【指導参考事項】
成績概要書                      (作成平成3年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 病害虫 Ⅰ-1
          北海道 病理昆虫
2.研究課題名  ジャガイモYモザイク病の診断法
3.予算区分  交流共同
4.研究期間  (昭和63年〜平2年)
5.担当  北海道農試・生産環境・ウイルス病研
6.協力・分担関係  日本たばこ産業、種苗管理センター後志農場

7.目的
ジャガイモYモザイク病の迅速かつ高精度の検出・診断技術を開発し、本病の発生生態の解明及び防除法の確立を目指す。

8.試験研究方法
1)ジャガイモYウイルス−えそ系統(PVY-T)を精製して、本ウイルスに対するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を作製する(北海道農試、日本たばこ産業)
2)PVY-T抗体を用いて検出精度の高いウイルス検定法を開発する(北海道農試)。
3)PVY-T(えそ系統)とPVY-0(普通系統)系統の判別法を開発する(北海道農試)。
4)ジャガイモ品種によるYモザイク病の診断用指標系統を作出し、ウイルス系統の判別に利用する(北海道農試)。
5)各種検定植物に汁液接種して、その病徴反応からPVY-TとPVY-O系統の生物学的判別法を確立する(北海道農試)。

9.結果の概要・要約
1-1)PVY-Tモノクローナル抗体の作製(日本たばこ産業):ハイブリドーマからPVY-Tモノクローナル抗体5T2を選択した。ELISA検定により、本抗体はPVY-Tに特異的に反応することが確認された。精製した本抗体(r-グロブリン)を以下の試験に供試した。
1-2)PVY-Tポリクローナル抗体の作製(北海道農試):精製したPVY-Tを家兎に注射して力価1,280倍の抗血清をえた。本坑血清を精製し、以下の試験に供試した。
2-1)PVY-Tを簡易に検定するために、ゼラチン粒子凝集法(PA法)の最適条件を確立したゼラチン粒子感作時の抗体最適濃度:PVY-Tポリクローナル抗体は200μg/mL、同モノクロー ナル抗体は50μg/mLで明瞭な陽性反応が確認された。
ジャガイそ葉の最適磨砕用緩衝液:0.1Mリン酸緩衝食塩水-0.1%仔牛血清アルブミン(PBS-BSA)で試料葉を磨砕した場合、非持異反応が見られず、有効であった。
ジャガイモ葉の粗汁液最適希釈倍数:健全葉粗汁液を100倍に希釈すれば、非特異反応は見られなかった。
PVY-T罹病ジャガイモ葉粗汁液中のウイルス検出希釈限界:PA法によりPVY-Tポリクローナル抗体で感作した場合、粗汁液の1,600倍希釈まで、同モノクローナル抗体では3,200倍希釈までウイルスを検出できた。PA法はELISA法に比較するとウイルス検出精度の点では劣るが、操作手順の簡便性・迅速性で優れており、PVY-T簡易検定法として有効である。
2-2)プロテインAで前処理したPA法の最適条件を確立した。本法によりPVY-Tポリクローナル抗体で感作した場合、罹病ジャガイモ葉粗汁液の3,200倍希釈まで、同モノクローナル抗体では6,400倍希釈までウイルスを検出できた。本法はプロテインAを前処理しないPA法に比べ低濃度抗体の使用が可能となり、さらにウイルス検出精度も向上したが、対照となる健全葉粗汁液の陰性反応がやや不明瞭であった。
3-1)PVY系統間の血清学的判別:寒天ゲル内二重拡散法により、PVY-T抗血清に対してPVY-TはPVY-Oとの間に分枝線を形成した(図1)。本法により両系統を判別することが可能である。
3-2)罹病タバコ葉粗汁液中のPVY-TとPVY-Oの物理的性質の比較:両PVY系統の耐熱性と耐希釈性では差異が認められなかった。PVY-Tの耐保存性は50日間以上、PVY-Oのそれは3日間であった。耐保存性の差異を比較すれば、両系統の判別が可能である。
4)ジャガイモ品種によるYモザイク病の診断用指標系統の作出:ジャガイモ18品種にPVY-TとPVY-0を単独接種した後病徴を比較検討したが、両系統を確実に判別することは困難で あった(表1)。道内の圃場で採集した無症状のジャガイモ4品種からPVY-Tが単独で検出されたことから、圃場での肉眼観察によるPVY-Tの検定は非常に困維である。
5)PVY-T検定用植物の選定(表1):生物検定植物としてタバコ、Chenopodium amaranticolor及びピーマンを用いれば、病徴反応からPVY-TとPVY-Oを判別することが可能である。

1O.成果の具体的数字


図1 PVY-T及びPVY-Oの血清学的関係
    T:PVY-T
    O:PVY-O
    H:健全タバコ葉の粗汁液
    AsT:PVY-T抗血清

表1 PVY-T及びPVY-Oによる各種植物の病徴
植物 病徴
PVY-T PVY-O
Nicotiana tabacum
  var.Xanthinc LL,VC,VN,NS VC,VB
    WhiteBurley LL,VC,VN,NS VC,VB
N.glutinosa VC,m VC
Physalis floridana VC,St LL,VC,St
Chenopodium amaranticolor - LL
Capsicum annuum(ピーマン) - LL
Solanum tuberosum(ジャガイモ)
  var.男爵薯 LL,ns LL,M,NS,VN
    メークイン LL,M LL,M
    紅丸 LL,ns LL,M,VN
    ワセシロ LL,VN LL,NS,VN
LL:局部病斑、VC:葉脈透化、VN:葉脈えそ、VB:葉脈緑帯、
NS:えぞ斑点、M:モザイク、St:わい化、小文字は弱い症状

11.成果の活用面と留意点
PA法は種苗管理センターでPVY-Tの簡易検定に利用予定。
ゼラチン粒子凝集法は酵素結合抗体法に比べ、ウイルス検出精度が劣るため、その利用場面には留意する必要がある。

12.残された問題とその対応
PA法によるPVY検定の実施に当り、PVY抗体と感作ゼラチン粒子の供給を受け持つ機関の確立。