数は単列配管の場合は1、
 ループ(環状)配管の場合は2である。


図1 設備要因と搾乳中の牛乳配管内の真空度低下の有無


図2 ライナの搾乳回数と細菌の付着のしやすさの関係

11.成果の活用面と留意点
繋ぎ飼い牛舎用パイプライン搾乳機の点検整備基準である。原則として設備の新規導入もしくは更新の際から適用する。
必要最小限の項目・値に留めたので、注意すること。

12.残された問題とその対応
1)シリコンゴムライナの劣化度合:追加調査中。
2)エアフローメータの精度確認。
3)異系列高真空搾乳方式や定圧式ミルククローなどにおける真空度低下の影響。
4)真空ポンプの使用に伴う能力低下の調査。
5)洗浄に要する真空ポンプ排気量。
6)パルセータの拍動特性や調圧器の特性の検討