【指導参考事項】
成績概要書                    (作成平成2年12月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 病害虫 病害 Ⅳ-4
          北海道 病害虫 病害
2.研究課題名  北海道におけるジャガイモ疫病菌の交配型A1,A2の分布
          と2・3の生理的特性
           (ジャガイモ疫病の生理・生態学的解明)
3.予算区分 経常
4.研究実施年度・研究期間  (昭60−平1−平2)
5.担当  北海道農試・生産環境・病害
6.協力・分担関係  北大農・植物寄生病学講座

7.目的
ジャガイモ疫病菌の交配型、培養性質、病原性に関する変異を明かにし、本病防除対策の基礎資料とする。

8.試験方法
1)疫病菌の交配型の分布調査
2)疫病菌のジャガイモ塊茎スライスおよび各種培地上での生育比較
3)交配型と病原性の関係の検討

9.結果の概要・要約
1)疫病菌には2つの交配型(A1、A2)が存在し、両交配型を培地上で対峙培養すると卵胞子を形成することが分かった。交配型の分布を調査したところ、北海道におけるA2型菌の割合は1987、88、89、90年にそれぞれ61、69、81、86%であった。87年、88年には両交配型が北海道に広く分布していたが、1989年、90年には十勝、上川地方以東ではA2型のみが認められるようになった(図1)。これらの結果からA2型は分布域を広げつつあると考えられた。
2)同一圃場からA1型、A2型の両交配型が分離される例が道南および道南および道央で多数認められたので、耐久器官として卵胞子が形成されている可能性が考えられた。
3)疫病菌を塊茎スライスに接種すると、気中菌糸が短く遊走子のう形成が良好なものSPorangial type(Sタイプ)と、気中菌糸が長く遊走子のう形成が不良なMycelial type(Mタイプ)の2つコロニータイプが認められた。A1型がSタイプにA2型がMタイプにほぼ一致した。ライムギ培地ては両交配型とも良好な生育を示した。V-8ジュース培地てはA1型は生育が良好であったが、A2型は不良であった。逆に、オートミール培地ではA2型は生育が良好であったがA1は不良であった(表1)。これらのことから両交配型は生理的性質がかなり異なるものと考えられた。
4)抵抗性遺伝子保有品種(トヨシロなど)から分離した菌はほとんど全てA2型であった。(表2)。大部分のA1型は疫病低抗性品種リシリ(R1遺伝子を保有)を侵せないが、A2型は全てリシリを侵すことができた。

10.主要成果の具体的数字


図1 ジャガイモ疫病菌の交配型の分布(1987年−1989年)

表1 ジャガイモ疫病菌の交配型と生理的特徴
項目 交配型
A1 A2
塊茎(男爵薯)
上における
菌叢
Sporangial type
気中菌糸が短く
遊走子のう形成良好
Mycelialtype
気中菌糸が長く
遊走子のう形成不良
培地上に
おける
菌糸伸長
ライムギ 非常に良好 非常に良好
V-8ジュース 良好 不良
オートミール 不良 非常に不良
コーンミール 不良 やや良好
PDA 不良 やや良好
ライマビーン 不良 やや良好
塊茎に対する
病原菌
品種 男爵薯 あり あり
リシリ なし(少数の菌株あり) あり

表2 疫病菌を分離した品種と
   分離菌の交配型との関係(1987年)
品種 抵抗性
遺伝子
交配型
A1 A2
男爵薯 r 13 6
メークイン r 10 4
農林1号 r 2 9
紅丸 r 1 3
トヨシロ R1 0 4
ワセシロ R1 0 1
エニワ R1 0 1
ユキジロ R1 0 1
トヨアカリ R1 0 1
リシリ R1 0 1
151552-C(16) R2 0 1
根育4号 R3 0 2
Pentland Ace R3 0 1
島系469 R4 0 2
コナフブキ R1,3 0 1
63037-14 R1,3 0 1
Multa R1,4 0 1
1506-b(9) R1,4 0 2

11.成果の活用面と留意点
1)新たに発見されたA2型は疫病抵抗性遺伝子を持っている品種に対しても病原性があるので、これらの品種を栽培している場合でも疫病の発生に十分注意する。
2)北海道ではA2型が優占しているので、抵抗性品種育成にあたってはA2型に対する抵抗性を考慮する。
3)ライ麦培地は疫病菌の培養に適している。

12.残された問題点とその対応
1)圃場における卵胞子の発見とその役割の解明。
2)交配型A1、A2の分布支配要因の解析。
3)交配型とレースとの関係。