【指導参考事項】
成績概要書               (作成平成3年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 病害虫 Ⅲ-2-b
          北海道 病理昆虫
2.研究課題名  十勝地方におけるシロモンヤガの発生予測
3.予算区分  経常
4.研究期同  (昭61年〜平2年)
5.担当  北海道農試、畑作管理、畑虫害研
6.協力・分担関係  なし

7.目的
十勝地方におけるシロモンヤガの発生変動要因を、害虫の生活様式や気象条件の変化、作付体系の変遷等から解析し、これを基礎としてシロモンヤガの被害として重要な越冬世代の発生と被害を予測する。

8.試験研究方法
1)シロモンヤガの発生量と被害を予測するため、誘殺数、被害発生面積と気象要因との開係を検討した。解析には1973年から1983年のデータを用い、誘殺数と前世代誘殺数および前年9月から当年6月までの気象要因との関連を重回帰分析により解析した。また被害発生面積と前年9月から当年5月までの気象要因との関連も同様に解析した。
2)上記の解析によって得られた重回帰式の予測精度を、解析年に続く84、85年の気象データを用いて検証した。
3)越冬率におよぼす寒冷の影響を知るため、越冬幼虫の耐寒性を調査した。
4)越冬前、後の死亡要因を知るため、野外より採取した幼虫を人工飼料こより飼育し、死亡原因を調査した。

9.結果概要・要約
1)誘殺数を予測するのに選択された説明変数は前年10月(X7)と12月(X9)の降水量および当年6月(X19)の降水量であった。選ばれた変数のうちではX7、X9の標準偏回帰係数が-0.809、0.807と大きく、目的変数をよく説明した(表1)回帰式はY=0.749-0.715X7+1.442X9+0.554X19。これらの変数の生態的説明として、10月は幼虫の発育期間に当たるので、この月の降水量が多いと病気の感染率が高くなり死亡虫が多くなることがあげられる。12月の降水は雪となるので、雪の断熱効果により越冬幼虫は低温から速断され、死亡率が低くなることが考えられた。
被害発生面積を予測するのに選択された説明変数は前年10、12月の降水量、積算寒度(積雪20cm以上になるまでの0℃以下の気温の積算)、当年4月の平均温度、5月の降水量であった回帰式は
Y=0.373-0.348X7+2.325X9+1.593X13+0.310X14-2.385X17
となる。選ばれた変数のうち前年の降水量、積算寒度は越冬虫の冬期生存率に関連するもので、春先の幼虫発生量を決める要因となっている。4月は幼虫の摂食活動再開時期にあたることから、4月の気温が高いと越冬場所から圃場への侵入が盛んになるので被害を増加させる要因になり、5月の降水量が多いと幼虫の病気発生が多くなって個体数が減少し、被害が減少する要因になると考えられた。
2)誘殺数の予測は当年6月の降水量を除いても変動傾向は把握できる(図1)。被害発生面積の予測は当年の気象要因値が得られれば予測精度は高いが(図2)、それを除いた場合には誤差が大きい。したがって予測には当年の気象予測値を必要とする。
3)シロモンヤガ幼虫は耐凍性を持ち比較的低温に強い虫であるが、凍結温度が-20℃に達すると生存率が低下することから、厳冬期に積雪があることが越冬率を高くすると考えられた。
4)冬期間の死亡要因として越冬前は糸状菌病が、越冬後にはウイルス病と疫病の発生が多かった。

10.主要成果の具体的数字
表1 シロモンヤガ誘殺数、被害発生面積と気象要因の重回帰分析による変数選択結果
説明変数 誘殺数 被害発生面積
標準偏回帰係数 回帰係数 標準偏回帰係数 回帰係数
0 CON   0.794(2.475)   0.373(0.601)
1 前世代誘殺数 *      
2 前年9月平均気温        
3   10月平均気温        
4   11月平均気温        
5   12月平均気温        
6    9月降水量 *      
7   10月降水量 * -0.809 -0.715(-0.804) -0.286 -0.348(0.026)
8   11月降水量        
9   12月降水量 * 0.807 1.442(1.175) 0.940 2.325(0.530)
10 積雪前最低気温        
11 最低気温        
12 融雪後最低気温        
13 積算寒度 *   1.763 1.593(0.806)
14 当年4月平均気温     0.818 0.310
15    5月平均気温        
16    4月降水量 *      
17    5月降水量 *   -1.050 -2.385
18    6月平均気温        
19    6月降水量 * 0.372 0.554    
*対数変換した値を用いた。
( )内は、予測のために当年の気象要因を除いたときの値。


図1 シロモンヤガ誘殺数の実測値と予測値


図2 シロモンヤガ被害発生面積の実測値と予測値

11.成果の活用面と留意点
シロモンヤガの発生変動要因解析により得られた越冬世代の誘殺数、あるいは被害面積の回帰式から、本種の発生量と被害面積を予測することができる。予測精度の向上には、逐次データを取り込み、回帰係数を更新することが有効である。

12.残された問題とその対応
地域ごとに予測の適合度を検証し、回帰式を改良する。