1.課題の分類 北海道 畜産 乳牛 育種 根釧農試 2.研究課題名 乳牛淘汰に関する酪農家の意識調査 (飼料利用性を考慮した初産牛の選抜法の確立に関する試験) 3.予算区分 道費 4.研究期間 (昭和63〜平成4年) 5.担当 根釧農試 酪農第一科 6.協力・分担関係 なし |
7.目的
乳牛の実用的な選抜法の確立をはかるための基礎資料を得る目的で、全道を対象に酪農家における初産牛の淘汰更新に関するアンケート調査を行う。
8.試験研究方法
乳牛更新の実態調査(昭63〜平元年)
各支庁の乳牛生産頭数で比例配分し、道内酪農家2,755戸に農業改良普及所の協力によりアンケート調査用紙を配布した。調査内容は種雄牛選択時の着目形質、更新用着雌牛導入理由、淘汰要因および時期など、初産牛更新の実態を中心に、乳牛更新計画の基準策定に関すると思われる項目とした。
9.結果の概要・要約
1)回収したアンケートは1,637戸で、回収率は59.4%であった。
2)種雄牛の選択項目では、乳量と脂肪率の第1,2位合計選択率は81%以上と、ほとんどの酪農家がこの2形質に着目していることがうかがわれた。次いでPD(期待差)円とSNF率がほぼ同様のスコア値(選択度数に重み付けた値)であったが、SWF率が第1位として選択される確率はPD円の1/3以下であった。さらに、今後の改良の重点とされている。乳蛋白質率に関する関心は極めて低かった(表1)。
3)育成牛および受胎済み未経産牛の導入時の着目形質については、価格、父牛のPD、水牛の発育および体型と、血統による選択頻度が高かった。本牛のPI・GI(推定遺伝能力)や母牛のCI(雌牛指数)は低いスコア値であったが、それらに着目したなかでは第1,2位への選択率が31%〜46%あり、上位項目の要件が満たされる場合には、これらも考慮する余地があることが推察された(表2)。
4)初産牛および経産牛淘汰理由の着目形質の第1位は乳量で、スコア値も極めて高かった(表3)。以下、不受胎、脂肪率、体細胞数および疾病が上位を占めた(スコア値の63〜72%)。その他の着目形質では、足・腰・肢蹄の故障および搾乳性(しぶい)が共通していた。一方、初産牛では気質(荒く危険)、経産牛はCI・PA(生産指数)円に着目する割合が高かった。
5)以上のような雌牛の導入および淘汰に関する着目形質の選択傾向から、初産牛については乳量、脂肪率を優先させつつ、体細胞数や疾病とともに気質等の管理形質を重要視する状況がうかがわれ、経産牛では初産牛に比べ体細胞数や疾病のスコア価がそれらより高<、乳牛衛生に関連する牛群管理上の問題点が推察された。
牛群の遺伝的改良は、種雄牛側からのみならず、雌牛側からの遺伝子の流入も考慮すべきであり、導入雌牛のPI・GIや母牛のCIについても重視すべきである。そのことを認識しCI円に着目した酪農家の比率は全体で約14%存在し、第1位選択率が55〜57%と高く牛群の遺伝的改良を目指す指導が定着しつつある現状が認められた。
10.主要成果の具体的数字
表1 種雄牛選定時の着目形質
順位 | 形質 | スコア値 | 度数 | 1位選択率,2位選択率 |
1 | 乳量 | (4920)* | 1414$ | (67.0, 18.4%)S |
2 | 脂肪率 | (4425) | 1487 | (20.9, 60.5%) |
3 | PD円 | (1640) | 657 | (30.7, 13.4%) |
4 | SNF率 | (1237) | 638 | (9.4, 15.8%) |
5 | 娘牛の体型 | ( 894) | 529 | (6.8, 12.9%) |
6 | 血統 | ( 795) | 453 | (7.5, 9.1%) |
7 | 本牛の体型 | ( 600) | 337 | (5.3, 12.9%) |
8 | 搾乳性 | ( 584) | 358 | (4.5, 9.8%) |
9 | 乳蛋白質率 | ( 362) | 232 | (0.9, 9.1%) |
10 | PI又はGI | ( 46) | 27 | (3.7, 11.1%) |
11 | 年齢 | ( 32) | 18 | (5.6, 16.7%) |
12 | 産肉性 | ( 16) | 12 | (0.0, 8.3%) |
表2 雌牛導入理由
順位 | 育成牛 | 受胎済み未経産牛 | ||||||
1 | 価格 | (291)* | 154$ | (34.4,20.1%)S | 価格 | (563) | 280 | (31.4,38.2%) |
2 | 父牛の能力(PD) | (261) | 114 | (55.3,18.4%) | 父牛の能力(PD) | (493) | 210 | (56.7,21.4%) |
3 | 本牛の発育 | (250) | 120 | (26.7,55.0%) | 本牛の体型 | (460) | 233 | (32.6,32.2%) |
4 | 本牛の体型 | (224) | 111 | (32.4,36.9%) | 血統 | (354) | 162 | (38.9,40.7%) |
