【普及奨励事項】
完了試験研究成績                   (作成平成3年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 病害虫 病害 V-3-b
          北海道 病理昆虫 病害 畑作 病虫
2.研究課題名  アメダスを利用したジャガイモ疫病の高精度発生予察システムの確立
          (シミュレーションによるジャガイモ疫病の高精度発生予察システムの確立)
3.予算区分  道費
4.研究期間  継・中・完 昭和62〜平成元年
5.担当  中央農試病虫部 発生予察科
6.協力分担  道南・十勝・北見農試 病虫予察科

7.目的
ジャガイモの疫病についてアメダス気象データ等を利用した発生予測モデルを開発し、迅速で精度の高い発生予察システムの実用性を図る。

8.試験研究方法
(1)発病消長調査
  調査地点 長沼町(中央農試)、道南、十勝、北見農試予察定点圃
  品種:「男爵」他、調査項目:発生期、発生量等
(2)発病要因の解析
 気象データの収集アメダス(気温、風向、風速、降水量、日照について1時間毎)
 結露計、自記温湿度計(ジャガイモ畑、被覆内)
  道内7地点につき、生育期、疫病発生期、発病消長等の解析
(3)発生予測モデルの検討
  Hyer(1954)による予測システム、及びWallin(1962)による予側システムの適応性の検討と改善

9.結果の概要・要約
(1)ジャガイモの重要病害であるジャガイモ疫病は、毎年裁培面積の50%以上に発生し、生産上の大きな阻害要因となっているが、予防散布の徹底によって比較的軽い被害に抑えている。しかし、実際の発生状況に合わない無駄な散布も多いことから、発生期に合わせた的確で効率的な防除のために、関便で精度の高い発生予察システムが求められている。
(2)過去30年以上にわたって蓄積されている発生予察調査のデータを解析することにより 疫病の発生期の地理的、および年次的な変動の様相が明らかになった。また、初発後の発病進展状況も3つのバターンに類型化され、年と場所による差が大きいことが示された。
(3)疫病の発生初期における防除の有無が収量に及ぼす影響を調べ、約30%の減収といものサイズが小さくなることが認められた。
(4)ジャガイモの生育期と疫病の初発期との関係を解析した。植え付けから萌芽および開花期と初発までの日数との相関・開花期と初発日との相関に有意性は認められず、それらの関係を利用して初発日を推測することは難しいと考えた。
(5)疫病の発生量に関与する気象要因について解析し、降水量は正、日照時間は負の要因としてのおおよその傾向が見られた。また、芽室、長沼、訓子府などの内陸部では7月後半の高温が発生の抑制要因となっていることが示された。
(6)アメリカで実用化されている疫病の発生予察システムであるBLITECASTについて道内での適用を試みたが、予測に成功する割合があまり高くないことや、圃場の温湿度データを要することから、このままの形での実用化の可能性は低いと考えられた。
(7)ジャガイモの萌芽期以降の発病好適条件を数量化する基準を作り、アメダスによる毎日の降水量と気温データのみを用いて毎日の発病好適指数を算出して、その累積値が21を超えた日を発病の危険期到達日と考え、その日から一定期間内に疫病の初発が予想されると考えるシステムを新たに開発した。初発日の予測については確率に基づく信頼区間を示した。
(8)新たに開発した予察システム(FLABS)の特徴として、植え付け日または萌芽日とアメダスによる気象データのみを必要とし、全てコンピュータで処理する簡便さと省力化道内各地に適用出来る広域性と、実際の初発を見逃さない安全性への考慮があげられる。
(9)1990年に予察定点および2ヶ所の現地農家圃場を対象に予測を行い、ほぼ満足できる適合性が得られたと考えた。
(10)慣行の防除体系に対して、新システムの予測に従って防除を開始した場合の薬剤散布回数の節減効果を検討し、初発期の年次変動が大きい地域では1〜2回の節減が可能であると考え、経済効果も大きいと試算した。

10.主要成果の具体的数字




図1 予察定点における疫病発生期の頻度分布(1955-1989年)


図2 疫病の発生が収量に及ぼす影響
   (上:男爵薯、下:メークイン)


