【指導参考事項】
試験成績概要書                       (作成 平成3年1月)
1.課題の分類  家畜衛生 牛 栄養代謝障害 新得畜試
          北海道 家畜
2.研究課知名  北海道におけるセレン欠乏の実態と子牛白筋症の予防対策
           (子牛の白筋症防止に関する試験)
3.予算区分  道単
4.研究期間  昭和62〜平成3年
5.担当  新得農試 衛生科、肉牛科
6.協カ・分担関係  なし

7.目的
北海道における肉専用種牛のセレン(Se)欠乏の実態を明らかにするとともに子牛白筋症の予防法を策定する。

8.試験研究方法
 (1)北海道における牧草および牛血清Se濃度の実態
 (2)子牛白筋症発症要因の検討
 (3)子牛白筋症予防法の検討

9.結果の概要・要約
(1)道内40市町村における牛血清Se濃度および牧草中Se含量を調査した結果、血清Seが20ppb以下の欠乏値を示した地区が、成年で18(45%)、子牛で31地区(79.5%)、牧草中Seが0.02ppm以下の著しい低値を示した地区が21地区(55.3%)あり,全道的に著しいSe欠乏状態にあった。
(2)不飽和脂肪酸(エイコサペンタエン酸)投与により、低Se、低ビタミンEの子牛では全例に、高Se、高ビタミンEの子牛でも3頭中1頭に筋変性または筋変性を示す血清酵素活性の 著しい上昇が認められた。
(3)-1.分娩前の母牛に対する第2胃内留置Seペレット(鉄との合金、Se10%含有)2個の投
与は、長期にわたり母、子牛の血清Seの低下を抑え、簡便かつ有効な白筋症予防法と考
えられた。
(3)-2.Se固型塩(Se:2.5mg/kg)の舐食は、成年および子牛の血清Seをある程度上昇させ
る効果があったが、この固型塩単用による予防は難しいと考えられた。しかし、子牛に
対するSe、ビタミンE注射液の投与(出生直後、1mL)と併用することにより白筋症の予防が可能であった。
(3)-3.フスマのSe含量は、比較的高濃度であるが、製品によるぱらつきが大きかった。母牛
に対するフスマの給与は、Seが約2倍量の亜セレン酸ナトリウム投与と同等の子牛血清
Se、血液GSH-Pxの上昇効果があった。
(3)-4.Se、ビタミンE注射液の2mL1回(出生直後)投与と1mL2回(出生直後と3週後)
投与とでは、生後6、8週における血清Seに差はなかった。
(3)-5.出生直後におけるSe、ビタミンE注射液2mLの投与により、少なくとも9週間程度は
白筋症を予防できた。また子牛に対するSe高含有酵母の給与を併用することによりさら
に長期にわたった予防が可能と考えられた。
(3)-6.母牛に対するSe高含有酵母(パン酵母)の投与は、Seとして等量の亜セレン酸ナトリ
ウム投与と比べて母牛の乳汁中Seおよび子牛の血清Se、血液GSH-Pxをより著明に上昇
させ,白筋症予防に有効であった。

10.成果の具体的数字


図1 道内各地における成牛の血清Se濃度


図2 道内各地における子牛の血清Se濃度


図3 道内における牧草中Se含量分布


図4 Se酵母および亜セレン酸ナトリウム
   投与後における子牛血清Seの推移


図5 子牛白筋症予防プログラム

11.成果の活用面と留意点
(1)道内は、ほとんどがSe欠乏状態にあるが予防対策実施の必要性については、今回の実態調査の結果を参考とし、過去における白筋症発症状況なども考慮して判断する。
(2)フスアは比較的Se含量の高い飼料で、その給与は血清Seを上昇させる効果があるが、製品によりSe含量のぱらつきがあるので留意する必要がある。
(3)Se、ビタミンE注射液の対象動物は、現在馬のみとなっているため、薬事法83条の2の規定にもとづいて使用することが必要である。
(4)Se含有酵母(パン酵母)はSe含量が著しく高いことから、投与および管理については十分注意する必要がある。
(5)不飽和脂肪酸を多く含む油脂が添加された飼料の子牛への給与は、白筋症発症の誘因となるので注意を要する。

12.残された問題とその対応
(1)Se欠乏が免疫機能に及ぼす影響
(2)Se欠乏と胎盤停滞発現との関係