5 | 血統 | (224) | 105 | (41.9,29.5%) | 母牛のPA | (132) | 56 | (50.0,35.7%) |
6 | 母牛のCI | (64) | 35 | (20.0,42.9%) | 父母牛の体型 | (86) | 41 | (39.0,31.7%) |
7 | 父母牛の体型 | (61) | 27 | (37.0,51.9%) | 母牛のCI | (84) | 55 | (10.9,30.9%) |
8 | 本牛のPI・GI | (19) | 9 | (44.4,22.2%) | 本牛のPI・GI | (60) | 37 | (8.1,45.9%) |
9 | 母牛のPA | (18) | 12 | (0.0,50.0%) |
表3 淘汰時の着目形質の順位
順位 | 初産牛 | 経産牛 | ||||||
1 | 乳量 | (3286)* | 1015$ | (56.0,3.5%)S | 乳量 | (3049) | 1017 | (46.9,22.9%) |
2 | 不受胎、繁殖障害 | (1892) | 788 | (21.7,23.6%) | 不受胎、繁殖障害 | (2451) | 954 | (26.4,25.2%) |
3 | 脂肪率 | (1636) | 594 | (26.6,37.7%) | 体細胞 | (2090) | 840 | (18.7,31.5%) |
4 | 体細胞 | (1288) | 558 | (13.6,27.1%) | 脂肪率 | (1478) | 551 | (16.9,35.6%) |
5 | 疾病 | (1104) | 420 | (27.4,27.6%) | 疾病 | (1390) | 531 | (29.8,23.7%) |
6 | 気質(危険) | (1032) | 460 | (15.4,23.3%) | 足・腰・肢蹄の故障 | (1066) | 552 | (7.4,22.3%) |
7 | 足・腰・肢蹄の故障 | (1001) | 491 | (10.4,20.4%) | 搾乳性 | (696) | 322 | (9.6,28.9%) |
8 | 搾乳性 | (985) | 421 | (13.5,33.5%) | CI円又はPA円 | (622) | 202 | (56.9,12.9%) |
9 | 体型(乳房形状) | (843) | 448 | (10.3,15.8%) | 気質(危険) | (530) | 241 | (16.6,18.7%) |
10 | CI円又はPA円 | (606) | 192 | (54.7,18.8%) | 体型(乳房形状) | (482) | 281 | (6.0,13.2%) |
11 | 血統(父牛のPD) | (318) | 122 | (19.7,33.6%) | 連産性 | (209) | 99 | (16.2,16.2%) |
12 | 母牛のCI又はPA | (312) | 122 | (19.7,33.6%) | SNF率 | (193) | 90 | (4.4,26.7%) |
13 | SNF率 | (251) | 112 | (6.3,32.1%) | 血統(父牛のPD) | (100) | 46 | (8.7,26.1%) |
14 | 乳蛋白質率 | (41) | 23 | (0.0,13.0%) | 母牛のCI又はPA | (94) | 43 | (9.3,30.2%) |
15 | 産肉性 | (12) | 7 | (0.0,29.6%) | 乳蛋白質率 | (58) | 30 | (0.0,23.3%) |
16 | その他 | (78) | 産肉性 | (25) | 11 | (18.2,9.1%) |
11.成果の活用面と留意点
◎牛群の遺伝的改良に対する意識がやや低い酪農家に対し、雌牛指数およぴ種雄牛能力による、牛群の遺伝的更新を目指した形質を重視する指導が重要である。特に、乳固形分への関心がやや低いため、遺伝率の高い乳蛋白質率またはSNF率に着目した淘汰を指導する必要が望まれる。
◎種雄牛の選択は、牛群に及ぼす影響が大きいため長期的目標を定めつつ決定する必要がある。現状の酪農家の意識が、まだ乳量中心であることが認められたが、北海道家畜増殖計画(平成7年度目標)にもあるように、今後は乳固形分率向上を目指すぺきであり、乳成分を取り込んだ総合指数(経済効果、SCM乳量或いはPCM乳量等)の利用を更に普及定着させ、より品質の高い牛乳生産を目標とすべきである。
◎雌牛導入に際しては、父牛のみならず母牛の遺伝的能力を考慮し、牛群全体の遺伝的レベルを向上させるように指導する必要がある。
◎受精卵移植による改良速度改善効果(MOET中核育種集団の利用等)が指摘され、管理上の理由で淘汰対象とする雌牛でも遺伝的に優れた牛は、供卵牛に活用するなどの配慮が、検討される必要がある。
12.残された問題と対応