図3 疫病発生予察システムの処理の流れ

表1 予察システムによる予測と実測の比較
地点 危険期
到達日
予測した
初発日
圃場での
初発日
大野 1979 06/23 07/09 07/10 0.6
1980 06/22 07/08 07/09 0.3
1981 06/30 07/14 07/07 -7.8
1982 06/29 07/14 07/16 2.0
1983 06/21 07/07 07/04 -3.9
1984 06/24 07/10 07/12 1.8
1985 07/04 07/17 07/19 1.2
1986 07/03 07/17 07/18 0.9
1987 07/02 07/16 07/11 -5.3
1988 06/16 07/04 07/08 3.9
1989 06/26 07/11 07/12 0.3
長沼 1979 06/27 07/12 07/14 1.5
1980 06/19 07/06 07/09 2.6
1981 06/30 07/14 07/18 3.2
1982 07/20 07/29 07/29 -1.0
1983 06/24 07/10 07/23 12.8
1984 06/30 07/14 07/26 11.2
1985 07/11 07/23 07/29 5.9
1986 07/16 07/26 07/23 -4.0
1987 07/07 07/20 07/27 6.9
1988 06/14 07/02 06/25 -7.6
1989 07/01 07/15 07/02 -13.5
訓子府 1979 07/07 07/20 07/25 4.9
1980 07/11 07/23 07/15 -8.1
1981 07/07 07/20 07/14 -6.1
1982 07/21 07/30 07/31 0.2
1983 07/20 07/29 07/29 -1.0
1984 07/14 07/25 07/20 -5.4
1985 07/17 07/27 08/04 7.3
1986 07/16 07/26 07/22 -5.0
1987 07/14 07/25 07/23 -2.4
1988 07/12 07/23 08/01 8.1
1989 07/15 07/26 08/03 7.8
茅室 1979 06/30 07/14 07/15 0.2
1980 07/02 07/16 07/20 3.7
1981 06/29 07/14 07/11 -3.0
1982 07/16 07/26 07/25 -2.0
1983 07/08 07/20 07/18 -2.9
1984 07/07 07/20 07/20 -0.1
1985 07/12 07/23 07/21 -2.9
1986 07/08 07/20 07/25 4.1
1987 07/04 07/17 07/13 -4.8
1988 06/21 07/07 07/03 -4.9
1989 07/04 07/17 07/18 0.2

表2 予測した初発日の70%信頼区間
     (基準月日は危険期到達日)
基準月日 予測初発日 70%信頼区間
06/15 07/03 06/22 07/13
06/16 07/04 06/23 07/14
06/17 07/04 06/25 07/14
06/18 07/05 06/26 07/14
06/19 07/06 06/27 07/15
06/20 07/07 06/28 07/15
06/21 07/07 06/29 07/15
06/22 07/08 07/01 07/16
06/23 07/09 07/02 07/16
06/24 07/10 07/03 07/17
06/25 07/10 07/04 07/17
06/26 07/11 07/05 07/17
06/27 07/12 07/06 07/18
06/28 07/13 07/07 07/18
06/29 07/14 07/08 07/19
06/30 07/14 07/09 07/19
07/01 07/15 07/10 07/20
07/02 07/16 07/11 07/21
07/03 07/17 07/12 07/21
07/04 07/17 07/13 07/22
07/05 07/18 07/13 07/23
07/06 07/19 07/14 07/24
07/07 07/20 07/15 07/25
07/08 07/20 07/15 07/25
07/09 07/21 07/16 07/26
07/10 07/22 07/16 07/27
07/11 07/23 07/17 07/28
07/12 07/23 07/17 07/30
07/13 07/24 07/18 07/31
07/14 07/25 07/18 08/01
07/15 07/26 07/19 08/02
07/16 07/26 07/19 08/03
07/17 07/27 07/19 08/04
07/18 07/28 07/20 08/05
07/19 07/29 07/20 08/06
07/20 07/29 07/20 08/08

表3 予察対照地点における疫病初発の予測結果
地点名 危険期到達日 予測初発日 70%信頼区間 初発日
大野町 6/16 7/4 6/23  7/14 6/25
長沼町 6/21 7/7 6/29  7/15 7/3
訓子府町 7/6 7/19 7/14  7/24 7/23
芽室町 6/20 7/7 6/28  7/15 7/13
中標津町 6/22 7/8 7/1  7/16 7/7
ニセコ町 6/22 7/8 7/1  7/16 7月下旬
美瑛町 6/22 7/8 7/1  7/16 発生なし

表4 発生予察による薬剤散布回数の節減効果
     危険期到達日:◎、初発日:■、減散布:×
地点 月.旬 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 平均
節減数
大野 6.中                    
 下 ◎× ◎× ◎× ◎× ◎× ◎× × × ×   ◎× 0.8
7.上        
 中            
 下                        
散布節減回数 1 1 1 1 1 1 1 1 1 0 1 0
長沼 6.中                     1.0
 下 ◎×   ◎× × ◎× ◎× × × × ×
7.上     ×     × ×   ◎■
 中              
 下            
散布節減回数 1 0 1 2 1 1 2 2 1 0 1 0
訓子府 6.下                         1.3
7.上 ◎× × × × × × × × × × ◎×
 中   ◎■ × ◎■ ◎× ◎× ◎×  
 下     ◎■        
8.上                  
散布節減回数 1 1 0 2 1 1 2 1 1 2 2 1
芽室 6.下                 0.3
7.上     × × ◎×  
 中    
 下                  
8.上                        
散布節減回数 0 0 0 1 0 0 1 1 0 0 0 0
合計散布節減数 3 2 2 6 3 3 6 5 3 2 4 1 3.3

11.成果の活用面と留意点
(1)ジャガイモ疫病発生予察システムを利用することによって、これまでより高い精度で疫病の初発期を予測することが出来る。
(2)システムの予測値を防除開始時期の判断に利用することで、疫病初発期の年次変動に対応した的確で、効率的な防除が可能となる。
(3)予測値を利用するに当たって、その畑の局地的な気象の特異性の有無に注意する。

12.残された問題とその対応
(1)システムによる予測値の迅速な伝達方法と利用体制の整備
(2)初発後の発生量予測法の開発と実用化
(3)疫病の発病・蔓延モデルの作成