【指導参考事項】
成績概要書                       (作成平成2年12月)
1.課題の分類  草地 試料生産・利用 粗試料評価 B-6
          畜産 乳牛 栄養飼料 北農試
          北海道 家畜草地合同
2.研究課題名  ADF及びNDFによる混合飼料中繊維の評価
          (トウモロコシサイレ一ジと牧草類の合理的組合せ利用方式の確立)
3.予算区分  経常
4.研究期間  完(昭和54-平成2年)
5.担当  北農試草地部飼料調製研究室
6.協力・分担関係

7.目的
反芻家畜にとって繊維成分は栄養源であると共に、咀嚼、反芻、唾液分泌を促進し、第一胃機能を正常に保持するためにも必要である。従って、繊維を評価するためには第一胃内発酵安定を考慮した面からも検討する必要がある。本試験ではADF及びNDFに分画される繊維成分の性質に注目して、混合飼料中の粗飼料繊維の性質が、飼料の消化率および第一胃液性状に及ぼす影響について検討した。

8.試験研究方法
生育時期が異なるイネ科及びマメ科主体サイレージを粗飼料源とした混合飼料について、乳牛を供試して消化試験(1群4頭×47処理)を実施し、繊維水準および給与水準(体重比1%、3%)が消化率、TDN含量および第一胃液性状に及ぼす影響について検討した。混合飼料のCP含量は16%前後とした。

9.結果の概要
1)1%給与水準では、混合飼料とそれを構成する各原料のTDN含量の間に相加性が成立した(図1)。また、ADF(灰分除去〉含量は、混合飼料のTDN含量と高い相関を示し(TDN=105.1-1.23×ADF、r=-0.868**)、混合飼料の栄養価を簡易に予測する可能性を見いだした。
2)3%給与水準は、混合飼料のTDN及び繊維消化率は1%水準に比較して低下したが、粗飼料 原料によりその傾向が異なっていた。また、TDN含量の相加性は低かったが、ADF含量とは有意な相関が認められた(TDN=87.87-0.681×A0F、r=-0.715**)。混合飼料のNDF・ADFの消化率は、イネ科草早刈サイレージを粗飼料源とした場合、粗飼料割合が多い方が高かった。一方、NDFの消化率が低いアルファルファ遅刈混合飼料では、粗飼料割合を低くした方がNDF消化率は高く、飼料全体のTDN含量も高まった(図1)。以上の結果から、下記の様に整理が可能であり、粗飼料の繊維の消化性をもとに、給与量を高めた場合の混合飼料の栄養価の変動が予測できる。
 3%給与水準の消化率は、粗飼料の繊維が
①高消化性(NDF、ADF消化率60%以上)の場合
       (草種:イネ科主体草)
:粗飼料割合の多い方が繊維消化率が高く、1%給
与水準に比べTDN含量の低下も小さい。
②中消化性(NDF、ADF消化率50〜60%)の場合
       (草種:マメ科及びイネ科主体草)
:粗飼科割合に関わらず1%給与水準に対する繊維消
化率の低下は同程度である。
③低消化性(NDF、ADF消化率50%未満)の場合
       (草種:アルファルファ主体草)
:粗飼料割合を低くした方が混合飼料の繊維の消化
率は高い。
3)1%給与水準で実施した消化試験例から、第一胃液と飼料成分との関係を見ると(表1)、pHは、ADF含量と正の相関が、CC含量、デンプン含量と負の相関が認められた。一方、NDFとの相関は相対的に、やや低かった。酢酸のモル比は、NDF含量と正の相関が認められたが、ADF含量との相関は低かった。3%給与水準では、pHは、ADFの方がNDFに比較してより高い相関が得られた。以上のように、第一胃液性状の変動に及ぼす影響はADFはpHと、また、NDF(またはCC)ほ酢酸、プロピオンのモル比と相関が高いことが認められた。このことから、ADFはNDFよりも飼料の物理的な性格をより大きく反映する指標と見なすことができる。また、ADFはTDN含量との相関も高かったことから、簡易に飼料の栄養価を評価する場合はADFの方がNDFよりも有効であると考えられる。

10.成果の具体的数字


図1 サイレージ中繊維成分の性質と、給与水準別混合飼料の消化率ならびにTDN含量との関係
   カッコ内は左からサイレージのNDF消化率(%)、ADF消化率(%)、TDN含量(%DM).
   ○:体重比1%給与水準、●:度3%供給水準

表1 1%給与水準および3%給与水準における混合飼料成分と第一胃液性状の相関係数
  pH アンモニア-N
(mg/dL)
VFA組織(moL%) VFA濃度
(mmoL/dL)
C2 C3 iC4 nC4 iC5 nC5
1%給与水準(n=26)

CC -0.695** 0.554** -0.690** 0.499**         0.574**
NDF 0.536** -0.564** 0.711** -0.559**         -0.611**
ADF 0.631**   0.553** -0.441*          
CP 0.492*       0.540** -0.555**   0.510**  
デンプン -0.698**   -0.435*   -0.498** 0.491*      
3%給与水準(n=14)

CC -0.646*                
NDF 0.546*   0.601*            
ADF 0.804**               -0.619*
CP   0.660*   0.736**   -0.669**      
デンプン -0.775** -0.573*       0.596*      
 **P<0.01,*P<0.05,
 C2:酢酸、C3:プロピオン酸、C4:酪酸、C5:吉草酸、VFA:揮発性脂肪酸

11.成果の活用面と留意点
粗飼料繊維の性質が、濃厚飼料と混合給与したときの飼料の消化率および第一胃液性状に及ぼす影響を明らかにした。とくに、早刈のように繊維消化率が高い粗飼料を用いた場合、濃厚飼料割合を高めると繊維の消化率が低下するので、注意する必要がある。これによって、飼料の摂取量と繊維の消化性の関係および第一胃液の性状を考慮した飼料設計に活用できる。

12.残された問題点の対応
中間的飼料および低品質飼料(ワラ類)の繊維の評価、および、デンプン・糖などの非構造性炭水化物が繊維の消化に及ぼす影響について、今後、検討する必要がある。また、摂取量規制因子としての繊維の評価に関する研究も今後進める必要がある。