1.課題の分類 家畜衛生 豚 微生物感染共通 北海道 畜産 2.研究課題名 豚胚(受精卵)移植技術の実用化に関する試験 3.予算区分 道費 4.担当 滝川畜試 研究部 衛生科・養豚科 5.研究期間 昭和63〜平成2年 6.協カ・分担関係 なし |
7.目的
今日の養豚は、マイコプラズマ性肺炎や萎縮性鼻炎などの慢性感染症により著しく生産性を低められており、その抜本的な対策としてSPF豚の利用が進められている。適切な方法で子宮から回収された胚は無菌的であり、胚の状態でSPF豚群に導入することにより、種々の感染症の持ち込みを極力少なくすることができる。加えて胚移植では、同一母豚を短期間に反復手術して利用することが可能であることから、SPF豚群への遺伝資源導入法と
してその技術の確立が求められている。そこで、SPF豚の維持及び作出に必要な実用技術としての胚移植技術の確立を図る。
8.試験研究方法
1)発情処理法の検討
2)胚の回収・移植のための開腹手術術式の確立
(1)手術手技の確立
(2)供試豚の回収・移植手術への反復利用性
3)胚回収法の検討
4)胚移植による産子生産の検討
(1)新鮮胚移植による受胎率の検討
(2)空輸胚の移植による子豚生産の検討
9.結果の概要・要約
1)離乳とPMSG注射を組み合わせた場合、88.1%の豚が離乳後6日以内に発情を発現し、特に4〜5日目に78.6%の豚が集中した(図1)。この結果から本法の発情処理法としての有効性が確認された。
2)胚の回収・移植に必要な開腹手術手技を確立した。手術は術者1名で行え、反復手術回数は術野の化膿や子宮の癒着がない場合4回以上可能であると考えられた(表1)。
また1組の移植に要する薬剤などの消耗性経費は、2〜3万円であった。
3)胚回収時の子宮角の環流長を検討したところ、子宮角先端から70cmを環流した時の胚回収率が72.9%であったのに対し、ほぼ全長を環流した場合には86.6%とより良好な回収率が得られた(表2)。
4)Day5または6の新鮮胚を移植したところ受胎率は67%(6/9)であり、受胎豚での移植胚数
に対する産子数の割合は48.3%(42/87)であった(表3)。
この成績から新鮮胚移植によって十分実用的な受胎率・産子数が得られることが示された。
5)輸送時間が6〜8時間、培養時間が17.4時間以内の条件下で空輸胚の移植を行ったところ、10頭中3頭が受胎し、胚の遠隔地への輸送・移植が可能であることが実証された(表4)。
10.主要成果の具体的数字
図1 PMSG処理豚の離乳後発情発現日
表1 胚の回収・移植手術への反復利用性
手術回数 | 供試中止の理由(頭数) |
1 | 無完備(1) |
2 | 卵巣嚢腫など繁殖障害(3) 術創の化膿(2),卵巣,子宮癒着(1) |
3 | 試験終了(1),術創の線維化(1) |
4 | 試験終了(1) |
表2 子宮角環流長と胚の回収率
処理区 | 頭数 | 排卵数* | 回収胚数 | 回収率 |
70cm区 | 10 | 273 | 199 | 72.9% |
全長区 | 15 | 320 | 277 | 86.6% |
表3 新鮮胚移植による受胎・産子成績
区分 | 頭数 | 移植胚数 | 産子数 | 移植胚数に対す る子豚の割合 |
||
合計 | 平均 | 合計 | 平均 | |||
受胎 | 6 | 87 | 14.5 | 42 | 7.0 | 48.3% |
不受胎 | 3 | 54 | 18.0 | 0 | 0.0 | 0.0% |
全体 | 9 | 141 | 15.7 | 42 | 4.6 | 29.8% |
表4 空輸胚移植による受胎豚の分娩成績
輸送 時間 |
培養 時間 |
移植胚数 | 受 胚 豚 |
産子数 |
輸送+追加 | 輸送+追加 | |||
6.0hr | 16.7 | 8+4 | R19 | 7+4 |
6.0 | 17.4 | 10+4 | R20 | 5+1 |
7.7 | 14.3 | 14+0 | R24 | 12+0 |
11.成果の活用面と留意点
本技術はSPF豚群への種豚導入法として用いることができるが、その際には下記の点に留意する必要がある。
1)各種抗体検査を実施するなど供胚豚の感染症罹患状況を事前に把握しておくこと。
2)胚回収手術は、供胚豚からの汚染を防ぐよう消毒および無菌操作を心がけること。また、手術に用いるものは確実に滅菌すること。
3)回収された胚は、供胚豚から隔離された環境で培養液で液と器具を交換しながら10回程度洗浄し、輸送容器にいれること。輸送容器は移植先で包装に触れずに取り出せるような工夫をすること。
4)受胚豚は移植後一定期間の隔離・観察と必要に応じて抗冷検査を実施すること。
12.残された問題とその対応
1)胚を介した感染症伝播の可能性について基礎的な検討が必果である。
2)豚胚移植の応用範囲を拡大するために、胚の凍結保存技術および体外受精技術の確立が早急に望まれる。