1.課題の分類 北海道 畜産 乳牛 飼養 根釧農試 2.研究課題名 βカロチンおよびビタミンA製剤の乳牛に対する添加効果に関する試験 (高栄養牧草サイレージ主体飼養における補助飼料の効果的給与法に関する試験) 3.予算区分 道単 4.研究期間 (昭和61年〜平成元年) 5.担当 根釧農試 酪農第二科、酪農第一科 6.協力分担 なし |
7.試験目的
牧草の生育ステージや調製条件が粗飼料中のβカロチン含量に及ぼす影響を検討するとともに、租飼料中のβカロチン含量が高い場合と低い場合でのβカロチンおよびビタミンA製剤の添加効果について検討する。
8.試験方法
(1)牧草の調製条件が粗飼料中のβカロチン含量に及ぼす影響(昭61〜平元年)
(2)βカロチン製剤の添加が分娩前後の乳牛に及ぼす影響(昭61〜昭62年)
(3)ビタミンA製剤の添加が分娩前後の乳牛に及ぼす影響(昭63〜平元年)
9.結果の概要・要約
(1)牧草の生育ステージや調製条件の違いがβカロチン含量に及ぼす影響を検討した結果、
ア)青刈り生草の1、2番草やロールペールサイレージの1番草では、生育ステージが進むとβカロチン含量がほぼ直線的に低下したが、青刈り生草の3番以降およぴロ一ルペールサイレージの2番草では一定の傾向はみられなかった(図1)。
イ)低水分サイレージや乾草の調製過程でβカロチンは大きく減少し、その含量(Y㎎/㎏/DM)は次の2次曲線で表された(図2)。Y=234.8-219.3×(1nX)+55.8×(1nX)2
r=0.98 LnX=自然対数(刈取後日数+1)しかし、予乾1〜2日で調製された適期刈りの中水分サイレージでは調製中のβカロチンの損失は原料草の44〜64%にすぎなかった。
さらに、調製後の発酵羊よび貯蔵中にも牧草中βカロチン含量は損失した。
(2)牧草サイレージ中のβカロチン含量が高い場合(107mg/㎏/DM)と低い場合(31㎎/㎏/DM)でのβカロチン製剤の添加(500㎎/日)効果について検討した結果、
ア)低βカロチン飼料給与牛へのβカロチン製剤添加により、種付け適期となる分娩後3回目の排卵までの日数や受胎までの日数が短縮され、繁殖性向上への効果がうかがえた(表1)
イ)血液中βカロチン濃度はβカロチン摂取量を反映し、低βカロチン飼料給与の無添加牛では、繁殖障害が起こるといわれる臨界値200ug/dL(BLOCK,1987)を下回った(図3)。
ウ)血液中および初乳中のβカロチン濃度は粗飼料や添加剤などによるβカロチン摂取量を反映し、新生子牛の血液中濃度にも影響した。
(3)牧草サイレージ中のβカロチン含量が高い場合(110mg/㎏/DM)と低い場合(23㎎/㎏/DM)でのビタミンA製剤の添加(10万IU/日)効果について検討した結果、
ア)ビタミンA製剤の添加の有無による血液中のビタミンAおよびβカロチン濃度には差が見られず、分娩から1週間を除きいずれの区も安全な最適値とされる25Ug/dL(臨床獣医学、1981)を上回った(図4)。これはビタミンAが肝臓にかなり貯蔵されているため、摂取量
の違いが直接的には血液ビタミンA濃度に反映しなかったものと推察される。
イ)繁殖性向上および乳房炎予防の効果は判然としなかった(表2)。
10.主要成果の具体的数字
図1 青刈生草の生育ステージ別βカロチン含量
図2 粗飼料調製中のβカロチン含量の
低下を示す2次曲線
図3 βカロチン製剤添加による血液中βカロチン濃度の推移
表1 βカロチン製剤の添加と繁殖成績
処理 | 分娩後の排卵状況 | 種付け状況 | 子宮 復古 |
||||
初回 | 2回 | 3回 | 初回 | 最終 | 回数 | ||
高βカロチン飼料 | 日 | 日 | 日 | 日 | 日 | 回 | 日 |
添加区(4) | 21 | 36 | 62 | 79 | 91 | 1.5 | 40 |
対照区(5) | 26 | 48 | 66 | 72 | 101 | 2.0 | 41 |
低βカロチン飼料 | |||||||
添加区(4) | 25 | 42 | 68 | 80 | 103 | 1.7 | 42 |
対照区(5) | 25 | 45 | 84 | 74 | 120 | 1.8 | 43 |
表2 ビタミンA製剤の添加と繁殖成績
処理 | 分娩後の排卵状況 | 種付け状況 | 子宮 復古 |
||||
初回 | 2回 | 3回 | 初回 | 最終 | 回数 | ||
高βカロチン飼料 | 日 | 日 | 日 | 日 | 日 | 回 | 日 |
添加区(4) | 33 | 51 | 68 | 77 | 102 | 2.7 | 47 |
対照区(4) | 26 | 51 | 75 | 82 | 82 | 1.0 | 45 |
低βカロチン飼料 | |||||||
添加区(4) | 21 | 43 | 64 | 63 | 110 | 2.5 | 40 |
対照区(4) | 19 | 41 | 65 | 70 | 97 | 2.3 | 46 |
図4 ビタミンA製剤添加による血液中ビタミンA濃度の推移
11.成果の活用面と留意点
(1)βカロチン含量の低い粗飼料を主体に飼養する場合、特に高産次牛や高泌乳牛ではビタミンの不足から繁殖障害が懸念されるので、βカロチンの添加を考慮する必要がある。(2)生草や良質牧草サイレージ等のβカロチン含量の高い粗飼料が充分給与されている場合には、特にβカロチンの添加は必要ではない。
(3)βカロチンを含む飼科添加剤は本年度許可され、来年度より市販される予定である。
12.残された問題とその対応
(1)ビタミンAおよびβカロチンの体内での代謝メカニズムの究明が必要である。特に、分娩前後の血液中ビタミンA濃度と肝機能との関係を検討する必要がある。
(2)高泌乳牛におけるビタミンEおよび微量ミネラルの摂取量と繁殖の関連を検討する。